日本大百科全書(ニッポニカ) 「破産免責」の意味・わかりやすい解説
破産免責
はさんめんせき
破産手続が終結した後、破産者をして残余債務を免れさせる立法制度。免責(discharge)とは、誠実な破産者に対する特典として、裁判所の裁判により、破産手続を通じてなされた配当で弁済されなかった残余の債務について、破産者の責任を原則として全面的に免除することをいう。この破産免責制度の導入と、これに伴う当然復権制度の採用は、1952年(昭和27)の旧破産法改正によりなされたものであって、2004年(平成16)に制定された現行の破産法(平成16年法律第75号)にも承継されている。この破産免責は第二次世界大戦後の日本の私法領域に及ぼした英米法思想のもっとも顕著な影響の一つとして、高く評価されている。従来、日本においては、破産者は破産手続終了後でも破産手続において弁済されなかった残余の債務について、なおその責めに任ずることになっていたので、一生涯債務の重圧に苦しんで生活を送らねばならなかった。しかし破産者といえども、とくに責めるべき行為もなく、誠実に破産者としての義務を果たしている者に対しては、破産手続において弁済されなかった残余の破産債権については、その責任を免除し、速やかに再起・更生することができるようにするというのが、この制度の目的である。アメリカにおいては、破産手続の利用は、免責を得ることを意味し、債務者の再起・更生のもっとも有効な手段と考えられている。
現行法における破産免責の制度によれば、免責許可の決定は個人である破産者の申立てによってだけ与えられることとなっているが(破産法248条1項)、一定額の弁済は要件とされず、破産手続による配当を除き破産債権者に対する債務の全部につき、非免責債権(同法253条1項但書1号~7号)を除いて免責される。このような破産免責の効力は、破産者の保証人その他破産者とともに債務を負担する者に対して有する権利には影響を及ぼさないし、物上保証のように破産者以外の者が破産債権者のために供した担保にも影響を及ぼさない(同法253条2項)。
詐欺破産罪(同法265条)について、破産者に対する有罪の判決が確定したときは、裁判所は、破産債権者の申立てにより、または職権で、免責取消しの決定をすることができる(同法254条1項前段)。また、破産者の不正の方法によって免責許可の決定がされた場合において、破産債権者が免責許可決定の後1年以内に免責取消しの申立てをしたときも同様である(同法254条1項後段)。
[内田武吉・加藤哲夫]
『加藤哲夫著『法律学講義シリーズ 破産法』(2009・弘文堂)』