社会的迷惑(読み)しゃかいてきめいわく(英語表記)public thoughtlessness

最新 心理学事典の解説

社会を安全かつ平和に維持しているものの一つは法律である。しかし,日常的な社会行動を円滑に進めているのは,法律とは別の社会規範である。いわゆるマナー,エチケット,公衆道徳とよばれるような行動の規範を示すものである。社会規範が揺らぎ,社会で共有されなくなると,他者の行動によって不快感やストレスすなわち迷惑を受ける。つまり,社会的迷惑という概念は,行為者本人が意図するかしないかにかかわらず,当該行為が本人を取り巻く他者や集団・社会に対して直接的または間接的に影響を及ぼし,多くの人が不快と感じるプロセスを意味している。

 社会的迷惑を解明するためには,行為者側,迷惑を受ける側(認知者),迷惑が生じる状況の三つのアプローチがある。行為者側からのアプローチでは,共感性,社会的自己制御,社会的情報処理などの個人差変数が取り上げられている。共感性の低さ,社会的場面における自己制御の未熟さや情報処理の歪みが社会的迷惑行為を生じさせるという研究である。認知者側からのアプローチでは,迷惑行為を迷惑だと感じるには,個人的な不快や不利益といった視点ではなく,自分以外の他者や社会全体への影響を考慮する視点(社会的影響の認知)や,自分以外の多くの人も迷惑だと感じているという考慮(社会的合意の認知)が必要であること,あるいはまた,社会とかかわるこのようなその考慮を高めるような教育実践をしていくことが社会的迷惑行為を抑制することにつながることが提唱されている(吉田俊和・廣岡秀一・斎藤和志,2002)。状況からのアプローチでは,集団や組織内で起きる迷惑行為は集団アイデンティティや組織風土と密接に関連すること,行為者と認知者が注目する規範のずれ(授業中の私語はクラス全体に対する迷惑行為になるが,親しい友だちから話しかけられて,それを無視することは,友だち規範に反する)が迷惑行為を生起させること,ウィルソンWilson,J.Q.とケリングKelling,G.L.(1982)が割れ窓理論として発表したネガティブな記述的規範による影響などが知られている。

 社会に新しい技術や道具が登場すると,必ず公共の場における使用マナーが問題とされる。携帯電話のルール無視の使用マナー,喫煙に関するマナーも迷惑行為として社会的に認知されている。差別やいじめ,セクシャルハラスメントは,迷惑行為の枠を超えて刑事罰の対象になる。また,菅原健介(2005)は,若者の恥意識と社会的迷惑行為の関連を考察している。「身内」のように親密な他者の前では,どのような行動をしても自分の評価に大きく影響しないので恥の意識は起きない。見知らぬ「他人」の前でもその評価を気にする必要はないので,やはり羞恥心は起きにくい。いちばん起きやすいのは,中間的な親密さの他者である「世間」である。ところが,地域社会が弱体化すると,その延長線上にある公共場面も「他人」化し,「世間」の常識は通用しなくなる。「狭い世間」の常識しかもたない若者が「他人が住む世間」で「自分本位」の行動基準でふるまうため,既存の「世間常識」で生きているおとなたちには,それが社会的迷惑行為として映ることになる。 →同調
〔吉田 俊和〕

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