翻訳|calcite
炭酸カルシウムの鉱物。劈開(へきかい)の完全な鉱物、複屈折の顕著な鉱物としても有名である。あられ石およびファーター石とは同質異像関係にある。石灰岩の主成分、温泉沈殿物、あるいは各種熱水鉱脈鉱床の脈石鉱物として産し、また超塩基性岩中に脈をなし、玄武岩の空隙(くうげき)中にも産する。日本では知られていないが、カーボナタイトと称する炭酸塩マグマの固化物としてもっとも普通の種である。自形は変化に富み、平行六面体、板状、犬牙(けんが)状、低い三方両錐(すい)などのほか、六角柱状となることもある。また、石灰華や鍾乳(しょうにゅう)石あるいは球顆(きゅうか)状集合体をなすこともある。日本では産地はきわめて多く、岐阜県神岡鉱山(閉山)、鹿児島県串木野(くしきの)鉱山をはじめ、岩手県宮古(みやこ)市日出島(ひでしま)のいわゆる蝶(ちょう)形双晶はとくに有名である。セメントをはじめ各種工業原料としても重要。英名はギリシア語で石灰を意味するcalxに由来する。
[加藤 昭 2018年10月19日]
化学組成はCaCO3で六方晶系に属し,アラゴナイトと多形をなす鉱物。天然の鉱物中で晶相変化の最も著しいものの一つで,薄板,厚板,短柱,長柱,菱面体,犬牙状,釘頭状など種々の外形をなす。双晶は(0001)と(0112)を双晶面とするものが最もふつうで,そのほかまれではあるが,(1011)と(0221)を双晶面とするものがある。へき開は完全で,ハンマーでたたくと菱面体の各面に平行な方向に割れる。モース硬度3,比重2.7102,複屈折ははなはだ高く,方解石を通して文字などを見ると二重に見える。大きくて透明な結晶は,氷州石(アイスランドスパーiceland-spar)と呼ばれ,アイスランドの火山岩中の空洞などに産出する。そのようなものは偏光顕微鏡のニコルプリズムの材料として珍重された。ふつう無色透明あるいは白色半透明であるが,不純物を含むと灰色,黄色,褐色,赤色,緑色,青色,黒色などになる。冷塩酸に容易に溶け発泡する。紫外線の下でしばしば蛍光,リン光を発する。MnCO3との間には連続固溶体を,FeCO3,ZnCO3,CaMg(CO3)2との間には部分的固溶体系列がある。石灰岩は方解石の微細な粒子からなり,変成作用を受けると大きい方解石の集合体,すなわち大理石となる。またカルシウムに富んだ変成岩や鉱脈中にも産する。石灰岩は石灰,セメントの主要資源で,製錬用融剤としても使用されている。大理石や石灰岩は石材としても広く利用されている。また鍾乳石,石筍も微細な方解石からなる。R.J.アウイは,いろいろな形の方解石を割ると,すべてのものが平行六面体の細片になることから,方解石は非常に小さい平行六面体moleculeの集まりであると考えた。方解石の語はへき開片の形状による命名であり,《和名抄》にも見える。calciteはラテン語に由来し,焼いて生石灰を生ずる性質から命名されたもの。
執筆者:柿谷 悟
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
CaCO3.たい積岩,火成岩,熱水鉱床中に産出する.また鐘乳石,石筍(じゅん)などをつくる.三方晶系,空間群 Rc,格子定数 a0 = 0.498,c0 = 1.702;a(rh)=0.636 nm.α = 46°06′.りょう面体格子中に2個の基本組成を含む.へき開{101}完全.硬度3.密度2.710 g cm-3.800 ℃ 以下での加熱により,c軸は増大するが,a軸は収縮,面角は加熱により増大する.紫外線,X線,電子線,太陽光により,蛍光,りん光を発する.多形として,あられ石,ファテライトなどがあるが,方解石が安定形である.約800 ℃ で分解し,CaOとCO2とになる.しばしば Fe2+,Mn2+,Mg2+,Ba2+,Sr2+,Pb2+ などを含む.FeCO3成分に富むものは火成岩中の晶洞に発見される.Mg2+ は約20% まで固溶する.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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