どのような社会も存続していくためには消費生活を維持しなければならず,そのために生産の継続が不可欠な前提となる。こうして財の生産がたえず繰り返されることを再生産といい,これが経済過程の実質的な内容をなしている。ところで生産が継続されるためには,生産要素をなす労働力と生産手段がたえず補塡(ほてん)されなければならない。このうち労働力は生活資料の消費を通じて確保され,生産手段は生産過程における財の生産の一部として再生産される。生活資料も生産手段もともに繰り返し生産される財の一部であるから,それゆえ再生産は,労働生産物としての財の分配を媒介とする生産と消費の循環ということになる。
ところで社会の物質代謝としての再生産は,歴史的あるいは地域的に特殊な社会関係のもとで営まれており,そうした生産諸関係そのものをも再生産している。資本主義社会では,財の分配と再生産は,資本の運動を通じて行われる。商品として生産した財を販売することによって初めて投下した資本価値が回収され,それを再び生産要素の購入にあてることによって生産の継続が可能になるのである。まず生産手段は資本が生産した財のうちから直接に補塡されるが,労働力は労働者が支払われた賃金で生活資料を買いもどすことによって再生産される。しかもこの労働者への生活資料の販売は,資本にとって,賃金に投下した資本価値の回収にもなるのである。生産手段の補塡と労働者への生活資料の分配のあとに残る剰余の生産物は,資本によってすべて取得される剰余価値部分を構成するのであるが,その一部は資本家の個人的な消費にあてられ,他の部分は生産規模を拡大するための追加的な生産要素の確保にあてられる。こうして貨幣の投下と回収を通ずる資本価値の循環運動のなかに,労働生産物の生産財および消費財としての分配が行われ,それによって資本と賃労働との間の階級関係も再生産されることになる。
こうした資本主義の再生産を〈社会的総資本の流通〉に即して考察し,流通という媒介運動のなかに内包されている再生産の条件を明らかにしたのが,K.マルクスの再生産表式Schema der Reproduktionである。マルクスは,総商品の価値構成と素材構成との相互の関連のなかに再生産の基本条件を見いだすため,単純再生産表式と拡大再生産表式の二つの再生産表式を作成することになったが,これについては〈再生産表式〉の項を参照されたい。
資本主義経済は,絶えざる需要供給の不均衡と価格の変動を常とし,上記のような再生産の基本条件をいつでも維持しているわけではない。それは,個々の資本の利潤極大化をめざす競争を通じて実現される,価格の変動の中心をなすような基準として理解しなければならない。こうして再生産表式に基づいて,資本主義経済を律する価値法則の基礎が明らかになる。
執筆者:小池田 冨男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…生物が自分と同じもしくは共通する遺伝子組成をもつ個体を新たにつくること。繁殖という語は家畜学などの分野で,また増殖という語は水産学の分野で,ほぼ同じ意味に使われている。
[植物の生殖]
植物の生殖は,体の一部または無性の生殖細胞である胞子から新しい個体ができる無性生殖と,性的に異なる2種の配偶子が合体する有性生殖の二つに大別される。 栄養体(葉状体,根,茎など)の一部から新しい個体の生まれる栄養生殖は無性生殖の一つであり,例えばオニユリやヤマノイモなどの側芽は多肉化して〈むかご〉になる。…
…生物が後継ぎを残して種族を維持すること。日本語でも英語でも〈生殖reproduction〉や〈増殖multiplication(またはproliferation,propagation)〉との区別があいまいで,しばしば混用されるが,概念上の整理が必要であろう。種族が維持されるためには,一つの世代が次の世代を,次の世代はさらに次の世代を生じなければならない。…
…マルクスが資本制経済の再生産の仕組みを,(1)生産部門を生産手段生産部門(第1部門)と消費手段生産部門(第2部門)に分割し,(2)各部門の生産物価値(W)を不変資本(C)(不変資本・可変資本),可変資本(V)および剰余価値(M)からなるものとして表示したのが再生産表式である。再生産が単純再生産と拡大再生産に分かれるのに対応して,再生産表式も単純再生産表式と拡大再生産表式とに分かれる。 単純再生産は生産規模不変の再生産であって,そこでは剰余価値はすべて資本家の個人的消費にあてられ,蓄積はゼロである。…
※「再生産」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新