日本大百科全書(ニッポニカ) 「磁気ひずみ」の意味・わかりやすい解説
磁気ひずみ
じきひずみ
強磁性体や反強磁性体の磁気モーメントが、秩序温度以下で磁気的に配列した際、結晶がわずかに変形する現象をさす。とくに強磁性体を消磁状態から磁場を加えて磁化したときに、物質が磁化の方向に伸縮する現象を磁歪(じわい)とよぶ。この磁歪は、磁区の内部の磁気ひずみが、磁区の磁化の方向がそろうとともに外部に現れたもので、磁化が飽和するとともに飽和する。この飽和磁化の状態からさらに強い磁場によって物質を磁化すると、物質も磁場に比例して膨張する。このひずみを強制磁歪とよぶ。磁気ひずみには、体積変化はおこらず形状が変化する場合と、体積変化がおこる場合がある。前者は主として電子の軌道運動が磁気モーメントに寄与している場合に生ずる。一方後者は、磁気相互作用が磁気モーメント間の距離に強く依存する場合に発生する。後者の場合を体積磁歪ともよぶ。先に述べた強制磁歪は体積磁歪の一つの形である。遷移金属およびその化合物の磁性体では、多くの場合、軌道運動による磁気モーメントはきわめて小さく、磁気ひずみも10-6~10-5程度である。一方、希土類金属およびその化合物の磁性体では、軌道磁気モーメントが大きいので、ひずみも10-3程度と大きくなる。ある種のマンガン化合物では強磁性の発現に格子歪みが密接にかかわっており、キュリー温度で10-3を超える非常に大きな磁歪が生じる。またインバー合金とよばれる遷移金属合金では、正の体積磁歪が大きく、格子の熱膨張を打ち消し、物質が見かけ上熱膨張しなくなる。この現象をインバー効果とよぶ。
[石川義和・石原純夫]