改訂新版 世界大百科事典 「直物為替先物為替」の意味・わかりやすい解説
直物為替・先物為替 (じきものかわせさきものかわせ)
spot exchange, forward exchange
外国為替には,売買契約と同時または数日中に外国為替と自国通貨の受渡しが行われる直物為替と,契約後の一定期日に受渡しが行われる先物為替がある。これら二つの相場(直物相場,先物相場)には,通常,差があるが,この差を直先(じきさき)スプレッドという。先物為替の場合でも,為替相場や取引数量などは契約時点において定められ,ただ受渡しが将来の一定期日になされるのである。先物為替の売買契約のことを為替予約といい,予約期間ないし先物期間は,通常1~3ヵ月で長くとも6ヵ月以内が一般的であり,それ以上長期にわたる場合はまれである。
為替取引において先物予約が行われる基本的な理由は,為替リスク,すなわち為替相場の変動による危険を回避するためである。一般に国際経済取引では,契約から決済までに相当の期間を要するのが普通である。契約が自国通貨建て(円建て)で行われる場合は別として,外国通貨で決済が行われるとすれば,決済時点の為替相場がどうなっているかによって,自国通貨(円)での決済金額が大きく変化し,その結果損失をこうむる場合もありうる。この危険を回避するために,決済がなされる期日の先物で同額の外貨を売買することにより,契約時点において自国通貨で決済金額を確定することができ,為替リスクを回避することができる。このような為替リスクを回避するための取引を為替ヘッジという。より具体的には,貿易取引の場合と金利裁定取引の場合とに分けて考えることができる。貿易取引の場合,輸出業者は輸出代金分の外貨を,その支払われる期日の先物で売っておくことにより,また輸入業者は決済に必要なだけの外貨を買っておくことにより,それぞれ為替リスクを回避することができる。金利裁定取引の場合は,投資してから資金を回収するまでに為替相場が変動するリスクがあるため,投資した時点で回収する外貨分の先物売予約をしておく必要がある。したがってこの場合は,投資のための直物取引と同時に,同額で反対の先物予約を行うのが一般的であり,これをスワップ取引という。
以上のような為替リスク回避のための先物為替の利用とは別に,かえって為替相場の変動を利用して利益を得ようとする先物取引もある。これが先物為替を利用する投機である。たとえば,将来外国為替の価格が上昇すると予想され,かつ先物為替の価格がそれほど高くないとしよう。このとき先物為替の買予約をしておき,将来外国為替の価格が上昇したときに予約した外国為替を買い,即座にそれを直物で売りに出せば,その差益をおさめることができるのである。もちろん,予想どおりに外国為替の価格が上昇しなければ損失をこうむることになる。
→為替相場
執筆者:奥村 隆平
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報