生物の成長に関して,からだ全体の成長と部分(器官)の成長との関係,ある部分の成長と他の部分の成長との関係,あるいは体重の増加と身長の増加のように異なる次元の成長の関係を相対成長という。成長における形態の変化を表すもので,D.W.トムソンの著書《生長と形Growth and Form》(1917)に端を発し,イギリスのJ.S.ハクスリーとフランスのテシエTeissier(1900-72)によって一般化された。前者は不等成長heterogony,後者は不調和成長disharmonic growthの語を用いたが,後にアロメトリーallometry(異調律,相対成長)に統一された。成長系の二つの部分の大きさxとyの関係は経験的に,y=bxαの式で表されることを,両者が独立に見いだした。bおよびαは定数で,bは初成長指数,αは平衡定数とよばれる。xとyとは両対数グラフで直線関係を示す。式を時間tに関して微分すると,となり,比成長率の比が一定であることを示す。トムソンは近縁の種間の形態の違いを座標軸のゆがみで説明した。よく知られた例では,魚のフグ目のハリセンボンとマンボウはひじょうに異なった形態をしているが,ハリセンボンを原型としてその垂直座標軸を同心円に,水平座標軸を双曲線に変形すると,マンボウの姿になる。つまり,ハリセンボンは頭部が発達しており,マンボウは尾部とひれが発達したもので,この差異は体の各部分の比成長速度の違いによって生じたとしてとらえることができる。
執筆者:能村 哲郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
生物体の全体の成長と部分(器官)の成長、あるいは体重と体長(身長)のような成長に関する相対的な関係のこと。非比例的成長ともよばれる。成長は生物の大きさだけでなく形をも規定する。すなわち、ある部分の成長速度がほかの部分より速いと、体のプロポーションが変わり、形が変化する。この問題はイギリスの生物学者トムソンW. D'Arcy Thompsonの著書『成長とかたち』On Growth and Form(1917)に始まり、1920年代よりイギリスの生物学者J・S・ハクスリーやフランスの動物学者テシエG. Teissierがそれぞれ独自に発展させ、アロメトリーの式y=bxα(アルファ)を提唱した。yは部分の大きさ、xはほかの部分またはその部分を除いた残り全部、あるいは全体を表す場合もある。bとαは定数で、bは初成長定数、αは相対成長定数。ある部分の成長速度が体全体のそれと同じ場合α=1で等成長という。不等成長にはα>1の優成長とα<1の劣成長が区別される。
この式の適用には種々の問題があるが、普通、両辺対数のグラフで表され、近似的には多くの場合に当てはまるので広く用いられる。このグラフにおける直線の屈折や変曲点は、個体の成長の様相に変化が生じていることを示す。イギリスの生化学者J・ニーダムによって、化学物質の重量の体重に対する増加などにもこの式が適用できることが示された(1934)。さらに相対成長は異種間の進化に伴う形態変化の研究にも適用され、個体発生的アロメトリーと区別して、系統発生的アロメトリーまたはアロモルフォシスaromorphosisとよばれる。
[東 幹夫]
(小畠郁生 国立科学博物館名誉館員 / 2008年)
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