母斑(読み)ボハン

デジタル大辞泉 「母斑」の意味・読み・例文・類語

ぼ‐はん【母斑】

皮膚一部に生じる色や形の異常。胎生期の皮膚形成過程で生じ、生涯のさまざまな時期に現れる。あざほくろ多くが含まれる。

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精選版 日本国語大辞典 「母斑」の意味・読み・例文・類語

ぼ‐はん【母斑・母班】

  1. 〘 名詞 〙 一般に先天的に皮膚上に存在する、斑紋の総称。黒色、褐色、青色や、色素脱失を示すものなど種々の色調のものが含まれる。狭義のあざをさす。
    1. [初出の実例]「眼瞼桑椹腫〈略〉冝母班之治法三レ之」(出典:眼科新書(1815‐16)一)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「母斑」の意味・わかりやすい解説

母斑
ぼはん

「母斑は皮膚の組織奇形であって、多少の動きを示すものである」と定義される。以前は「皮膚面の色や形の異常を示す限局性の皮膚組織の奇形で、生涯あまり変わらないもの」とされていた。俗に「あざ」とよばれているものには母斑であるものが少なくない。母斑には、生まれたときからあるもの(先天母斑)と、生後に生ずるもの(後天母斑)とがある。先天母斑はもとより、後天母斑もまた胎生期の早い時点にすでに組織の形態異常が宿命づけられていたものと考えてよい。胎生期に皮膚がつくられる経過をみると、上皮系、間葉系および神経堤系の3要素によって形成されるが、母斑の主成分を調べてみると、これらの3要素のいずれか一つが胎生期にでき損なったものであることがわかる。母斑には遺伝性はなく、その個体限りの異常であると考えてよい。母斑はその主成分が属する胎生期の系列に従って、上皮系、間葉系および神経堤系のいずれかに分類することができる。

[川村太郎]

神経堤系母斑

もっともしばしばみられるもので、なかでも母斑細胞母斑がもっとも多い。母斑細胞母斑のなかでいちばん普通にみられるものは「ほくろ」である。あまり厳密なものではないが、母斑細胞母斑のなかで、直径1.5センチメートル未満のものは後天性、1.5センチメートル以上のものは先天性であるとされている。上下の眼瞼(がんけん)(まぶた)に母斑細胞母斑があって、目をつぶると上下の眼瞼縁で母斑の輪郭がつながって一つの母斑にみえることがある。このようなものを分離母斑という。ヒトの目は胎生期の9週から上下の眼瞼が連続することによって閉じ、15週でふたたび上下の眼瞼が分離して眼裂が生ずるということがわかっている。したがって、分離母斑を形成する異常細胞(母斑母細胞)が神経堤から皮膚にきて定着する時点は、目が閉じている間、すなわち胎生期九週から15週までの間であると考えられている。そして、おそらくほかのすべての母斑細胞母斑でもだいたい同じころに母斑細胞の母細胞が皮膚に定着するものであろう。かりに5、6センチメートルの分離母斑を中等大とすれば、さらに大きいものや著しく大きいもの(巨大母斑)もある。巨大母斑には、たとえば背面の大部分を覆い、さらに躯幹(くかん)前面や四肢にまで及ぶものもある。先天性の大きい母斑がある場合、その母斑から悪性黒色腫(しゅ)が生ずることがあること、また神経皮膚黒色症を併発する場合があることが知られている。

 母斑細胞母斑の治療は大きさで異なる。ほくろの場合には切除縫縮する。大きくなるにしたがって、切除後の修復に種々のくふうが必要となる。太田母斑、青色(せいしょく)母斑、扁平(へんぺい)母斑なども神経堤系の母斑である。扁平母斑は普通あまり大きくなく、親指の先くらいの褐色斑である。

[川村太郎]

上皮系母斑

表皮母斑(疣状(ゆうじょう)母斑)、脂腺(しせん)母斑などがこれに含まれる。表皮母斑は、褐色調が強くて柔らかいものと、褐色調が弱くて硬いものとがある。いずれも小結節が列をなして、一種独特の模様を描く場合が多い。脂腺母斑は頭部や顔面に生ずる場合が多い。初めは周囲の皮膚とほぼ同じ高さであって、やや黄褐色を呈し、頭髪中に生じた場合はそこだけ毛が生えていない。しだいに高まりが増し、不規則な凹凸となる。さらに放置すると、その一部が基底細胞上皮腫になることがある。治療としては、表皮母斑は切除するか、迅速に回転するやすりで削り取る。脂腺母斑は切除する。

[川村太郎]

間葉系母斑

イチゴ状血管腫、単純性血管腫(ポートワイン母斑)、貧血母斑などがある。イチゴ状血管腫および単純性血管腫は、慣習として良性腫瘍(しゅよう)として取り扱われている。貧血母斑とよばれるものは不規則形の指頭大の斑で、周囲の皮膚よりもやや白っぽくみえる。摩擦したり入浴したりして皮膚が赤くなると、貧血母斑のところの皮膚は蒼白(そうはく)のままにとどまるから、著しく明瞭(めいりょう)となる。なお、比較的まれではあるが、表在性脂肪腫性母斑というものがある。これは真皮の組織が脂肪組織で置き換えられ、その部位がエンドウ大まで膨隆して連なり、しばしば黄色にみえる。柔らかくて指圧でたやすくへこませることができる。

[川村太郎]

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百科事典マイペディア 「母斑」の意味・わかりやすい解説

母斑【ぼはん】

皮膚の先天性奇形で,皮膚組織の異常増殖または萎縮(いしゅく)からなる。分類法は多様。色素細胞母斑の小さいものは黒子(ほくろ),大きいものは黒あざと呼ばれる。青色母斑(青あざ)は真皮内のメラニン産生細胞の増殖によるもので,多くはエンドウ豆大まで。白斑性母斑は不完全な色素脱失による。上皮細胞の異常によるものには,角質の増殖を伴いしばしば片側性で一定の配列を示す硬母斑や,【ざ】瘡(ざそう)様母斑,脂腺母斑などがある。そのほか結合織母斑,血管性母斑(血管腫),貧血性母斑など。母斑または母斑様病変が皮膚以外の器官にも生じるものを母斑症と呼ぶ。
→関連項目液体窒素療法前癌状態皮膚病

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「母斑」の意味・わかりやすい解説

母斑
ぼはん
nevus

俗にあざという。先天的要因による皮膚組織の奇形腫的病変で,皮膚の色調あるいは形態の変化を伴う。色調の変化を伴うものに血管性母斑 (血管腫,赤あざ) ,色素性母斑 (黒あざ) ,青色母斑,白斑性母斑 (ぶち病) ,貧血性母斑などがある。形態学的変化を伴うものは表皮性母斑 (いぼ状母斑) ,脂腺母斑,面疱母斑,表在性脂肪腫性母斑,軟骨母斑などである。母斑の一部には,腫瘍の性状を有するものもある (母斑性腫瘍) 。

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改訂新版 世界大百科事典 「母斑」の意味・わかりやすい解説

母斑 (ぼはん)

(あざ)

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世界大百科事典(旧版)内の母斑の言及

【あざ(痣)】より

…皮膚にみられる赤,青,褐色などの斑で,皮下出血や湿疹が治ったあとの褐色の色素沈着など一時的なものをさすこともあるが,普通には先天的な皮膚の奇形である母斑nevusをさし,ほくろもこの一種である。母斑の多くは自然に消えることはない。…

※「母斑」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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