民族資本(読み)ミンゾクシホン

デジタル大辞泉 「民族資本」の意味・読み・例文・類語

みんぞく‐しほん【民族資本】

植民地半植民地従属国で、外国資本に対抗するその民族の資本。

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精選版 日本国語大辞典 「民族資本」の意味・読み・例文・類語

みんぞく‐しほん【民族資本】

  1. 〘 名詞 〙 植民地、半植民地、発展途上国などで、外国資本に対抗する、その国自身の資本。
    1. [初出の実例]「東洋石油は、いわゆる外資系でも財閥系の会社でもなく、いわゆる民族資本の石油産業会社なのだ」(出典:泥の勲章(1963)〈邦光史郎〉二)

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改訂新版 世界大百科事典 「民族資本」の意味・わかりやすい解説

民族資本 (みんぞくしほん)

植民地,従属国の政治的・経済的自立を導く現地土着資本のこと。それは,経済的従属地で活動する外国資本の圧力に対抗する役割を担うものであり,外国資本と癒着した買辦資本(買辦)と区別される。もともと,19世紀末から第2次大戦までの植民地独立運動担い手として論じられてきたが,今日では一般的に,外国資本に支配されず,国内市場を活動の場とする発展途上国の自立的な資本家層を指した総称になっている。しかし歴史学上の概念としては,依然として民族解放闘争を担う資本家という狭義の使われ方をしている。

 先進資本主義の後進的周辺地域への浸透によって,商品流通が普及し,弱小工業の破壊,農民の土地喪失がひき起こされる。この過程で土着の資本制的企業が発生するが,これらはつねに強力な外国資本との競争にさらされて,不利な分野に活動を限定せざるをえない。ここに,民族資本が外国資本に対抗して民族解放闘争を主導する経済的根拠がある。両大戦間期の中国とインドとの民族資本がその典型例をなす。中国のそれは1911年の辛亥革命を遂行した。そして第1次大戦中とその直後の外国資本の活動休止期に中国の民族資本は大きく成長したが,30年代には封建的軍閥,外国資本と連携して国内の小農,プロレタリアートの革命勢力と敵対してしまった。これは,コミンテルン内部の分裂を招いたほど,民族資本の革命性への懐疑を生み出す結果となった。

 他方,インドでも,イギリスの軍事戦略後押しもあって,比較的大きな民族資本が発展したが,ここでは中国のように民族独立闘争と敵対することなく,民族資本がまとまって,国民会議派を結成し,インドの政治的独立に大きく貢献した。スワデーシー(国産愛用・英貨排斥)運動を通じて,綿紡織,鉄鋼等の分野を握るターター財閥ビルラー財閥などは,独立運動の主体的な担い手となったのである。このように,民族資本が反帝・反封建闘争に一体化できるかどうかは,それらを取り巻く外的環境によって左右されるのであり,一概に民族資本を独立運動の主体的担い手と理解することはできない。

 両大戦間期には,社会主義革命を指向する運動と民族資本の主導する民族主義との関係をめぐる理論領域が複雑にからみあっていた。第2回コミンテルン大会におけるM.N.ローイ(1887-1954)とレーニンとの対立,トロツキースターリンとの対立がこの問題把握の難しさを示している。レーニン,スターリンは民族資本の運動を支援することによって,社会主義的勢力の成熟を期待した。だがローイ,トロツキーは民族資本の運動が社会主義革命を圧殺する可能性を重視したとみられている。これは,あれかこれかの単純な問題ではない。この大会におけるレーニンの〈民族・植民地問題についてのテーゼ〉の原案も,近年かなりローイの意見で修正されたことを示す資料が発掘されており,これらのことからも問題の複雑さがわかる。

 なお,石油会社を外資系民族系とに分けることがよく行われるが,この民族系石油会社(出光興産丸善石油など)のことをしばしば民族系資本ないし民族資本(の会社)と呼ぶ。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「民族資本」の意味・わかりやすい解説

民族資本
みんぞくしほん
native capital

植民地や従属国における土着の資本で、外国資本や植民地支配と対抗的性格をもつものをいい、独立運動において果たす役割をめぐって注目されてきた。中国においては、19世紀後半以降とくに20世紀に入ってから民族的企業の発展が著しく、第一次世界大戦期から直後にかけては、市場条件の好転もあって、民族的企業の「黄金時代」を迎えた。インドでも、19世紀後半から綿工業を中心としてインド人の資本による工業が発展した。第一次世界大戦後は、選択的保護政策の効果もあって、綿工業、鉄鋼業製糖業などを中心としてインド資本による工業はいっそう発展し、彼らは、独立によって国家の政策を左右しうる地位を獲得した。これら民族資本について注目されることは、第一に、そのかなりの部分は、かつて植民地支配と結び付いて発展した商業資本であったが、工業に進出してゆくなかで国内市場をめぐって外国資本や植民地支配と対立するようになっていったこと、第二に、こうした民族資本の発展は、大衆的な民族運動の発展と相互に関連していたこと、である。

 民族資本の多くは、一方で、多かれ少なかれ前近代的農村社会の存在、あるいはそこから流出する低賃金労働力を蓄積の基盤とし、他方で、植民地下で形成されたゆがんだ経済構造から利益を引き出すことも少なくなかった。そのため、民族資本は、徹底した社会的変革を起点とする自立的国民経済の建設を推進することはむずかしく、政治的、経済的な独立の達成という点でも、大きな問題を残さざるをえなかった。

[柳沢 悠]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「民族資本」の意味・わかりやすい解説

民族資本
みんぞくしほん
national capital

外国資本 foreign capitalに対する言葉で自国資本を意味するが,特に発展途上国の土着資本をさす場合が多い。発展途上国の多くは,かつて資本主義列強の植民地であり,政治的独立後も経済的には,多国籍企業を中心とする外国資本に支配されてきた。外資系企業は発展途上国の社会・経済的要求よりも,本国である先進工業国の要求を優先させた形で経済開発を行なったために,発展途上国の内部では一部の輸出部門のみの肥大化や農村の荒廃,食糧不足の深刻化などの問題が生じた。このためかつては経済開発推進のために積極的な外資導入策をとった発展途上国も,自国経済に深く介入する外国資本は自立的経済発展にとっての障害であると認識するにいたり,外資系企業の国有化やその事業への参加などを通じて,経済の民族化を進めるようになった。民族資本はこうした経済ナショナリズムの主体である。

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旺文社世界史事典 三訂版 「民族資本」の解説

民族資本
みんぞくしほん

後発国・従属国・植民地で外国の資本に抗しておこった土着民族の資本
帝国主義勢力は植民地・半植民地の旧支配者である封建的王侯・軍閥・地主勢力を支持し,新興の民族資本を圧迫した。それに対抗して,勃興する民族資本の支持を受けて,インドではスワデーシー・スワラージ運動,中国では辛亥革命が起こった。このように解放・独立と統一運動の初期には推進主体となりえたが,第一次世界大戦中に労働者階級も大いに成長して反帝国主義運動の中心になると,後期には民族資本はその勢力拡大を恐れ,むしろ帝国主義と妥協する傾向がでてきた。

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百科事典マイペディア 「民族資本」の意味・わかりやすい解説

民族資本【みんぞくしほん】

植民地,半植民地,従属国で,本国資本や外国資本と対抗する土着資本。第2次大戦以前の植民地独立運動を担った中国やインドの財閥に代表されるが,今日では発展途上国における自立的資本を指す。石油業界では,メジャーの支配を受ける外国系石油会社に対して出光興産などを民族資本会社という。

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