磁区(読み)じく(英語表記)magnetic domain

  • 磁区 magnetic domain

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

強磁性体原子磁気モーメントがすべて平行に並んでいる小さな領域の集合とみなされ,この領域を磁区という。磁区は強磁性体コロイド電解研磨した強磁性体の面上につけて,顕微鏡によりコロイドの図形を観察することによりその存在が確かめられている。磁区は静磁エネルギースピン間の交換相互作用エネルギー,磁区の境界 (磁壁) にたくわえられる表面エネルギー,スピンの向きを指定する異方性エネルギー磁歪による弾性エネルギーなどの和が最小になるように配置する。磁区の大きさは試料の大きさおよび形によっても大きな影響を受ける。また磁化過程でその大きさおよび方向が変化し,磁区の方向が完全にそろったときに磁気飽和に達する。完全にばらばらのとき磁化はゼロである。

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百科事典マイペディアの解説

強磁性体の内部は自発磁化をもつ多くの小区域に分かれており,この小区域を磁区という。磁区の磁化の方向がまちまちのときは全体として外部に磁化を示さない。外部から磁場をかけると,まず磁場の方向に近い磁化方向をもつ磁区が境界を次第に広げて体積を増し,外部磁場がさらに強くなると磁区自体が回転して外部磁場の方向に向かう。こうして磁化が進み全部の磁区が磁場方向にそろうと磁気飽和に達する。外部磁場を減らすとほぼ逆の過程をたどるが,完全にもとに戻らないため残留磁化を生ずる。磁区は強磁性体の表面を研磨し強磁性体微粒子にFe3O4を含むコロイド液を落とすことにより観察できる。→磁気バブル磁気ヒステリシス
→関連項目キュリー温度磁性体磁歪

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世界大百科事典 第2版の解説

一般に強磁性体およびフェリ磁性体はその内部が磁化(自発磁化)の向きの異なる領域に分かれている。この領域のことを磁区といい,その境界を磁壁magnetic domain wallsと呼ぶ。強磁性体が,見かけのうえで磁化をもたない消磁状態になることがあるのは,全体の磁化が打ち消されてしまうような磁区構造をもつ場合があるためである。磁区の大きさは小さいもので10-4cm,大きいもので1cm程度である。 磁区の存在は1907年P.ワイスによって予想されていたといわれるが,実験的には31年アメリカのビッターFrancis Bitter(1902‐67)により初めてその存在が示され,理論的研究はL.D.ランダウとE.M.リフシッツにより始められた(1935)。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

強磁性体の内部は、自発磁化の向きの異なる数多くの微少な領域に分かれている。この領域を磁区という。磁区内では、原子の磁気モーメント(原子磁石)は皆同じ方向を向き、自発磁化を形成している。もし磁区に分かれず、強磁性体の原子磁石がすべて同じ方向を向くと、磁性体の表面に磁極が現れ、内外に磁界を生じる。強磁性体の自発磁化は、この自らつくりだした磁界の中に置かれることになり、磁気エネルギー(静磁エネルギー)が発生する。自然界はエネルギーが低いほど安定であるが、この静磁エネルギーによる磁性体のエネルギーの増加はこれとは相反する。そこで、強磁性体は、静磁エネルギーの発生を抑えるため、自ら内部でいくつかの磁区に分かれ、それぞれの磁区内の自発磁化が、磁性体の表面に磁極を発生しないように、複雑な幾何学的配置をする。磁区の大きさ(面積)は物質によって異なるが、およそ10-12m2から10-6m2程度である。強磁性体は、磁界にさらされたことがなければ見かけは磁石のようには見えない。これは、各磁区の自発磁化が互いに打ち消し合って、外部に現れないためである。外部から磁界をかけると、その磁界の向きに一番近い方向に自発磁化が向いている磁区の体積が増加する。磁界を強くすると、ついには全体が一つの磁区となる。この状態を磁気飽和といい、このとき観察される磁化を飽和磁化という。飽和磁化の大きさは自発磁化に等しい。

 各磁区は磁壁とよばれる境界によって仕切られている。磁壁は有限の厚みをもっている。もし磁壁に厚みがなく、自発磁化の向きが大きく異なる磁区が接すると、互いの磁化の間に大きな相互作用(交換相互作用)のエネルギーが生じ、磁性体の自由エネルギーが増加する。磁壁の内部では数百原子層にわたって、一方の磁区の磁化の向きから他方の磁区の磁化の向きに原子磁石が徐々に向きをかえ、このエネルギーの増加を抑えている。磁区内の原子磁石は、物質固有の磁気異方性によって、一定の方向(磁化容易方向)を向いているが、磁壁内で原子磁石が磁区内の磁化の方向から向きを変えると、磁気異方性エネルギーが増加する。相互作用に起因するエネルギーは磁壁が厚く、原子層を増すほど抑制できるが、逆に磁気異方性に起因するエネルギーは磁化容易方向からずれた原子磁石が増えるほど増加する。磁壁の厚みはこれらのエネルギーの和(磁壁エネルギー)が最小になるように決定される。代表的な強磁性体である鉄の場合、磁壁の厚みは約1000万分の1メートル程である。磁区の形と配置は強磁性体の応用面においてきわめて重要な因子となるが、強磁性体の形状、磁気異方性の大きさ、自発磁化の大きさなどを調整することにより制御することができる。

[永田勇二郎]

『太田恵造著『磁気工学の基礎1、2』(1973・共立出版)』『近角聰信著『強磁性体の物理』上下(1978、84・裳華房)』『加藤哲男著『技術者のための磁気・磁性材料』(1991・日刊工業新聞社)』『近桂一郎・安岡弘志編『丸善実験物理学講座6 磁気測定1』(2000・丸善)』

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精選版 日本国語大辞典の解説

〘名〙 強磁性体の内部で一様な向きに磁化している小領域。そこでの一様な磁化を自発磁化といい、原子のもつ磁気モーメントが整列してつくられる。強磁性体が多くの磁区に分かれている状態は、全体として磁化していないので消磁状態という。外部から磁界を加えると磁区と磁区との境界(磁壁)が移動したり、自然磁化が回転したりして、全体として磁化する。最後には全体が一つの磁区となり飽和に達する(飽和磁化)。ドメイン。

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化学辞典 第2版の解説

強磁性体は通常多数の小さな領域に分かれていて,それぞれの領域には自発磁化が存在する.この小さな領域を磁区という.強磁性体の消磁状態では,それぞれの磁区の自発磁化の方向がまちまちなので,自発磁化は互いに打ち消されて,強磁性体全体としては磁化は存在しないようにみえる.磁区と隣りの磁区との境界を磁壁という.強磁性体に磁区が存在する理由は,強磁性体全体が一つの領域になっているよりは,多数の磁区に分かれているほうがエネルギーが低くなるからである.磁区の大きさは,強磁性体の静磁エネルギー,磁気異方性エネルギー,磁ひずみに伴う弾性エネルギーの合計を最小にするように決められる.したがって,磁区の大きさは物質によって異なるだけでなく,同じ物質でも試料の大きさや形状にも依存する.磁区の存在を最初に予言したのはP. Weissである.[別用語参照]磁化過程

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