上級裁判所において、上訴が理由あると認めて原判決を取り消す際に、事件を原裁判所に戻して、もう一度審理させることをいう。これに対して、原判決を取り消したうえ、自ら原裁判所にかわって裁判することを自判という。
[内田武吉・加藤哲夫]
民事訴訟では、控訴裁判所が第一審判決を取り消して差し戻す場合(民事訴訟法307条、308条)と、上告裁判所が原判決を破棄して原裁判所に差し戻す(破棄差戻し)か、または同等な他の裁判所に移送(破棄移送)する場合(同法325条1項)とがある。控訴審では、訴えの利益や能力の欠缺(けんけつ)などを理由に訴えを不適法として却下した第一審判決を、控訴裁判所が不適法でないとして取り消すときに、もう一度弁論・裁判をさせるために差し戻すのであり(必要的差戻し)、また、その他の理由によって取り消すときでも、弁論の必要があると認めたときは差し戻すことができる(任意的差戻し)。控訴審では、自判が原則で、差戻しは例外である。これに対し上告審では、その性格上、破棄自判するのは一定の場合に限られ(同法326条)、差戻しが原則である。
[内田武吉・加藤哲夫]
刑事訴訟では、上訴裁判所が原判決を破棄して、判決で事件を原裁判所または第一審裁判所に差し戻すことをいう。控訴裁判所が原判決を破棄して、判決で事件を原裁判所に差し戻さなければならない場合(破棄差戻し、刑事訴訟法398条)、判決で事件を原裁判所に差し戻しまたは原裁判所と同等の他の裁判所に移送しなければならない場合(同法400条本文)、上告裁判所が原判決を破棄して、判決で事件を原裁判所もしくは第一審裁判所に差し戻しまたはこれらと同等の他の裁判所に移送(破棄移送)しなければならない場合(同法413条本文)などがある。上訴裁判所が原判決を破棄した場合は、差戻しが原則であり、自判は例外である(同法400条但書、413条但書)。差戻しを受けた裁判所は、改めて事件について審判することになる。ただし、上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について下級審の裁判所を拘束する(裁判所法4条)。なお、裁判員裁判による判決に対する上訴手続も以上と同じであるから、裁判員の参加した判決について控訴裁判所が破棄差戻しをすることもありうる。ただし、差戻しを受けた第一審裁判所は改めて裁判員を選任したうえで裁判員裁判を行うことになる。
[内田一郎・田口守一]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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