日本大百科全書(ニッポニカ) 「社会体系」の意味・わかりやすい解説
社会体系
しゃかいたいけい
social system
社会システムともいう。社会(相互作用しあう複数の行為者を含むなんらかのまとまり)を一つのシステム(体系)としてとらえる考え方。ただし、対象を一つのシステムと見立てることは、あくまでもとらえる側からの抽象的な組立てである。このような考え方は意図的、意識的には「システム理論」一般の発展を待たねばならなかったが、社会(たとえば、全体的観察の比較的容易であった原始社会)を、それを構成する要素、要素間の諸関係、そしてそのようにしてできあがる「全体性」という視点から理解しようとする試みは、たとえばイギリスの社会人類学者たちによる機能主義的方法などにみられるとおり、早くから存在したのである。そのより遠い源流としては、社会を一つの有機的全体として観念しようとする、いわゆる社会有機体説などをも想定することができる。
[中野秀一郎]
社会体系の理論化
1950年代に入ると、ハーバード大学を拠点として2人の社会学者、すなわちG・C・ホマンズとT・パーソンズが積極的に社会体系の理論化に乗り出した。もっぱら小集団に的を絞りながらホマンズが構想した社会システム論(『ヒューマン・グループ』1950)は、いわゆる機械モデルといわれるものであり、「環境」のなかで存続する人間集団は、(1)集団成員の活動、(2)彼らの相互作用、(3)その心的状態としての感情(および規範)という三つの要素の相互作用関係を形成する、というものであった。その際、集団が環境と相互作用するときに生起する「対外システム」と集団内部の課題解決のために形成される「対内システム」が統合されて、全体的な社会体系が形成されると考えられている。
これに対して、パーソンズの社会システム論は通常、有機体論的モデルとよばれ、その定式化は機能主義や社会有機体説のいっそう強い刻印をとどめもつものであった。パーソンズは当初「行為理論」から出発したため、「役割」を単位とする社会体系を構想したにすぎなかったが、のちには小集団研究者のベールズRobert Freed Bales(1916―2004)との共同作業を通して、いわゆるAGIL図式とよばれる社会体系論に到達する。ここでは、社会体系は内外の課題(機能要件)にこたえるべく「分化」した四つの機能分化下位体系によって構成されているとする。すなわち、(1)適応adaptation、(2)目標達成goal-attainment、(3)統合integration、(4)潜在性latency、または型の維持と緊張処理pattern-maintenance & tension-managementである。さらに、重点課題の時間的移行によって体系状態が変化するいわゆる「局面運動」phase movementの考え方も披瀝(ひれき)されているのである。
[中野秀一郎]
社会体系論の展開
社会体系論は、その後パーソンズ自身の自己修正をも含めていっそうの発展をみたが、その焦点には、それまでの均衡指向モデルにかわって、変動や進化に強い関心を示すさまざまのモデルが登場した。実際パーソンズ自身が進化論とサイバネティックスの影響を受けてその社会体系モデルをきわめて動態的なものに変えることに貢献したし、他方バックレイWalter Buckley(1921/1922―2006)の「構造生成メカニズム」morphogenesis概念の導入や、ミラーJames Grier Miller(1916―2002)の「生命体システム」living systemsの考え方が社会体系論の発展に大きな影響を与えた。今日、社会体系は「情報」と「資源」を処理する高度に適応的な自己組織系(自己組織性をもったシステム)であると考えられている。
なお、この系列とは別にパーソンズのもとで学んだドイツの社会学者ルーマンは、人間行為におけるセマンティックス(意味論)やコミュニケーションを重視して、その観点から行為や人間ではなく、コミュニケーションからなる社会システムを構想した。
[中野秀一郎]
『G・C・ホーマンズ著、馬場明男・早川浩一訳『ヒューマン・グループ』(1959・誠信書房)』▽『T・パーソンズ著、佐藤勉訳『社会体系論』(1974・青木書店)』▽『T・パーソンズ著、井門富二夫訳『現代社会学入門14 近代社会の体系』(1977・至誠堂)』▽『T・パーソンズ著、倉田和四生訳『社会システム概論』(1978・晃洋書房)』▽『W・バックレイ著、新睦人・中野秀一郎訳『一般社会システム論』(1980・誠信書房)』▽『新睦人・中野秀一郎著『社会システムの考え方――人間社会の知的設計』(1981・有斐閣)』▽『ニコラス・ルーマン著、佐藤勉監訳『社会システム理論』上下(1993、1995・恒星社厚生閣)』▽『ゲオルグ・クニール、アルミン・ナセヒ著、舘野受男・池田貞夫・野崎和義訳『ルーマン 社会システム理論――「知」の扉をひらく』(1995・新泉社)』▽『今田高俊・鈴木正仁・黒石晋編著『複雑系を考える――自己組織性とはなにか2』(2001・ミネルヴァ書房)』