科学的社会主義(読み)カガクテキシャカイシュギ(その他表記)scientific socialism

デジタル大辞泉 「科学的社会主義」の意味・読み・例文・類語

かがくてき‐しゃかいしゅぎ〔クワガクテキシヤクワイシユギ〕【科学的社会主義】

歴史社会構造の科学的分析に基づいて、社会主義社会への移行は歴史的必然であると主張する、マルクスエンゲルスの社会主義思想。→空想的社会主義

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精選版 日本国語大辞典 「科学的社会主義」の意味・読み・例文・類語

かがくてき‐しゃかいしゅぎクヮガクテキシャクヮイシュギ【科学的社会主義】

  1. 〘 名詞 〙 マルクス、エンゲルスによって体系化された社会主義理論。歴史や社会を社会科学的に分析することにより、資本主義社会の運動法則が、社会主義社会の到来を必然化する条件を準備すると主張する。空想的社会主義に対していわれる。
    1. [初出の実例]「実にわが科学的社会主義の主張ならずんばあらず」(出典:社会主義神髄(1903)〈幸徳秋水〉四)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「科学的社会主義」の意味・わかりやすい解説

科学的社会主義
かがくてきしゃかいしゅぎ
scientific socialism

マルクス主義別称で、空想的社会主義に対比された表現。社会主義の思想は、商品生産が広がり資本家階級と労働者階級の分化が始まる資本主義創成期から現れるが、この階級対立の矛盾と資本主義的不平等に対する批判的ユートピアとして、トマス・モア、カンパネッラらは、矛盾と階級差別のない平等社会の理想を述べた。18世紀末から19世紀前半の産業革命期には、フランスのサンシモンフーリエ、イギリスのロバート・オーエンらが、近代的機械工業導入に伴う労働者の悲惨な労働状態や大衆の貧困化に対する抗議の意味をこめて、恐慌など資本主義的無政府性を克服した理想的産業社会を構想し、オーエンはアメリカに共産主義コロニーをつくる実験をも試みた。これらの思想はのちにエンゲルスにより空想的社会主義と名づけられ、「資本主義的生産の未熟な状態、未熟な階級の状態には、未熟な理論が対応していた。社会的な課題の解決は、未発展の経済関係のうちにまだ隠されていたので、頭のなかからつくりだされなければならなかった。社会は弊害ばかりを示していた。これらの弊害を取り除くのは、思考する理性の任務であった。社会的秩序の新しい、より完全な体系を考えだして、これを宣伝によって、できれば模範的実験の実例を通じて、社会に外から押し付けるということが必要であった。これらの新しい体系は、ユートピアになる運命を初めから宣告されていた」(空想から科学へ)と評された。

 これに対して、科学的社会主義は、歴史の唯物論的解釈と、資本主義経済の解剖学としての剰余価値理論に裏打ちされた、社会の「外から」の資本主義批判ではなく、社会の内部に労働者階級という理想社会の建設者をみいだす思想および理論として登場した。その体系的創始者はK・マルクスとF・エンゲルスであるが、「科学的社会主義は本質的にドイツの産物」といわれたように、カントフィヒテシェリングを経てヘーゲルに至るドイツ古典哲学の系譜から唯物弁証法をくみ出し、「社会主義の創始者」としての空想的社会主義の思想を受け継ぎ、アダムスミスリカードの経済理論を剰余価値理論にまで仕上げ、ロック、ルソーの政治理論を批判的に摂取し、ダーウィンなど当時の自然科学の諸成果にも影響された、近代諸科学の批判的吸収であり体系化であった。その代表作がマルクスの『資本論』であり、「近代社会の経済的運動法則を明らかにすることはこの著作の最終目的である」と自負し、「およそ科学的批判による判断ならば、すべて私は歓迎する」と述べるにふさわしいものであった。エンゲルスの『空想から科学へ』は、もともと『反デューリング論』(1878)の一部を編集し直してつくられたものであったが、当時のマルクス主義は、唯物史観剰余価値論に代表されるように科学の最先端と自負するに足るものであり、またそのことによって労働運動、革命運動に多大な影響を及ぼし、20世紀に読み継がれていった。

 同時に、マルクス主義の全体系が科学であるとして継承されたために、マルクス、エンゲルスらの全言説、個々の記述までが「絶対的真理」として受け止められ、教条主義的信仰、文献解釈主義をも生み出した。レーニンは、後進国ロシアで独自の革命理論・政治理論を展開したが、レーニン死後のマルクス主義においては、科学の名において共産主義政党の戦略・戦術を真理の次元で語り、果ては社会主義国家での民主主義抑圧や科学研究への干渉をも正統化するスターリン主義が支配的となった。この時代に定式化された「レーニン主義」や「マルクス・レーニン主義」の呼称を嫌って、1970年代に、マルクス主義を「科学的社会主義」として再生させようとする動きが西欧諸国や日本で現れたが、89年東欧革命と91年ソ連解体は「社会主義」思想そのものの抜本的再検討を促すものとなった。協同組合主義や無政府主義を再興し、エコロジーやフェミニズムの主張を取り入れて、あえて社会主義の「ユートピア性」を復権しようとする試みも現れた。

[加藤哲郎]

『エンゲルス著、寺沢恒信訳『空想から科学へ』(大月書店・国民文庫)』『P・アンダースン著、中野実訳『西欧マルクス主義』(1979・新評論)』

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百科事典マイペディア 「科学的社会主義」の意味・わかりやすい解説

科学的社会主義【かがくてきしゃかいしゅぎ】

歴史の発展や社会の構造を科学的に分析し,資本主義社会の経済法則とその矛盾を明らかにし,資本主義社会に代わって社会主義社会が到来する必然性を解明しようとする思想。エンゲルス以降のマルクス主義者が,自己の理論体系をそれ以前の空想的社会主義から区別するために独断的に使用した言葉で,いわゆるマルクス主義と同義である。
→関連項目社会主義

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旺文社世界史事典 三訂版 「科学的社会主義」の解説

科学的社会主義
かがくてきしゃかいしゅぎ
scientific socialism

マルクスとエンゲルスが唯物 (ゆいぶつ) 史観と資本主義社会の発展法則にもとづいて展開した社会主義思想。マルクス主義と同義に用いられる
ロバート=オーウェン・サン=シモン・フーリエらの社会主義は,単に理想社会を空想するのみであったとしてエンゲルスが「空想的社会主義」と命名。それに対してマルクスとエンゲルスは唯物史観にもとづき,生産力と生産関係の矛盾から歴史の発展を法則的にとらえ,資本主義社会の崩壊と新しい社会の到来の必然性,および革命に際してのプロレタリアートの主導的役割を唱え,科学的社会主義と自称した。この理論をレーニンが受けついでさらに発展させ,マルクス−レーニン主義を確立した。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「科学的社会主義」の意味・わかりやすい解説

科学的社会主義
かがくてきしゃかいしゅぎ
scientific socialism

マルクス主義の別称。弁証法的唯物論を哲学的基礎とし,資本主義社会の内部構造と運動法則を分析して樹立した社会主義理論。マルクス,F.エンゲルスは,サン=シモンや F.フーリエらの社会主義を空想的社会主義とし,みずからの理論を「科学性」をそなえたものとして科学的社会主義と自称した。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「科学的社会主義」の解説

科学的社会主義(かがくてきしゃかいしゅぎ)
scientific socialism[英],wissenschaftlicher Sozialismus[ドイツ]

マルクスエンゲルスが,自己の理論体系をそれ以前のさまざまな社会主義の「ユートピア的」「空想的」性格と区別するために使用したもの。社会主義は,資本主義発展の客観的法則性に立脚したものであり,たんなる主観的願望ではない点が強調される。

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世界大百科事典(旧版)内の科学的社会主義の言及

【空想的社会主義】より

…エンゲルスは《反デューリング論》(1878。うち三つの章をP.ラファルグが編んで《空想より科学への社会主義の発展》(1880)が成立)において,マルクスと彼自身が創始した科学的社会主義に対比して,それ以前の社会主義を空想的社会主義と規定した。その代表者として19世紀初頭のサン・シモンフーリエオーエンがあげられ,以来この言葉は狭義にはこの3人を指して用いられる。…

【社会主義】より

…しかし近代的な意味での社会主義という用語は,およそ1830年前後に,フランスではフーリエサン・シモン,イギリスではオーエンの思想を指す言葉として最初に登場する。他方で1840年代のパリでは,徹底した財産の共有と国家権力の奪取をめざす共産主義者の結社が生まれており,1848年にマルクスがイギリスの経済学,フランスの社会主義をドイツの観念論哲学と批判・融合して《共産党宣言》(エンゲルスと共著)を発表し,マルクスはそれまでの社会主義を空想的社会主義と呼んでみずからの科学的社会主義をそれに対置させた。それまでの社会主義が資本主義の悪弊にたいして人間主義的,道徳的な非難を向けたのにたいして,マルクスは過去の歴史と資本主義の現実にたいする科学的分析のうえに社会主義を構想した。…

【マルクス】より

…《聖家族》(1845),《ドイツ・イデオロギー》(1845‐46)のほか,エンゲルスとの共同執筆も多くあり,それらはいずれも《マルクス=エンゲルス全集》として刊行されている。
[思想]
 マルクスの思想は〈科学的社会主義〉と呼ばれ,哲学的立場は〈弁証法的唯物論〉と呼ばれる。彼はまた〈マルクス経済学〉と呼ばれる経済学批判体系を築いた。…

※「科学的社会主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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