翻訳|coal mining
鉱山において鉱石を採掘する作業を採鉱というが,石炭鉱山(炭鉱,炭坑)で石炭を採掘する場合には,とくに採炭という。石炭採鉱という語も使われるので,採炭は採鉱よりも狭い意味をもつと考えてよい。採炭をわざわざ採鉱と区別するのは,石炭を採掘する作業が,普通の金属鉱山や石灰石鉱山などでの作業と相違する特徴をもつためと考えられる。しかし,たしかに,石炭層やその周囲の岩石,いわゆる夾炭層の性質に適応する採掘法,メタンガスや炭塵による爆発の危険性,採掘量の大きさなどで,石炭鉱山には他の鉱山とは異なった面があるが,採掘に当たっての基本的な考え方,すなわち,安全に,経済的に,そして完全に採掘するという理念にはなんらの変りはない。
石炭の採鉱,すなわち採炭も,大きく露天採炭と坑内採炭の二つに分けられる。
地表に露頭があったり,露頭がなくても地表近くに炭層が存在する場合には,石炭は露天掘りによって採掘される。地表の土石を取り除いて直接石炭層を露出させて採掘を行うが,この場合でも,炭層の性質に最もよく合った方法が適用される。最も普通に行われるのはストリッピング法と呼ばれる方法で,起伏の少ない地域で,比較的緩い傾斜で石炭層が広がっている場合に適した方法である。まず石炭層の一部を帯状に剝土(はくど)・剝岩して石炭を露出させ,その部分の石炭を採掘する。その部分の採掘が終了すると,隣接する帯状の部分の土石を掘りとって新しく石炭を露出させ,その石炭を採掘する。このときに掘りとった土石はその前に採掘の終わったところへ投入する。以上の手順を繰り返し,つぎつぎと採掘区域を移動させて採掘を継続する方法である。
この方法では,採掘を行っているのは石炭が露出している帯状の部分のみで,はぎとった土石の処理が簡単で,そのための特別な土石捨場の準備をする必要がない。強力で大型の機械類の導入も容易で,高能率の大規模採炭が可能なため,炭層が深くなって剝土比が大きくなったり,地下水や河川からの水の流入があったり,地表に重要な構造物や市街地があって,剝土・剝岩ができないといったケースでないかぎり広く行われる。地表が農地の場合でも,採掘が終了して土石を埋めもどしたのち,数年間の復元処理によって以前と同様な農地とすることも可能なため,数年間の貸借契約などによって採掘が行われる場合が多い。オーストラリアのクイーンズランド州の炭田地帯では,この方法で石炭を生産しており,幅50~60m,延長数kmから20kmにも及ぶ露出した石炭の帯が作られる。土石の除去にはドラッグラインやバケットホイール・エキスカベーターといった巨大な掘削機械を使用し,石炭の採掘にはコールドリルやパワーショベルが活躍する。100t積みのトラックが石炭を積み込んで,採炭区域に沿って走るベルトコンベヤへと運搬する。採掘終了後の区域は整地され,施肥されて,牧草の種子がまかれる。
また山岳地帯の急な斜面に沿って石炭層が分布する場合もある。このような場合にも,いろいろな方策が考えられており,テラス法もその一つである(図1)。山の斜面をたくみに利用して剝土・剝岩を行い,石炭を採掘する。アメリカやカナダのロッキー山脈地帯の炭鉱で広く行われている。日本では,炭層の状態も地表の条件もオーストラリアやアメリカなどとはたいへん違うので,露天採掘はほとんどみられず,北海道や福島県などで小規模に行われているにすぎない。
(1)採炭の準備 地下の炭層に到達するために立坑か斜坑が使われる。山腹から炭層を開発する場合には水平坑道も利用されるが,今日では,そのようなケースはほとんどなくなっている。立坑による場合は最短距離で地下深部へ入ることができるが,立坑底からさらに斜坑や水平坑道によって坑内が開発されるので,人員の昇降や採掘した石炭の搬出のためには,立坑から斜坑へ,あるいは水平坑道への乗換え,積替えが必要である。他方,斜坑による開発では,地下深部に到達するためには長い距離の斜坑を開削する必要があるが,深部に達してからの展開は,立坑による開発の場合よりも連続的に行える利点をもっている。最近では斜坑を中心に開発される炭鉱が多くなっているが,立坑を利用する炭鉱も数多く,両者と併用した開発方式をとる例もある。炭層の性状や生産方式を考慮して,慎重な計画のもとに決定されるべきであろう。
立坑や斜坑によって炭層に到達すると,坑内に坑道を展開して採炭の準備が行われるが,これにもいくつかの考え方がある。
(a)沿層坑道方式と岩盤坑道方式 沿層坑道方式は石炭層の中に主要坑道を掘削して採掘を行う方式で,〈払い〉(切羽,採掘場のこと)作りが簡単で,そのための投資が少なくて済み,直ちに出炭ができる。しかし,坑道が石炭層の中にあるため,坑道を安定に維持することが困難で,運搬や通気(坑内に新鮮な空気を供給し,汚れた空気を排出する作業)に当たって,いろいろな障害が生ずる。一方,岩盤坑道方式は,採炭準備のための坑道を多くは下盤(炭層の下側の岩石)の中に展開し,要所から採掘のための坑道を炭層へ向かって掘進し石炭を採掘する方式で,主要坑道が岩盤中にあって払いから切り離されているため,その維持が容易で,運搬に有利であり,通気上も好ましい。石炭の自然発火や火災,爆発など緊急事態が発生した場合にも処置が容易に行えるという利点も有するが,その反面,炭層まで連絡する坑道をいくつも作らなくてはならないなど,経費面での負担が大きい。
(b)前進式と後退式 採掘区画の採掘を主要坑道の周辺から始めて,採掘区画の境界へと推し進めていく方式を前進式と称し,逆に,まず採掘区画末端部へ坑道を展開したのち,奥から主要坑道へ後退しながら採炭を行ってくる方式を後退式と呼んでいる。前進式は,前述の沿層坑道方式に似ていて,採炭準備が早くできてすぐに出炭ができ,投資額が少なくて済むという利点をもつが,断層や炭層の性質の変化が多い場合やガス湧出の多い区域には適当でない。採掘区画の採掘が終了するまで採掘跡に坑道を維持しなくてはならず,また,これらの坑道からの漏風が採掘跡の残炭の自然発火を誘発することがある,などの欠点をもっている。
後退式の特徴は前進式の特徴の裏返しということになるが,いずれの方式を採用するかは,地層状況,保安上の問題,坑道維持の難易などによって決められる。保安上は後退式のほうが有利であるといわれている。
(2)採炭法 石炭層の性状は,金属鉱山の鉱床ほど多様ではなく,層状をなしていること,上下盤の岩石の種類もケツ岩,砂岩などに限られることなど,どの炭層でも類似したものが多い。したがって,その採掘の方法も似かよったものになる。しかし,炭層の厚さや傾斜,断層などのじょう乱の程度,〈はさみ〉(中硬(なかぼた)などともいわれる炭層中の岩石の薄層)や炭質の変化,地圧の大きさや上下岩盤の強度,ガス湧出の有無や自然発火のしやすさなど,いろいろな要因がからみ合うので,どのような採掘法を適用すべきかについては,十分な検討が必要であり,改善も行われなくてはならない。
採炭法は長壁式採炭法と炭柱式採炭法に大別できる。長壁式採炭法には,炭層の性状によってさらに,急傾斜層の長壁式採炭法,厚層および累層(炭層が数枚,わずかの間隔をおいて重なって存在すること)採炭法,薄層採炭法などの変形があるが,ヨーロッパの諸国で発達し,日本でもその出炭の大部分を占める方式である。石炭の採掘面を数十mから200m以上と長くとって採掘する方式である(図2)。この方法の特徴として,(a)炭柱を残さず,石炭全部を採掘するので採炭実収率が高い,(b)一払いで大量の出炭ができるので,切羽が集約される,(c)一般に,緩傾斜の場合には,採炭,運搬,支保などの機械化が容易となり,採炭能率を高めることができる,(d)出炭量に対して維持坑道長が短い,(e)通気に便利でガス排除が容易であり,かつ自然発火の発生も少なく,保安上有利である,(f)地圧を利用できるので炭切りが容易である,(g)天盤崩壊,機械の故障などが起きた場合は,一時に出炭が止まってしまう,などが挙げられる。石炭を採掘すると,そのあとは,払いの進行につれて順次崩落してつぶれてしまうが,上下盤の岩石が堅固な場合には,崩落させるのではなく,土石で充てんすることもある。
これに対して,炭柱式採炭法では,坑道を掘進するように炭層の内部に,碁盤目状に採掘を行う方式であり,炭層内に多数の四角い炭柱が規則正しく配列するようになる(図3)。この炭柱はその後,順次,二次的に採掘されることになる。炭柱の採掘が終わったあとの採掘跡の処置は長壁式の場合と同様である。炭柱の形を四角でなく,短冊状にする方式もある。この方式は,日本では,現在のように採炭機械が発達しておらず,かつ比較的浅い炭層でガスが少なく,また地表陥没の問題がなかった時代には,簡便に採掘ができるので盛んに行われたが,漸次坑内が深くなるにつれて行きづまり,ほとんど長壁式採炭法に移行していった。アメリカやオーストラリアでは依然として盛んに行われ,機械化された大規模な方式に発達している。
北海道の砂川炭鉱や芦別炭鉱では,ガス湧出の多い炭層に対して高圧水(水圧は100kgf/cm2以上もある)をノズルから噴出させて石炭を破砕し,水流として樋(とい)を流下させて集める水力採炭と呼ぶ方式で採炭を行ったことがある。ソ連で開発された方法で,ロシアはもちろん中国やカナダなどで現在も盛んに行われているが,日本ではこの方法に適した炭層の採掘が終わったため,現在実施している炭鉱はない。長壁式,炭柱式の採炭法とは違った方法として興味のある方法である。このほかにもいろいろな採炭法が試みられ,技術の進歩が図られている。
石炭鉱山,とくに坑内採掘鉱山では,保安はきわめて重要である。いかなる産業においても保安は重要であるが,他産業に比べて厳しい作業環境のもとで生産を行わなくてはならない石炭鉱山では,とくに重要である。石炭産業に関係する人たちは災害の防止に全力を傾けており,災害の発生もその損害も年々改善されてきているが,残念ながら,依然として,全産業のなかで最も悪い成績となっている。
石炭層や周囲の岩石層中にはメタンガスや二酸化炭素ガス(日本の炭層ではきわめて少なく,ヨーロッパなどの炭層に多い)を含むものがあり,ときに著しい湧出をみる。とくにメタンは空気に混入すると含有率5~15%程度で著しい引火爆発性を呈する。また空気中に細かい石炭の粉が浮遊している場合にも,引火して爆発する性質があり,メタンガス爆発と同様大きな災害をもたらすことがある。このため,坑内にはメタンガスを希釈するに十分な空気を送るとともに,つねにメタンガスの濃度を測定して安全な範囲内にあるかどうかのチェックがなされる。また,坑道や払いにおいては,石炭の粉塵が舞わないように,つねに清掃をするとともに,水や岩粉の散布が行われる。メタンガス濃度や炭塵の浮遊濃度が高くなって爆発の危険性が生じたとしても,火源がなければ爆発することはない。石炭鉱山で,引火のおそれのあるような火源の使用が禁止されているのはそのためである。坑内へのタバコやマッチの持込みは許されないし,電気器具の使用も,特殊なくふうによって防爆型となっているものでなくては許可されない。
メタンガスの湧出の機構にはまだ不明の点が多いが,このメタンガスを炭層やその周囲から積極的に除去することも行われる。採掘に先立って採掘区域に多数のボーリングを行い,強制的にメタンガスを吸引し,坑外へ排出する処置を行うのである。これをガス抜きというが,吸引されたガスは多くの場合,燃料として利用される。北海道の南大夕張炭鉱では,得られたガスで9000kW,1260kWの2基のガスタービンを運転して鉱業所内で使用する電力の70%を賄うのみでなく,その廃熱を利用した温水設備も運転している。
坑内の石炭が自然に酸化して熱を発し,条件によっては自然発火することもあり,これもまた恐ろしい災害につながることがある。自然発火の火がガス爆発の着火源となることもあり,また自然発火個所から発生した一酸化炭素が坑内に広まって,大事故となることもある。自然発火の防止には,できるだけ石炭の掘残しを減らし,採掘跡への漏風を防ぎ,さらにフライアッシュなどで充てんをして空気の残炭への接触を断つことに努めるとともに,できるだけ早く自然発火の兆候をキャッチして,その場所を密閉したり注水して拡大を抑え,消火するようにする。
石炭そのものも,石炭層を挟む岩盤の岩石も比較的脆弱であり,しかも採掘範囲が大きくなるため,炭鉱での落盤,落石による事故も多い。そのために,いろいろな支保(坑内支保)が行われる。主要な坑道は鉄製のアーチ枠やコンクリートで固められ,採炭切羽には鉄柱,カッペや自走枠が使われる。坑内が深くなると強大な地圧が作用するために,支保もしだいに強固なものになっていく。さらにこうした重圧地帯では,炭層中に含まれるガスが突然噴出するガス突出や岩盤の急激な崩壊を生ずる山はねといった現象もあり,支保はますます重要になるが,同時に,強大な地圧を生じさせないような坑内構造の設計や採掘順序への配慮が必要である。また古い採炭跡や断層へ不意に遭遇したりすることによって起こる不時出水や,運搬機械類による事故など,坑内作業にはいろいろな危険が存在する。暗く,狭隘(きようあい)で,高温の場所もある。このような作業条件は着実に改善されてきているが,逆に,採掘条件のよい炭層ほど早く採掘が進み,しだいに条件の悪いものを開発しなくてはならなくなる。そこに保安の難しさがあり,より一層の努力が必要になる。
→鉱山災害 →鉱山保安
石炭を採掘することはそれ自体が自然を破壊することであるので,採掘の前にあらかじめその影響が考慮されなくてはならない。また採掘が終了したのちには,よりよい環境へと整備することが必要である。日本の筑豊炭田や常磐炭田などの古い炭鉱地帯では,今なお石炭採掘によって生じたいわゆる鉱害の復旧作業が行われている。炭鉱地帯で起きる鉱害のおもなものは,地表沈下とぼた山の崩壊によるもの,それと旧坑からの排出水によるものである。地表沈下は,地下の石炭採掘のあとの空洞が,採掘後時間がたつにつれて崩壊し,その影響が地表に現れたものである。実際には,岩石が崩壊する際に多少容積が大きくなるし,坑内の採掘跡充てんも行われるので,採掘した空洞の容積そのままが沈下するわけではないが,地表の構造物が傾いたり,壊れたりする。とくに,水田の多い日本では,水田の水が流失したり,深田になったりする。採掘跡をできるだけ十分に充てんすることが必要であるが,沈下した地表の埋めもどしや,河川のつけ替えなどの工事によって対応することになる。
石炭の採掘に伴って発生する不要な岩石,すなわち廃石(ぼた。北海道では〈ずり〉と呼ぶ)を谷間などに積み上げたぼた山は,かつては炭鉱地帯の象徴のようなものであったが,今日ではその後始末に苦慮している。古くなったぼたが年月とともに風化し,含まれている炭質物質が自然発火したりして崩れやすくなり,大規模な地すべりを起こした例も少なくない。ぼたの性質によっては粘土原料や骨材として使うこともできるが,多くは整地して土地を作り,そこを利用する方策が行われている。
炭鉱の坑内から排出される水には,酸性が強く,鉄分を含むものがある。また食塩を含むものもある。こうした坑内水をそのまま河川に流出させるわけにはいかないので,このような水を排出する鉱山ではその水を処理する必要がある。大量に排出する鉱山では,その処理経費がかさみ,とくに休廃止された炭鉱では,この水の処理を国が実施せざるをえず,また水の流出が続くかぎり,いつまでも処理を継続しなくてはならず,大きな問題となっている。
石炭の存在は〈燃える石〉として世界の各地に知られていたが,その利用はそれぞれの地域に限定され,生産の規模も採掘の技術も遅れていた。露頭周辺の石炭を抜掘りする域を出ず,小規模の立坑,斜坑,水平坑道を人力で掘削し,塊炭を人の背で運び,立坑をつり上げる程度のものであった。石炭がエネルギー源として重要になるのは産業革命の結果であり,石炭の生産量が飛躍的に増大し,採掘の技術も急速に進歩した。18世紀に入って,ニューコメン機関やワットの蒸気機関が炭鉱の排水に使用されるようになって,坑内の湧水の問題が解決されたが,坑内が広く,深くなるにつれてガス爆発,炭塵爆発の災害が頻発するようになった。その原因も対策もわからなかった時代にはずいぶんと多くの犠牲者が出たが,1816年のH.デービーによる安全灯の発明とその普及によって,爆発事故は激減した。
黒色火薬が炭鉱で使用されるようになったのは19世紀の初期であり,これによって採炭の能率は一段と高まったが,ときには坑内爆発の原因となることもあった。その後,19世紀の後半に入ると,今日のコールピック(圧縮空気で作動する削岩機に似た石炭の切崩し機械)の原型に当たる機械の発明や石炭を切削するコールカッターの発明,改良が行われるようになり,さらに削岩機やダイナマイトの発明,炭鉱坑内での電気の使用などが続いた。坑内に電車が使われたり,蓄電池を利用した安全ランプが発明されたのも19世紀末から20世紀にかけてであった。
炭鉱の坑内が機械化され,今日のような近代的炭鉱になるのは20世紀に入ってからであるが,とくに第1次大戦後のヨーロッパの復興期には,ベルトコンベヤやカッターローダー(石炭層の下縁をカッターで切り崩し,崩壊した石炭をコンベヤにのせる機械)が開発されて長壁式の採炭法が発達し,火薬の使用とともに高能率の採炭が行えるようになった。さらに第2次大戦後のヨーロッパの各炭鉱では,水圧鉄柱とカッペによる長壁式採炭が,アメリカの炭鉱ではコンティニュアスマイナー(機械本体の前方にある切削刃のついた回転ドラムで石炭を切削し,その石炭をすくいとって,コンベヤで後方の運搬装置に運び入れる作業を行う機械)を使用する炭柱式の採炭技術が進歩した。
1950年代の後半に入ると,石油に押されて石炭産業の斜陽化が続き,多くの非能率炭鉱が閉鎖され,高能率の炭鉱のみが残ることとなった。新しい炭鉱も開発され,自走支保による高能率炭鉱も出現した。無人化切羽の試みや水力採炭,地下の炭層に火をつけてそのままガスにして取り出そうという石炭地下ガス化などの研究も進んだ。浅海に島を作ったり,沖合の小島を基地にして海底の炭層を開発する技術も,日本の海底炭田を筆頭に着実な進展をみせた。他方,大型の土工機械の出現は露天採掘の大型化を促進し,世界の各地で大規模な露天採掘が行われるようになり,今日の石炭の見直しの主柱となるに至った。
→採炭機 →石炭
執筆者:山口 梅太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
炭層を掘り崩し、その場所に設置してある運炭機へ石炭を積み込むまでの作業を採炭という。採炭を大きく分類すれば、露天掘りと坑内掘(こうないぼ)りになる。
[磯部俊郎]
炭層の上を覆っている表土および岩盤を取り除いて炭層を露出させて採掘するため、剥土(はくど)、樹木の伐採、地盤の緩みなどのため、掘り跡の復原、植樹、および土砂、岩盤などが降水で流出して、山麓(さんろく)の農地、集落などに被害を生じないよう砂防(さぼう)ダムの建設が必要である。これらの諸費用を考えると、採掘炭量に対する剥土量には限界があり、一般には炭量の10倍ぐらいが目安になっている。近年大型のショベルカーおよびトラックができるようになってから、露天採掘のできる深さもしだいに増大の傾向にあるが、自然破壊、緑の消失などの点からは、あまり好ましいとはいえない。しかし一方では、採掘費が安く、ガスなどの保安問題がない点で有利である。露天掘りで有名なのは、中国東北部遼寧(りょうねい)省にある撫順(ぶじゅん)炭鉱で、ここでは露天掘りによる産炭量が年200万~300万トンにも達する。しかし、露天掘りは撫順に限らず、中国各地、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ヨーロッパ各国でも盛んに行われている。日本でも、北海道の各所や山口県で小規模ながら実施されていて、発電用として安価な石炭の供給源になっている。露天掘りは安価、安全の点から石炭業者には魅力はあるが、深い所までは掘れないので、いずれはなくなってしまう運命にある。
[磯部俊郎]
採炭の主体は坑内掘りであるから、まずもっとも典型的な坑内掘りの形について説明する。坑内掘りは、地下に坑道を展開しなければならない。
炭層は堆積(たいせき)岩であるから、元来水平なはずであるが、その後地質的変動により、傾斜したり、ちぎれたり、折れ曲がったりしている。
は地層の断面図である。図中の「肩(かた)」「深(ふけ)」は坑内用語で上、下の意味である。地層の状態を表現するのに走向(そうこう)と傾斜という用語がある。走向とは地層と水平面との交線のことで、炭層の走向も炭層と水平面との交線である。炭層の採掘にあたって、層内の肩、深に約100ないし200メートル離して走向方向の平行坑道(炭層内に掘削した坑道を沿層(えんそう)坑道という)を2本掘る。肩部沿層を上添(うわぞい)坑道(肩沿層坑道、大肩坑道)、深のそれをゲート坑道(深沿層坑道)という。これら両坑道を傾斜方向の沿層坑道で結ぶとき、この坑道を採炭準備昇(のぼり)といい(単に採準昇(さいじゅんのぼり)ともいう)、この坑道のどちらかの側壁が採掘面(切羽(きりは))となる。一方のみが採掘面となる場合を片翼採炭、両側壁とも採掘面になる切羽の進め方を両翼採炭という。採掘炭は肩から深へと運搬され、ゲート坑道の運炭機に積み込まれて運び出される。通気はゲート坑道を運炭と逆方向に進み、切羽面を深から肩に沿って洗いながら上添坑道を経て排出される。
採炭切羽の運用法にはあらかじめ運炭・通気用の上添、ゲートを掘っておく方法と、上添、ゲートを採掘跡にもつものがある。前者を後退式採炭法、後者を前進式採炭法という。両者とも炭層の存在状態の安定性の点からみて利点、欠点はあるが、どちらかといえば、後退式が保安上も採掘上にもよいとされている。
ゲート坑道に運ばれた採掘炭は深側の「立入(たていれ)坑道」に流入し、さらに炭層の走向方向に掘削された「深片盤(かたばん)坑道」を通って、斜坑または立坑を経て坑外に搬出される。通気は運炭方向とまったく逆であり、肩立入、肩片盤坑道が排気風道になる。肩、深の片盤坑道は炭層の上盤(うわばん)にあっても下盤(したばん)にあってもよいが、一般には下盤が多い。
[磯部俊郎]
炭層の掘り崩しを炭切(たんぎ)りという。昔はつるはしであったが、その後発破とコール・ピック主体に変わってきた。1948年(昭和23)以降、採炭能率(労働者1人1か月当りの産炭量)向上のため、機械化採炭が取り入れられ、コール・カッター、コール・プラオ(コーレン・ホーベル)、ドラム式コール・カッターなどが大幅に用いられるようになり、採掘様式は一変した。これは、第二次世界大戦後、西ドイツなどで用いられ始めた、鉄柱、カッペが従来の木柱、木梁(もくりょう)による切羽支保法にとってかわり、その行き着く先が、自走支保、シールド枠になったことによる。しかし、急傾斜の炭層の採掘にはまだコール・ピックおよび発破が用いられているし、機械採炭の場合でも炭層を緩めて切削を容易にするため発破が併用されている場合が多い。急傾斜層の炭切り法として独特なものに、高圧水の噴射による水力採炭がある。北海道の旧砂川炭鉱は日本での水力採炭に成功した例である。日本の採掘法で世界に誇れるものは砂川での水力採炭、旧太平洋釧路(くしろ)炭鉱での超重装備機械化採炭(シールド枠とドラム・カッターを組み合わせたものでSD採炭法ともいう)であり、海外へも技術輸出を行っている。
[磯部俊郎]
採炭は炭鉱の生命である。したがって能率、保安とも高度のものでなければならない。これまで述べてきた採炭法はいずれも長壁(ちょうへき)式(ロング・ウォール・システム)と称するものであるが、このほか残柱(ざんちゅう)式(柱房式)といって炭層中に、碁盤目のように坑道を掘ることで採炭し、あとは放棄するもの、また、急傾斜層では、下から上に向かって掘り上がり、採掘炭を掘跡に一時ため込んでから、下から抜き取る溜(ため)掘り式などがあるが、推奨できる方法ではない。
また、採掘を高能率化するため、一区域に切羽を集める集約採炭、災害などを他の作業場に波及させないため独立区画をつくる区画採炭も自然条件に応じて適用すべきである。
現状で採炭法上の問題点は、急傾斜層(40度以上)採掘法の確立である。つまり、保安的見地から採掘跡を廃石などで完全に充填(じゅうてん)しなければならないという条件がつきまとうため、よい方法がみつかっていない。北海道の石狩炭田には急傾斜炭層が集中しており、大きな問題となっていた。
[磯部俊郎]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…石炭または亜炭の採掘を行っている所をいう。これに対し,実際に採炭されていなくても採掘可能な炭層を含む夾炭(きようたん)層が連続性をもって分布し,地理的に広い面積を占める地域は炭田という。 炭鉱で石炭を採掘するうえには次のようないろいろの問題点がある。…
※「採炭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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