自己制御(読み)じこせいぎょ(その他表記)self-regulation

最新 心理学事典 「自己制御」の解説

じこせいぎょ
自己制御
self-regulation

人がなんらかの基準に合致するように,自己あるいは自己の側面を変化させることを自己制御という。自己コントロールself-controlと同義に用いられることも多い。知性とともに,社会において適応的に生活するうえできわめて重要な能力である。自己制御が行なわれる場面としては,①思考(特定の思考に集中したり,特定の内容を想起しないようにする),②感情とムード(怒りのコントロールなど),③衝動アルコールタバコの制限など),④動機づけ葛藤する動機の調整など),⑤遂行(最大にしたり適度な水準にとどめる)などがある。

 一般に,効果的に自己制御が行なわれるためには三つの要素が必須とされる。第1は基準standardである。自己の一側面を変化させる到達目標とされるものであり,理想や目標,規範,ルール,概念などが含まれる。特定の場面で選択される基準は,さまざまな個人的要因や状況的要因の影響を受けるが,道徳的ジレンマ状況に見られるように,しばしば基準の間で葛藤が生じる。第2は,監視monitoring(モニタリング)であり,制御すべき行動注意を向けることを意味する。現在の時点における自己の状態を適切に監視することによって,基準に照らしてさらに行動を繰り返す必要があるかどうかを判断することができる。第3は,現状を基準に合致させるための能力,および合致させようとする動機づけmotivationである。なお,カーバーCarver,C.S.とシャイアーScheier,M.F.(1981)の自己制御理論では,自己意識self-awarenessが自己制御を促進させることが仮定されている。たとえば,「楽観的であるべきだ」という基準をもっている人は,自己の内面に注意が向くことで監視を行ない,現状(やや悲観的になっている)と基準との間にずれがあることを認識するかもしれない。このとき,基準に合致させようとする能力あるいは動機づけがあれば,基準と合致させるような(より楽観的な)行動が生じ,変化した状態が基準に達していなければさらに基準に近づける行動を取って再び比較するということが繰り返される。

 バウマイスターBaumeister,R.F.(1998)は,自己制御や選択など自己の実行機能を働かせるために必要な力は,無限ではありえない「体力」あるいは「エネルギー」になぞらえて理解することができると考えた。すなわち,①自己制御を実行すると,蓄積された資源は一時的に低減する,②資源を使い果たすと他の自己制御課題の実行が効果的に行なえなくなる,③同じ資源が,さまざまな種類の自己制御活動に使用することができる,などの特徴をもつことを仮定した(Muraven,M.R.,& Baumeister,2000)。なお,自己制御は意識的に行なわれる場合がある一方で,本人が意識しなくても自動的に行なわれることもある。

 以上の観点からは,自己制御が失敗するケースには二つの種類があると考えられる。第1は,制御不足underregulationによる失敗であり,自己制御に必要なだけの力を使用できなかったり,基準や監視が適切でない場合に生じる。第2は制御ミスmisregulationによる失敗であり,自己制御に対して十分な努力が払われているにもかかわらず,目標達成のためには不適切な方法が採用されることによって生じる。
〔安藤 清志〕

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