改訂新版 世界大百科事典 「カブトムシ」の意味・わかりやすい解説
カブトムシ (兜虫)
Japanese rhinoceros beetle
Allomyrina dichotoma
甲虫目コガネムシ科の昆虫。雄では角を除く体長が5cm余りに達する個体があり,黒褐色のたくましさを感じさせる体から人気がある。日本全国のほか,朝鮮半島,台湾,中国,インド,フィリピンなどに広く分布する。暖地性の甲虫であるが,北海道ではペットとして運び込まれたものが野外にも定着しているといわれる。成虫の胸脚は土に潜るのにつごうよくできており,また先端のつめは鋭く,木の幹で体重を支えることができる。日没後,活発に飛翔(ひしよう)しクヌギ,ナラなどの樹液に集まるほか,灯火にも飛来する。雄の角はその長さから短軸型,中軸型,長軸型に大別できる。雌は8月の中ごろから腐葉土や朽木の中,畑や果樹園の堆肥の中などに潜り込み産卵する。1匹の雌の産卵数は20~30個。卵は直径が約3mmで白色。10日余りで孵化(ふか)するが,そのころには卵は2~3倍くらいの大きさになる。幼虫は腐植物を食べて成育し,1ヵ月くらいで3齢(終齢)に達し,幼虫で越冬する。産卵や発育の遅れた個体は2齢で越冬する。翌年,気温が上昇すると再び活発に食べ始め,7月ころ土中に蛹室(ようしつ)をつくり,その中で蛹化する。さなぎの期間は約20日間。成虫は冬までには死滅する。広葉樹林の減少や化学肥料の普及で,堆肥をつくる農家が少なくなりカブトムシのすめる環境も減少しているが,一方では大規模な人工飼育が企業的に行われるようになった。カブトムシ類(カブトムシ亜科)は世界から約1000種が知られているが,その多くは熱帯や亜熱帯に分布する。南アメリカなどに生息するヘラクレスオオツノカブトムシ(ヘラクレスカブトムシ)は,大きな個体では角を含めると18cmもあり甲虫では世界最大。日本に生息するコカブトムシEophileurus chinensisは体長20~24mm。黒色で雄の頭部に小さい角がある。幼虫は朽木中にすみ,成虫は灯火に飛来することがある。
飼い方
カブトムシの飼育には水槽や木箱を用いる。野外で飼育するときは植木鉢を用いる。容器の中に腐葉土を10cm以上の厚さに入れ,雄と雌を入れる。餌として糖みつ,モモ,ウリなどを与え,木の枝も入れておく。また逃げられないようふたをしておく。卵は腐葉土で飼育する。幼虫は成長するにつれて摂食量も増えるから,糞が多くなれば腐葉土を取り替える。初夏のころ容器の底に蛹化のための土を10cmくらい入れる。容器は日光の当たらない場所に置くようにする。
執筆者:林 長閑
伝承
この甲虫は多くの場合生命力の象徴であり,古代エジプトではとくに神聖視された。大プリニウスは《博物誌》に2種のカブトムシを記載し,角をもつ種は護符として子どもが首に下げ,エジプトにすむ別種は小さな肥やしの玉をつくってそこに卵を産み,それを転がすと述べている。大プリニウスが説明した2種のうち後者は,正しくはカブトムシではなくスカラベのことで,エジプトの太陽神ラーの復活を象徴する。玉を転がすその習性が,転がるようにして天を通過する太陽に擬せられたからである。またアイルランドではカブトムシの一種を刈入時に農具の柄につけ,作業の速度をあげるという。日本では指などにできる瘭疽(ひようそ)に効果があるとされ,幼虫を水洗いして内臓を抜き,これを患部にかぶせる民間療法がある。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報