免疫抑制剤(読み)めんえきよくせいざい(英語表記)immunosuppressant

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

免疫抑制剤
めんえきよくせいざい
immunosuppressant

生体の免疫機能を抑える薬剤臓器移植後の拒絶反応抑制,重症の自己免疫疾患などに用いられている。シクロスポリン,シクロフォスファミド,アザチオプリン,メトトレキセートなどがあるほか,副腎皮質ステロイドも免疫抑制作用がある。臓器移植の成功率が格段に上昇した原因の一つがシクロスポリンの登場にあることは有名。各薬剤により詳細な作用機序は異なるが,免疫担当細胞の一つであるリンパ球の機能を抑制する。ただし,免疫系の正常に機能している部分も抑制することになるので,感染症にかかりやすくなるなどの副作用も生じてしまう。副作用の少ない免疫抑制剤の開発も盛んで,藤沢薬品の FK506という薬剤は,シクロスポリンと同様な構造をしているが,投与量が少量で済み,副作用も軽度な点で注目を集めている。米,独,仏などで肝移植に対する治験が行なわれ,1993年製造が認可された。また,OKT-3という薬剤は,リンパ球の表面に出ている蛋白を抗原として認識するモノクローン抗体を製剤化したもの。

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朝日新聞掲載「キーワード」の解説

免疫抑制剤

免疫の働きを抑える薬で、臓器移植や骨髄移植のほか、自らの細胞を異物と認識してしまう自己免疫疾患などの治療に使われる。ウイルスや細菌から身を守る機能を弱めるため、感染症にかかりやすくなる。このため臓器移植では、免疫による拒絶反応を抑えながら感染症も防ぐ両方のバランスが重要となる。移植患者は通常、一生にわたって使い続ける必要がある。

(2009-11-09 朝日新聞 夕刊 1総合)

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百科事典マイペディアの解説

免疫抑制剤【めんえきよくせいざい】

臓器移植の手術後に,拒絶反応を抑えるために投与する薬剤のこと。拒絶反応は移植された臓器を体が〈異物〉とみなすために起きるもので,移植手術が克服すべき最大の課題となっている。 免疫抑制剤の進歩にしたがって,生存率が上昇し,移植手術の適用範囲も広がってきた。とりわけ,スイスのサンド(現ノバルティス)社が開発し,1978年に臨床使用が始まったシクロスポリンが果たした役割は大きい。 この薬を使うようになったことで,たとえば米国のスタンフォード大学で行われた移植手術の生存率は,心臓移植は45%から85%,肝臓は23%から69%,死体腎移植は48%から81%にそれぞれ上昇した。また,とくに拒絶反応が強い小腸移植などへの道も開かれた。 かつては,1960年代に開発されたアザオプリチンが20年にわたって使われてきたが,これは免疫系全体を抑えるもので,かなり副作用が大きかった。これに対して,シクロスポリンや,1984年に藤沢薬品工業が開発したタクロリムスは,拒絶反応の主役であるキラーT細胞(リンパ球の一種)だけを抑えるという特徴がある。 こうした薬剤で副作用は少なくなったものの,それでも腎毒性,糖尿病,狭心症の発作などがあり,タクロリムスには意識障害や全身痙攣(けいれん)などの重い副作用もある。また,免疫抑制剤を使いすぎることで,全般的な免疫機能が損なわれ,健康であれば問題にならないウイルスや細菌に感染しやすくなる。 最近では,キノコの一種から抽出してつくった薬剤〈FTY720〉が開発段階にあり,1997年の日本移植学会で注目された。これは強力な免疫抑制作用がある一方で,動物実験ではほとんど副作用がない。 さらには,免疫抑制剤を使わなくてすむ方法も研究されている。関西医科大学の池原進教授(病理学)と上山泰男教授(外科)らのグループは,マウスによる皮膚移植の実験によって,ドナー(提供者)の骨髄を門脈に注入することで,免疫抑制剤を2日間しか投与しなくても,拒絶反応が350日以上起きないことを確認した。→生体小腸移植キラー細胞
→関連項目腎移植日和見感染症

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世界大百科事典 第2版の解説

めんえきよくせいざい【免疫抑制剤 immunosuppressant】

生体の免疫反応を抑制する薬剤。生体内での免疫反応によって組織が障害を受け病気が起こることがある。とくに抗原物質が自己の体成分である場合は自己免疫疾患とよばれる。自己免疫疾患では多くの場合第1選択剤として副腎皮質ホルモンが用いられるが,副腎皮質ホルモン剤に抵抗を示すなど限界のある場合がある。そこで,そのようなときには免疫反応によってひき起こされる病態に対し,これを抑制し,治療するために免疫抑制剤が用いられる。

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大辞林 第三版の解説

めんえきよくせいざい【免疫抑制剤】

リンパ球などに作用し生体の免疫作用を抑制する薬剤。自己免疫疾患の治療や臓器移植時の拒絶反応の抑制に用いられる。 ⇔ 免疫賦活剤

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知恵蔵miniの解説

免疫抑制剤

体内で起きている異常な免疫反応を抑える薬剤。骨髄移植や臓器移植のほか、アレルギー性疾患や自己免疫疾患などの治療に用いられる。胎児に悪影響を及ぼすとして、厚生労働省は妊婦への使用を避ける「禁忌」の対象としてきたが、国内外での研究データを分析した結果、安全性に問題はないとの結論が出たため、2018年6月に同省はタクロリムス・アザチオプリン・シクロスポリンの3種について「禁忌」の対象から外すよう製薬会社に通達することを発表した。

(2018-7-5)

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

免疫抑制剤
めんえきよくせいざい

免疫反応を抑制する薬剤で、臓器移植の際の免疫拒絶反応を抑制するために用いられるほか、糸球体腎炎(しきゅうたいじんえん)やリウマチ性疾患など自己免疫疾患、アレルギー性疾患の治療に用いられる。作用機序としては抗体の産生を抑制することであり、多くのものは抗悪性腫瘍(しゅよう)剤として用いられている。すなわち、アルキル化剤であるサイクロホスファミドやクロラムブシル、プリン拮抗(きっこう)剤である6‐メルカプトプリンやアザチオプリン、ピリミジン拮抗剤の5‐フルオロウラシルやシトシン‐アラビノシド、抗生物質であるマイトマイシンC・ダクチノマイシン・シクロスポリン(サイクロスポリン)A・ブレジニン、副腎皮質ホルモン剤などがある。このうち、臓器移植の際にのみ用いられるものに「イムラン」をはじめ、カビの代謝産物であるシクロスポリンAやブレジニンと、リンパ球免疫グロブリンがある。
 なお、免疫抑制剤の投与は副作用として、感染症の増大、生殖細胞への障害などの発生をみることがある。[幸保文治]

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世界大百科事典内の免疫抑制剤の言及

【心臓移植】より

… 心臓移植の成績が向上してきたのは,組織型のよく適合した提供者が選べるようになったこととともに,拒絶反応を防止する移植免疫抑制法が進歩したためである。免疫抑制剤として従来用いられていた代謝拮抗剤,副腎皮質ホルモン,抗ヒトリンパ球血清のほかに,1980年以後はシクロスポリンcyclosporine,FK407等が使用されるようになって,各種臓器移植の予後は著しく改善されており,心臓移植もその例外ではない。今後に残された問題は,心臓移植を必要とする人が手術を待っている間にその1/3が死亡する現実からみて,提供心臓を長時間保存する方法の開発であり,また免疫抑制法に基づく感染も依然として大きな課題の一つであるため,より優れた免疫抑制法の研究等があげられる。…

※「免疫抑制剤」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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