改訂新版 世界大百科事典 「秩父三十四所」の意味・わかりやすい解説
秩父三十四所 (ちちぶさんじゅうよんしょ)
秩父三十四所観音霊場ともいい,秩父盆地(埼玉県)に点在する34ヵ所の観音霊場を巡る巡礼コースである。西国三十三所,坂東三十三所の観音霊場とあわせて,日本百観音霊場を構成する。熊野の青岸渡(せいがんと)寺から始まった観音巡礼の旅は,西国,坂東,秩父の霊場を経て,秩父34番の水潜(すいせん)寺で結願する。秩父の霊場は,そのほとんどが大寺院で占められる西国,坂東とは異なって,小規模の寺や堂からなり,地方的な色彩が濃い。この巡礼路は,もともと秩父妙見宮(秩父神社)を取り巻くように構成された地域的なもので,1488年(長享2)の番付表によると,霊場も33ヵ所であった。秩父33ヵ所の霊場が34ヵ所となり,百観音に組み込まれたのは16世紀とみられ,30番法雲寺に伝わる1536年(天文5)の納札に,西国・坂東・秩父百ヵ寺巡礼の記事がある。秩父の霊場には曹洞宗に属する寺が多く,禅僧による積極的な働きかけによって百観音に組み込まれたのであろう。これに伴って巡路も変更され,定峯峠を越えた最初の妙音寺が1番となった。江戸が繁栄期を迎えると,関所を通らずに気やすく他国の情緒に浸れることから,秩父の巡礼に出る人々が多かった。とくに御殿女中や商家の娘たちが短期間の巡礼の旅を秩父に求めている。また,秩父の霊場が創始されたという1234年(文暦1)が午年であることから,午年には観音の総開帳が行われ,参詣者がとくに群参した。高山に囲まれた秩父盆地は,観音の聖地としての景観を備え,2泊3日行程の三十四所観音巡礼は今日も盛んである。
執筆者:中尾 尭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報