強磁性体を磁界中に置き、磁化を観察すると、磁界の強さの増加とともに磁化は増加し、ある磁界以上では一定の値をとる。この状態を磁気飽和といい、このときの磁化の大きさを飽和磁化とよぶ。このような磁化の変化(磁化過程)は強磁性体に特有のふるまいであり、強磁性体内部に存在する無数の磁区が、磁界によって統合され、単一の磁区となることに対応している。もともとそれぞれの磁区の中では、すべての原子の磁気モーメント(原子磁石)は同じ方向を向いて整列し、外部から磁界をかけなくても自発的に磁化が形成されている。したがって、磁気飽和して単一の磁区になるときに観察される磁化、飽和磁化の大きさは自発磁化の大きさに等しい。飽和磁化は、温度が絶対零度のときに最大で、このときの大きさを絶対飽和磁化とよぶ。強磁性体を温めると、温度の上昇とともに、飽和磁化の大きさは減少し、キュリー温度以上でゼロとなる。このふるまいは自発磁化の温度に対するふるまいと同じである。しかし、実際に強い磁界の中で飽和磁化を観察すると、キュリー温度で磁化が完全にゼロにならず、さらに温度を上げると徐々にゼロに近づくことがある。これは、外部からかけた磁界によって、原子の磁気モーメントの熱振動によるゆらぎが抑えられ、磁界方向の磁気モーメントの成分が存在するためである。キュリー温度以上に十分温度を上げればほぼゼロになる。
強磁性体はそれぞれ固有の飽和磁化(=自発磁化)をもっている。磁気飽和の起こる磁界の大きさは、強磁性体の種類によって異なり、磁気異方性の大きさに比例し、自発磁化の大きさに反比例する。変圧器の鉄心に用いられる軟磁性材料(鉄心用材料)では、磁気異方性が小さいため、きわめて小さな磁界で飽和するが、永久磁石として用いられる硬磁性材料では、磁気異方性がきわめて大きいため、軟磁性材料の10万倍くらいの磁界をかけても飽和しないことがある。飽和磁化の大きな物質として、鉄‐コバルト合金、希土類金属などが知られている。強い磁界を発生させる電磁石の磁極材料には、飽和磁化の大きい物質(材料)を用いる。これは、磁極材料が小さな磁界で磁気飽和することを防ぐためである。磁気飽和する磁界の大きさは物質の形状や質など二次的な要因によっても変化することがある。したがって、どのような強磁性体であっても、飽和磁化(自発磁化)を決定する際には、十分に大きな磁界をかけ、完全に磁気飽和に達していることを確認して評価する必要がある。飽和磁化の大きさは、応用面においてもっとも重要な因子であり、単位はWb/m2である。
[永田勇二郎]
『太田恵造著『磁気工学の基礎1、2』(1973・共立出版)』▽『近角聰信著『強磁性体の物理』上下(1978、1984・裳華房)』▽『加藤哲男著『技術者のための磁気・磁性材料』(1991・日刊工業新聞社)』▽『島田寛・山田興治編『磁性材料――物性・工学的特性と測定法』(1999・講談社)』
強磁性体やフェリ磁性体の消磁状態から磁場を加えると,磁化は徐々に増加し飽和に達する.このときの磁化の強さを飽和磁化という.飽和磁化の大きさは自発磁化と同じで,温度の上昇とともに減少し,キュリー温度で消失する.[別用語参照]磁化曲線
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…そしてある程度以上の磁場では磁化はほとんど増加しなくなる。このときの磁化(図のSS′)を飽和磁化saturation magnetizationと呼ぶ。次に磁場の大きさを減少させると磁化は減少するが,磁場を0にしても磁化は0にならない。…
… 強磁性体の磁化(単位体積当りの磁気モーメント)を磁場の関数として観測すると,図のようなグラフが得られる。すなわち,十分強い磁場を加えると,強磁性体は図のA点のように,一定の磁化(飽和磁化)に達する。A点から磁場を減らして0にすると,曲線はBに達する。…
※「飽和磁化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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