改訂新版 世界大百科事典 「盗人神」の意味・わかりやすい解説
盗人神 (ぬすびとがみ)
盗人神あるいは盗人宮という俗称で呼ばれている神社が各地にある。神社の境内に逃げこんだ盗人を神がかくまったという伝説が付いている。千葉県市原市武士(たけし)の建市(たけし)神社では,神が盗人を守護するので,賊がこの地に隠れると見えなくなるという伝えがある。おそらく,特定の神社の境内にはいると,盗人も神社の裁量で処置できた習慣があったなごりであろう。長崎県対馬のテンドウ神の聖地について,朝鮮の申叔舟(しんしゆくしゆう)の《海東諸国紀》(1471)には,罪人が聖地に逃げこむと,あえて追捕しないとある。これは,そうした習慣の古い実例であろう。盗人神は,多くはその地域の有力な神社である。市原市の建市神社や岡山県御津郡大野村(現,岡山市)の戸隠宮はじめ,中世以来の郷の鎮守神であった神奈川県横浜市の青木神社はそのよい例である。権威の強い神社が盗人神に該当したのであろう。
執筆者:小島 瓔禮
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報