可燃性物質と空気または他の酸化剤の混合系を加熱したとき,自然に炎をあげて燃えはじめる現象。口火による発火(引火pilot ignition)とともに燃焼開始の主要な形式である。自然発火の挙動は物質の種類や状態,加熱条件などによって多少変わるが,その発生の仕組みは,多くの場合,混合系内部における酸化,分解,重合などの化学反応による発熱と,外部への放熱の釣合いの基礎の上に説明できる。したがって,自然発火が起こるためには,混合系内の蓄熱過程が重要な役割を果たし,反応熱,加熱温度,混合系の規模と熱物性などが発火に大きな影響をもつ。一般に加熱温度が高いと反応による発熱速度は大きいので,発火に至る時間は短く,発火は混合系の表面近くで起こる。これに対して,加熱速度が低いと,発熱速度は小さく,蓄熱の必要性が増すため,規模が大きいなどの放熱の小さい条件が要求され,発火に至る時間は長くなる。メタン,プロパン,ガソリンなどの可燃性の気体と空気の混合系を高温で加熱すると短時間で発火するのは前者の例,石炭,原綿,木粉,魚粉などのような可燃性の粉体を空気中に多量に堆積したり,ニトロセルロースや高度さらし粉のような熱に不安定な酸素含有物質を常温付近で貯蔵したとき,長期間経た後に発火が起こるのは後者の例である。しばしば前者のように短時間内に自然発火の起こる加熱温度は自然発火温度または単に発火温度と呼ばれ,これは可燃性物質の発火性の指標に使われる。しかしこの値は,物質の特性だけでなく,放熱条件によっても変わるので,厳密な意味での物質定数とはいえない。また,後者の蓄熱過程が支配的な自然発火は,少量では高温にならないと発火しない物質が,多量になるとはるかに低い温度で発火する規模効果を示す点で,実際の貯蔵や輸送に際して重要である。この場合,最高温度の得られる位置は中心近くに移る。なお,気体混合系の自然発火については,このような熱バランスに基づく考え方では説明がつかず,分岐連鎖反応を考えなくてはならない場合もある。
→燃焼
執筆者:秋田 一雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
酸素または空気中で可燃性物質を加熱したとき,みずから炎をあげて燃えはじめる現象を自然発火といい,口火による発火(pilot ignition)と区別する.発火の機構は物質の種類や状態,加熱条件などによっていちじるしく変わるが,多くの場合,反応による発熱と放熱の釣合いに基礎を置いた熱理論で説明できる.したがって,自然発火が起こるためには,蓄熱の過程が重要な役割を果たし,発熱量,加熱温度,試料の大きさなどが大きな影響をもつ.もともと,自然発火の現象は加熱温度の高低で相違することはないが,これが高いと反応が早く,内部での蓄熱は必要性が薄いので,発火に至る時間は短く,また発火は表面近くで起こる.これに対し,加熱温度が低いと蓄熱の必要性が増し,そのため発火時間は長く,発火位置は中心に移る.石炭や原綿などが多量に堆積したときに,常温より少し高い温度で長時間かけて起こる自然発火は後者の代表的な例である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
酸素や空気中で可燃性物質を加熱した場合、ほかから口火を与えられなくてもひとりでに炎をあげて燃えることをいう。引火点や燃焼点よりも高い温度に加熱された場合におこるが、いろいろの条件によって自然発火のおこる温度(発火点)は大きく異なる。
自然発火のためには蓄熱の過程が重要である。石炭や原綿などを大量に堆積(たいせき)すると、常温よりわずかに高い温度でも長時間放置すると内部に熱が蓄積して、中心部では温度が上昇しやがて自然に発火する。高温の場合は内部からの蓄熱の必要性は小さいから、発火は表面近くでおこるし、発火までの時間も短い。黄リンや金属カリウムなどは、室温の空気中でも自然に発火するが、これはいずれも表面の反応である。したがって黄リンは水中に、金属カリウムは石油中に貯蔵して表面を空気に触れさせなければ安全である。
[山崎 昶]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
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