人間の体が自分の身を守るため、体内に入った異物を排除しようとする免疫反応のこと。移植臓器をウイルスなどと同様に異物としてとらえ、免疫細胞などが移植臓器を攻撃する。移植臓器が働かなくなり、患者の生死に関わるケースもある。免疫抑制剤は免疫細胞の増殖や攻撃を抑えるために開発されたが、服用することで体全体の免疫力(抵抗力)が弱まり、ウイルス感染や発がんを招く恐れがある。また薬の副作用として腎不全や糖尿病、心・血管障害といった副作用があるとの指摘もある。
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病気などによって機能を失った臓器を健康な臓器で置き換えることを移植というが,移植された組織が同種か異種かにかかわらず,やがて壊死に陥り,排除される現象をいい,拒絶現象ともいう。移植された組織あるいは器官が宿主に対して抗原として働き,宿主の体内で抗体がつくられ,この抗体をもつ細胞が移植体を攻撃して拒絶反応を起こすと考えられている。拒絶反応はその経過によって,超急性拒絶(移植後数分でみられる急激な反応),急性初期拒絶(移植後10日内外),急性後期拒絶(11日以後にみられる),慢性後期拒絶(長期に組織障害を伴うもの)に分けられる。臓器移植の成否は,この拒絶反応を抑えうるか否かにかかっている。拒絶反応を防止するためには,あらかじめ組織適合試験を行ってHLA(ヒト主要組織適合抗原)が適合した場合のみに行い,さらに免疫反応を抑えるためにX線照射,免疫抑制剤や副腎皮質ホルモンの服用などが行われる。
→臓器移植
執筆者:遠藤 健
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…実用的な移植の例としては,臨床医学分野における角膜移植,皮膚移植,臓器移植がよく知られ,また農業や園芸の分野で古くから行われている接木は植物における移植にほかならない。植物の場合や動物でも自家移植の場合には問題とはならないが,脊椎動物では免疫機構が備わっているので,非自己に対して抗体が作られて拒絶反応が起こる。したがって,医学の分野では,他人(他個体)からの移植を受けるさいに,拒絶反応をいかに抑えるかがつねに重要な問題となる。…
…精密な手術であるため,肉眼での手術は困難であり,手術用顕微鏡を利用して行われる。他人の組織を用いた臓器移植には,拒絶反応が伴うが,角膜には本来血管がないので,拒絶反応の主役となるリンパ球が到達しにくく,他臓器と比べ,拒絶反応が起きにくい。もし起きたときでも,角膜は体表にあって生体顕微鏡を用いて詳しい観察ができるため,病状に対応した加療が可能で,角膜移植の成績は比較的よい。…
… 心臓移植の歴史は古く,動物を用いた実験的試みは,アメリカのマンF.Mannが1933年に行っている。40年代になって臓器移植に伴う諸現象,とくに拒絶反応の機序の解明にイギリスのメダウォーPeter Brian Medawar(1915‐87)らが大きな功績を残し,臓器移植熱が高まるにしたがって,心臓移植の可能性について多くの研究者が情熱を傾けるようになった。とくにアメリカのシャムウェーNorman Edward Shumway(1923‐ )らの基礎的研究の寄与するところが大きく,58年シャムウェー法といわれる移植手技が確立され,67年南アフリカ共和国のバーナードChristian Neethling Barnard(1922‐ )が人から人へ初めて心臓移植を行った。…
…腎臓移植は1954年,アメリカのボストンで一卵性双生児間で行われたものが最初の成功例である。しかしその後,拒絶反応によって失敗が相次いだ。ところが,60年代に入って免疫抑制剤が開発されて成功率も上昇し,現在では角膜移植に次いで多い臓器移植となっている。…
…両者が同じ生体,たとえば自分の皮膚を自分の他の部に移植することを〈自家移植〉,両者の遺伝子が同じ場合,たとえば一卵性双生児や純系マウス間の移植を〈同系移植〉,同じ種間の移植,たとえばヒトとヒト,イヌとイヌ間の移植を〈同種移植〉,異種間,たとえばヒトとチンパンジー間の移植を〈異種移植〉という。 自家移植と同系移植は外科手技が成功すれば,移植も成功するが,同種移植や異種移植では,移植臓器に拒絶反応が生ずる。この現象は,細菌が体内に入った場合,生体が細菌をよそもの(非自己non‐self)と認め,それを排除しようと免疫反応が生ずるのと基本的に同じである。…
…同一の動物種内で著しい個体差を示すタンパク質で細胞の膜表面に存在し,その個体差は遺伝的に決定されている。その不一致が臓器移植において免疫系の認識するところとなり,拒絶反応を引き起こすところからこの名がある。多くの組織適合抗原が見いだされているが,最も強い拒絶反応をもたらすものを主要組織適合抗原といい,高等動物で広くその存在が確認されている。…
※「拒絶反応」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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