改訂新版 世界大百科事典 「石製容器」の意味・わかりやすい解説
石製容器 (せきせいようき)
考古学ではとくにメソポタミア,エジプト,ギリシアで,専業の石細工師が製作した石の器をいう。北メソポタミアでは大理石,方解石などの白色系の軟らかい石を加工して容器をつくる風習は新石器時代からあったが,シュメール文明が形成されるころには,石製容器の製作を専業とする工人が都市のなかに現れる。ハラフ文化のものには外面に彫刻文がないが,ウルク文化,ジャムダット・ナスル文化には浮彫や象嵌で器面を飾るものが出現し,初期王朝期以降はとくにバルーチスターンが原産の濃緑色の凍石が素材に選ばれ,みごとな工芸品に加工された。彫刻のなかには,当時の神話や祭式の場面を伝えるものもあって,貴重な資料となっている。エジプトでもファラオが出現する前から,旋盤で石製容器をくり抜く技術が確立しており,ゲルゼ文化では土器で石製容器の形と文様をまねたものが出現する。歴代のエジプト王朝は,乳白色のアラバスターを原材にして,独特の石製容器を生み出すが,とくにファラオのためには水晶やラピスラズリなどの貴石も選ばれた。ギリシアでも新石器時代に大理石を利用して石製容器をつくる風習はあったが,青銅器時代になるとクレタ島のミノス文明がエジプトの石製容器を模作し,交易品としてエーゲ一帯に搬出した。ミノス文明の石製容器は,時代が新しくなるとエジプトのアラバスターに似た感じの大理石から,暗灰色の蛇紋岩に素材が変わり,浮彫で飾られてくる。後期にみられる象嵌の技術はオリエントから影響を受けたものとされる。石でつくられた容器は,東アジアや新大陸でも発達し,中国古代には青銅器を模した精巧なものがある。
執筆者:中村 友博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報