石炭地下ガス化(読み)せきたんちかガスか(英語表記)underground coal gasification
in-situ coal gasification

改訂新版 世界大百科事典 「石炭地下ガス化」の意味・わかりやすい解説

石炭地下ガス化 (せきたんちかガスか)
underground coal gasification
in-situ coal gasification

石炭が不完全燃焼すると一酸化炭素が発生するが,この反応を地下の炭層の中で起こさせることをいう。これができれば,人間が立坑や坑道を掘って地下に入り石炭を採掘しなくとも,ガスの形に変えて地上に取り出して利用できる。この地下の炭層自体の中に一種のガス発生ゾーンをつくるという着想は1880年ごろロシアのD.I.メンデレーエフ(元素の周期律の発見者)が,炭層の採掘中に起こる自然発火の現象にヒントを得て提唱したといわれる。その原理は,炭層にあけた2本のボーリング孔の一方から空気を圧入して他方で吸引すると,空気が炭層中の割れ目に浸透し,石炭の酸化が起こって発熱し,やがて不完全燃焼の状態になり,吸引側に一酸化炭素を含むガスが出てくるというものである。実地の試験がソ連で始まったのは1930年代で,主として坑内で坑道や炭層にあけたボアホールを利用したり,発破で炭層をゆるめるなどの方法で,炭層のガス化を起こりやすくするいわゆる坑内法が試みられ,40年ごろには地下ガス化ステーションの近傍の工場へ燃料ガスを供給したこともあった。しかし坑内法は,人が地下に入らないようにするという地下ガス化の本来の構想とは,へだたりがある。

 同じく40年ごろから,炭層のガス透過性の研究をもとに,地表から炭層におろした2本のボアホールの間を通じさせること(これを〈リンキング〉という)によって前述の地下ガス化の原理を実現するべく,試験が始まった。ソ連の各地では数ヵ所のステーションが建設あるいは計画され,第2次大戦による中断はあったが戦後に復活し発展した。また40年代後半から50年代前半にかけては,イギリス,アメリカ,フランス,ベルギーポーランドの諸国も,地下ガス化の試験にとり組んだ。この間に,圧入に空気だけでなく水蒸気を加え,空気の代りに酸素富化空気や酸素を用いるなどの改良が加えられ,リンキングにも,電気を送って炭層内で発熱をさせる方法,水圧を加えて炭層をゆるめる方法,ボーリングの方向を途中から曲げて炭層内に道をつける方法などが試みられた。しかし,炭層内でのガス化の進行を安定して長く継続させることがむずかしく,得られるガスが天然ガスの1/10程度の低カロリーであることと,一方では石油や天然ガスが安く豊富に供給されるようになったことから,地下ガス化に対する関心はいったん下火になった。しかしロシアではひき続き2ヵ所の地下ガス化ステーションが操業中といわれており,他の国々でも,石油危機後の石炭見直しのなかで再び地下ガス化にも目が向けられるようになって,アメリカ,ドイツ,ベルギー,フランスなどが実地の試験に手をつけている。この新しい発展では,1000m程度の深部の炭層や急傾斜の炭層のように,坑内掘りでこれから開発するのは採算に合わないという資源を活用することがねらいである。以前の地下ガス化で対象と考えられていた100m程度の浅いところにある安定した厚い炭層は,近年の発達した露天掘りの技術で開発するほうが有利であろう。

 日本でも1960年代の中ごろに,地下ガス化の適用可能性の調査や炭層の露頭を利用した小規模な試験が行われたが,地層の乱れが多く地下水も多いという日本の炭田の一般状況からみて,適用はむずかしいと思われる。近年,採油技術を応用した石炭層ガス(コール・ベッド・メタン)を採取する技術が各国で試みられており,アメリカのサンファン,ブラックウォーリアの両炭田では企業化したガス採取が行われている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「石炭地下ガス化」の意味・わかりやすい解説

石炭地下ガス化
せきたんちかがすか
underground gasification of coal

石炭を採炭して地上に取り出すことなく、地下の炭層にあるままでガス化することをいう。周期表で有名なロシアのメンデレーエフが1888年に構想を発表して以来、多くの国で研究開発が進められ、1956年にソ連で実用化された。現在はウズベキスタンで操業しているものが唯一の実用例である。1961年に操業を開始して以来、1日100万立方メートルの低カロリーガスを生産し、近接する発電所に送っている。オーストラリア、アメリカなどでも開発が進められている。

 一般的方法は、地上より送風孔とガス排出孔をボーリングして炭層に達せしめ、それらの間をガスが流れるように連結する。そして送風孔より空気を不足ぎみに送りながら点火すると、発熱しながら二酸化炭素を発生し、それはさらに加熱された石炭と反応して一酸化炭素となる。空気のかわりに酸素を用いれば、より発熱量の高いガスが得られる。利点としては、危険な坑内作業を大幅に軽減できること、炭層があまりに薄すぎるとか低品位であるなどの理由で一般の採炭法では経済的でない場合でも経済性が出てくる可能性があることなどである。石炭層とガスの接触をうまく保持でき、一定の組成のガスが効率よく得られれば利点の多い石炭ガス化法となりうる。

[富田 彰]

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百科事典マイペディア 「石炭地下ガス化」の意味・わかりやすい解説

石炭地下ガス化【せきたんちかガスか】

地下の石炭層をそのままガス化して利用する方法。1880年ごろロシアのD.I.メンデレーエフが提唱したとされる。地上の隔たった2点から石炭層中に立坑を掘って水平坑道で結び,炭層の一端に着火,立坑の一方から送風,他方からガスを取り出すというもので,第2次大戦前にソ連で実験され,戦後復活,石油危機後は米,仏,独,ベルギーなども研究に着手。
→関連項目採炭

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「石炭地下ガス化」の意味・わかりやすい解説

石炭地下ガス化
せきたんちかガスか
underground gasification of coal

地下に存在する石炭を採掘することなく,炭層状態のままでガス化して取出すこと。炭層の孔隙に空気や酸素などガス化剤を送り込みながら燃焼させることにより,ガス化した石炭を回収する。ガス化は一般に揮発分が多く,化学的に不活性なイナート分が少ない炭層に適している。地下ガス化の方式には,炭室法,削孔法,気流法,透過法,誘導ボーリング法などがある。得られるガスは発熱量が低く 1m3あたり 700~1000kcalで,これを高めるための方策を講じても 2000kcalをこえさせることはむずかしい。旧ソ連において操業が行われていた。

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