蛇紋岩
アグリコラはオファイト(ophite)や多分オフィカルサイト(ophicalcite)を指して(serpentaria)と呼んだ[Agricola : 1546].蛇紋岩は蛇紋石を主成分とする岩石で,一般に橄欖(かんらん)岩が熱水変質作用によって形成されたと考えられている.蛇紋岩は超塩基性岩として扱われるが,既存の橄欖岩が後に変化したものとして変成岩として扱われた[Eskola : 1939].蛇紋岩は橄欖岩の変質したものと考えられていたために独立した岩石として使われず,serpentine-rockまたは簡単にserpentineと呼ばれていた[Harker : 1908].蛇紋岩化作用(serpentinization)という語があったが,serpentineという岩石名は使われていなかった[Tyrell : 1926].当時の代表的な教科書には蛇紋岩という岩石名は火成岩としては全く使用されていない[Shand : 1927, Tröger : 1935, Johannsen : 1938, Barth : 1952].その後岩石名として蛇紋岩が使用されるようになったが,鉱物名の蛇紋石と同じserpentineを岩石にも使用していた[Hess : 1955].1936年にロドチニコフは岩石名としてserpentiniteを提案したが,一般には用いられていなかった[Lodochnikov : 1936].当時は蛇紋岩と蛇紋石とをserpentine-rockとserpentine-mineralとして区別しており,現在のような意味で蛇紋岩(serpentinite)が使用されたのはターナーなどの頃からである[Turner & Verhoogen : 1951, Williams, Turner & Gilbert : 1954].現在では鉱物を蛇紋石(serpentine),岩石を蛇紋岩(serpentinite)と明瞭に区別している.ラテン語のserpensは蛇のようなという意味.日本語の蛇紋岩は1878年に和田維四郎が用いた[歌代ほか : 1978].
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蛇紋岩
じゃもんがん
serpentinite
ほとんど蛇紋石だけからできている岩石。暗緑黒色、青緑色、黄緑色で樹脂状光沢をもつ。方解石などの炭酸塩鉱物が細かい網状の脈をなすことが多く、蛇の皮に似た模様を示すので蛇紋岩とよばれる。超苦鉄質岩(橄欖(かんらん)岩や輝岩)の橄欖石や輝石が水分と反応して蛇紋石に変化した結果できた岩石である。蛇紋石族には、リザーダイトlizardite、クリソタイルchrysotile、アンチゴライトantigoriteがある。低い温度で反応してできた蛇紋岩はリザーダイトを主とし、中程度の温度で反応してできた蛇紋岩はアンチゴライトを主とする。橄欖石や輝石が完全には蛇紋石に変化しないで残っていることがある。クロム鉄鉱、クロムスピネル、磁鉄鉱を少量含む。
蛇紋岩は、(1)層状貫入岩体の一部分である超苦鉄質岩の層が変化したものと、(2)構造線沿いに、広域変成岩に伴って帯状の岩体として産するものとがある。(1)の例はアメリカ合衆国モンタナ州のスティルウォーター複合岩体が有名。(2)の例は、日本では北海道の神居古潭(かむいこたん)変成帯や、四国の三波川(さんばがわ)変成帯、外国ではオーストラリアのニュー・サウス・ウェールズ州東海岸のグレート・サーペンティナイト・ベルト(大蛇紋岩帯)、イギリスのコーンウォール半島リザード岬(みさき)、アルプス山脈などにみられる。蛇紋岩は銅、鉄、ニッケル、石綿、滑石の鉱床を伴うことがある。
蛇紋岩は軟らかくて細工しやすいので、模様の美しいものは彫刻を施して装飾品に、また装飾用石材に用いられる。埼玉県秩父(ちちぶ)産の蛇紋岩は、方解石の脈が発達していて鳩(はと)の糞(ふん)のような外観を示すので鳩糞石(きゅうふんせき)とよばれ、最高級の石材であるが、現在ではほとんど産出しない。蛇紋岩はまた溶成リン肥の原料にもなる。
[千葉とき子]
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蛇紋岩
じゃもんがん
serpentinite
アンチゴライト,温石綿 (クリソタイル) ,リザーダイトなどの蛇紋石族鉱物を主成分鉱物とする岩石。磁鉄鉱,クロム鉄鉱,自然銅,アワルアイト,滑石などを多少含む。超塩基性ないし塩基性火成岩が初生変質作用,熱水変質作用などを受けて,マグネシウムに富む橄欖石,輝石,角閃石などが蛇紋石化したもの。新鮮な蛇紋岩は緑色を呈するが,原岩中の鉄含量が多いほど暗色を示す。造山帯からスピライトなどを伴って産することが多く,これらは地向斜堆積物中に貫入した超塩基性岩などが,海水などによる変質作用を受けて生成したものと解される。蛇紋岩は大きな断層線に伴って分布することがあり,風化して地すべりの原因となる。
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蛇紋岩【じゃもんがん】
ほとんど蛇紋石からなる岩石。黄緑〜暗緑色の緻密(ちみつ)な岩石で美しく,指に脂感を与える。ときに多量の方解石を白いまだら模様に含み,装飾石材として用いられる。カンラン岩に水が加わり,かつ構造運動でストレスが作用し,カンラン石が蛇紋石になってできる。この作用を蛇紋岩化作用という。
→関連項目鳩糞石
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じゃもん‐がん【蛇紋岩】
〘名〙 蛇紋石を主成分とする岩石。橄欖(かんらん)岩、輝岩などが変質したものが多く、緻密(ちみつ)でつやがあり、黒・暗緑色などを呈する。滑石、方解石、輝石、磁鉄鉱などが美しい模様を生じ、装飾用、建材に用いられる。〔日本風景論(1894)〕
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デジタル大辞泉
「蛇紋岩」の意味・読み・例文・類語
じゃもん‐がん【蛇紋岩】
蛇紋石を主成分とする岩石。暗緑色ないし緑色で、すべすべした感じがある。橄欖岩や輝岩が変質してできる。肥料の原料、装飾石材とする。
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じゃもんがん【蛇紋岩 serpentinite】
主として蛇紋石よりなる岩石。カンラン岩などの超塩基性岩が変質して生じる。もとのカンラン石,輝石,クロム鉄鉱などが残っている場合が多い。カンラン石が蛇紋石に変わる際,鉄分を磁鉄鉱として晶出させるが,ときには自然鉄や鉄‐ニッケル合金(アワル鉱)などの非酸化物を生じることがあり,蛇紋石化が還元的条件で起こることを示す。変質鉱物はほかに,条件によって滑石,ブルーサイト,透セン石,緑泥石などが伴われる。蛇紋岩が熱変成作用や広域変成作用を受けた場合には,鉄分が少なく,マグネシウムに富む透輝石,直セン石,エンスタタイト,カンラン石などができる。
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世界大百科事典内の蛇紋岩の言及
【蛇紋岩植物】より
…蛇紋岩の化学的・物理的特性を反映し,蛇紋岩地帯には特殊な植物が生育することが知られているが,蛇紋岩地帯に限って生育する植物が蛇紋岩植物である。ここでいう蛇紋岩とは,変質した超塩基性岩のほか,カンラン岩などの超塩基性岩そのものも含めた広義のものをさす。…
【石材】より
…特に教会など石造建築では,石灰岩,大理石と並んで多用されている。(5)石灰岩・大理石・蛇紋岩 石灰岩のうち美しい色や模様を示すものや,それが変成作用を受けて再結晶した大理石は,石材の中で最も美しいものである。きめが細かいうえに硬度が低く加工しやすいので,古くから建築用および装飾用石材,彫刻用の材料として利用されてきた。…
【超マフィック岩】より
…おもなものは,カンラン岩,パイロクシナイト,コートランダイト,エクロジャイト,キンバーライト,コマチアイトなどで,カンラン岩とパイロクシナイトは,カンラン石と斜方輝石と単斜輝石の量比により,図のように分類されている。カンラン岩が変質してできた蛇紋岩も超マフィック岩に含まれる。超マフィック岩の大部分は貫入岩,あるいはアルカリ玄武岩やキンバーライト中の包有物(捕獲岩)として産する。…
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