巡礼者が霊場に参拝したしるしに納める札のこと。納め札,巡礼札ともいう。札の中央にその巡礼の名称,両側に出身地,名前,参拝年月日などを書くのがふつうである。納札を納めるところから巡礼の寺を〈札所(ふだしよ)〉と呼び,もとは木製の札を釘で打ちつけたため,札所に詣でることを〈札を打つ〉ともいうようになった。一方,巡礼者が通り過ぎる地域の人々にとっても,この札には大きな意味があった。たとえば四国地方では遍路(へんろ)の出盛りになると,沿道の村々が無料の接待所を設けて,遍路たちに金品を接待する。遍路はそれとひきかえに納札を一枚渡す。こうして集まった納札を縄の間にはさんで村の入口に張り渡し,魔よけとするのである。また接待宿を提供したときも納札をもらい,これを門口にはって同じく魔よけとする。つまり納札を介して地域社会と巡礼者は緊密に結びつき,その結びつきが巡礼の風習をささえてきたのである。
執筆者:真野 俊和
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社寺に参詣(さんけい)する人が信心の意を表し、祈願や記念のため、札(ふだ)を納めること。札には生国、生年、姓名などを記入した。札は紙札、木札であるが金属製のものもあった。西国(さいごく)三十三所、坂東(ばんどう)三十三所などの霊場には巡礼者の札を納める札所(ふだしょ)が設けられていた。納札の風習はいつごろから始まったか不明であるが、古い物としては近江(おうみ)(滋賀県)の石山寺、陸中(岩手県)の中尊寺などに残された天文(てんぶん)年間(1532~55)のものが知られている。
この納札の風習は、千社札というものが流行してくると、信心とは別に趣味的なものもでき、札にいろいろの趣向を凝らし、同好者の集まりなどで札の交換をするようになった。
[大藤時彦]
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