上級裁判所が、下級裁判所の下した原判決を破棄して原裁判所に審理を戻すこと。
[内田武吉・加藤哲夫]
上告審の裁判所が上告を理由ありとするとき(民事訴訟法312条1項、2項)に、原判決を破棄して事件を原裁判所に差し戻すことをいう(同法325条1項)。続審たる控訴審では、自判が多く、差戻しはむしろ例外であるが(同法307条、308条)、法律審たる上告審では、原則として事実認定をしないので、破棄差戻しが多くなり、破棄自判は一定の場合(同法326条)に限られる。なお、原判決を破棄した場合に原裁判所と同等の他の裁判所へ移送すること(破棄移送)もある(同法325条1項)。いずれにせよ上告審の判決はただちに確定するから、ただちに原審級の裁判所に係属するという効果が発生する。したがって、差戻しによって事件は原審級へ移審し、差戻しを受けた下級裁判所は、新たに口頭弁論を開いて裁判することになる。この場合、破棄の理由となった上告審の事実上および法律上の判断に拘束される(同法325条3項)。また、原判決に関与した裁判官は差戻し後の裁判に関与できない(同法325条4項)ことになっている。
[内田武吉・加藤哲夫]
控訴審または上告審で原判決を破棄したときは、自判・移送の場合を除き、被告事件を原裁判所に差し戻す。上告審の場合は第一審裁判所に差し戻すこともできる(刑事訴訟法398条、400条、413条)。
[内田武吉・加藤哲夫]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…上告状に不備がありそれが補正できない場合に原裁判所の裁判長がする上告状の却下(314条2項,288条),上告が不適法でそれが補正不可能な場合や,定められた期間内に上告理由書が提出されなかったり,上告理由書の記載が定められた方式によっていない場合に原裁判所がする上告却下の決定(316条1項),同じ理由あるいは,上告の理由が明らかに312条1項および2項に規定する事由に該当しないことを理由として上告裁判所がする上告却下の決定(317条),上告裁判所が上告状,上告理由書,答弁書等の書類によって上告に理由がないと判断した場合に,口頭弁論を経ずにする上告棄却の判決(319条),上告裁判所が口頭弁論を経たうえで上告に理由なしとしてする上告棄却の判決,口頭弁論を経て,上告に理由があるものと上告裁判所が認めた場合にする原判決破棄の判決(325条1項)である。そして原判決を破棄する場合には,上告裁判所がみずから事実認定をやり直して事件の内容について判断を下すわけにいかないため,原則として事件を原審に差し戻す(破棄差戻し)か,原裁判所に差し戻すことが不都合なときは,同等の他の裁判所に移送(破棄移送)する(325条1項)。原判決を破棄するとはいえ,原裁判所の事実認定は十分に行われており,上告裁判所が法令の解釈適用をみずからやり直しさえすれば事件が解決できる場合と,事件が裁判所の権限に属さないという理由で原判決を破棄する場合には,上告裁判所はみずから事件を落着させる判決(破棄自判)をすることができる(326条)。…
※「破棄差戻し」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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