改訂新版 世界大百科事典 「社会体系論」の意味・わかりやすい解説
社会体系論 (しゃかいたいけいろん)
The Social System
アメリカの社会学者T.パーソンズの主著の一つ。1951年刊行。〈システム〉の概念を人間行為にかかわる諸現象の分析に適用して〈社会体系〉という概念を確立し,この概念を方法論的に支えるものとしての〈構造-機能分析〉理論を社会学に定着させた重要な著作である。〈システム〉の概念を社会現象に適用することは19世紀以来の社会有機体論および社会機械論によって行われてきたが,それらは多くの場合理論的抽象化が不十分で直接的アナロジーにとどまり,そのため社会学理論としての評価を受けるまでに至らなかった。彼は社会学の機能分析の論理に生物学のホメオスタシス,経済学の一般均衡理論,およびサイバネティックスや一般システム論などの分析論理をとり入れ,さらに社会現象の分析に適合するようにするため構造という概念をこれに付加して,構造-機能分析の方法をつくりあげた。
しかし本書の主要部分は,そのような方法論的議論よりも,社会体系論そのものの実質的内容の展開にあてられている。すなわち,(1)社会体系を人間行為の体系としてとらえ,複数の行為がシステムとして統合される過程を,共通価値の制度化という面から説明する。(2)社会体系の構造形成を,(a)役割への人員配分,(b)個人への用具および報酬の配分,という配分問題として機能的に説明する。(3)価値の諸類型を五つの〈パターン変数〉の組合せによる32のボックスによって図式化し,この価値のタームによって社会構造の類型を区分する。(4)個々人の行為が社会構造を形成し維持する(もしくは古い構造を変化させ新しい構造の形成に向かわせる)動機づけの過程を考察し,これを社会化のメカニズムとして説明する。(5)社会体系内部に役割葛藤や逸脱行動が発生する過程を考察し,社会体系のこれに対する対処を社会統制のメカニズムとして説明する。(6)人間行為におけるシンボルの役割を考察し,科学,イデオロギー,宗教,芸術などをシンボル体系として説明する。(7)社会体系の変動の方向について考察し,社会変動を説明する二,三のモデルを提示する,である。
執筆者:富永 健一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報