改訂新版 世界大百科事典 「石油業法」の意味・わかりやすい解説
石油業法 (せきゆぎょうほう)
1962年に,貿易自由化政策の一環として原油の輸入自由化が実施されたのにともない,自由化後の石油の安定的で低廉な供給を図る目的で制定された法律。当時,石油はすでに日本のエネルギー源の中心であったが,世界的な原油の過剰を背景として,精製設備の拡充競争が見られた。その中でメジャー系列に対抗しうる,民族系資本(民族資本)の石油精製企業の育成が必要であるとの議論も強く,エネルギー源の中心としての石油の国民経済に占める地位の大きさのゆえに,さまざまな狙いを持って,その安定的で低廉な供給を図り,国民経済の発展と国民生活の向上に寄与することを目的として本法が制定されたのである。
石油精製業を営むためには通産大臣の許可を必要とし,特定設備の新増設についても大臣の許可を要する(4~7条)。また石油輸入業,石油製品販売業には届出が必要とされる(12~13条)。大臣は5年計画の石油供給計画を毎年度策定し(3条),精製事業者は毎年度大臣に対して石油製品生産計画を届け出る義務を負う(10条)。大臣は石油供給計画に重大な支障が生ずるおそれのあるときは,事業者の石油製品生産計画を変更すべきことを勧告しうる(10条2項)し,石油製品の価格が不当に高騰したり下落するおそれがある場合には,石油精製業者および石油輸入業者の石油製品の販売の標準額を定めることもできる(15条)。
このような参入を中心とする強い規制と,事業活動に対する勧告,石油製品の販売の標準額といった行政指導は法定されているものの,ほかに法的な規制はなく,石油製品の精製・販売に関する事業活動は法律の建前上は事業者が自由になしうることとされており,独占禁止法の適用除外規定も置かれていない。しかし現実には,法律の施行以来,通産省は参入および施設に関する法定の強力な規制権限を背景にして,法律に必ずしも直接の根拠を持たない広範かつ強力な行政指導を日常的に繰り返してきた。
1973年秋の石油危機時の値上げ抑制指導とそれを前提にした事業者の生産調整カルテルおよび価格カルテルに対して,公正取引委員会が排除措置のみならず,独占禁止法上の刑事罰の追及をなす手続を取った。この事件で石油業法と独占禁止法との関係がさまざまな議論を呼んだ。生産調整の刑事事件については東京高等裁判所で無罪の判決が下されたが,価格カルテル事件(いわゆる石油ヤミカルテル事件)については有罪とされ,上告されたが,84年の最高裁判所の判決で被告の有罪が確定した。本判決は,ときとして行政当局に与えられた本来の権限の範囲逸脱のおそれさえある行政指導の墨守せざるをえないような石油業界の行政当局との密着を浮かび上がらせた。そして,そのような行政指導が実効を持ちうる背景となった石油業法による強い規制の存在は,行政と業界の不透明な関係の温床となってきた点であらためて問題視されるところとなった。
執筆者:来生 新
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報