日本大百科全書(ニッポニカ) 「符号誤り」の意味・わかりやすい解説
符号誤り
ふごうあやまり
code error
デジタル情報の記録・再生や伝送・受信過程でおきる符号の誤り。
情報の符号化と符号誤りの生起
電子機器・装置や通信・放送などで扱われる情報は、特別な場合以外、すべてデジタル方式で処理されている。デジタル方式では、情報データを離散的な(とびとびの)符号に変換して処理する。符号は二進数を使い、電圧または電流がある状態に対応する1と、これがない状態に対応する0の組み合わせで構成される。用途に応じてつくられた符号列が、デジタルデータとして高速・高密度で記録、送信される。デジタルシステムでは、信号の授受過程で雑音やひずみが混入しても、符号列の中身が0であるか1であるかを識別できさえすれば正常な動作が保証されるので、雑音やひずみが信号と分離できないアナログシステムに比べてはるかに安定性に優れ信頼性が高い。
しかし、なんらかの原因によって、デジタル符号の0が1になったり1が0になったりする符号誤り(ビットエラー)がおきると、正常な動作が損なわれることになる。これがおきれば動作は正常でなくなる。デジタルシステムは安定で符号誤りがおきる頻度は小さいが、万一おきた場合の対応策として種々の方法が考案され、実用に供されている。
[吉川昭吉郎 2016年4月18日]
符号誤り検出
code error detection。デジタル符号に誤りがあったとき、これを検出する方法。単に誤り検出error detectionともいう。
検出だけで、誤りを訂正して正しい符号に戻すことまではしないが、符号誤りが検出されれば、再読み出しを行ったり、再送信を求めたりすることで、正しい符号を受けることができる。デジタルシステムでは、符号誤りのおきる確率がきわめて低いことと、読み出しや送信がきわめて高速で行われることから、再読み出しや再送信を行っても問題になる遅延や効率低下が生じることはなく、十分実用化できる。以下に、実用に供されている符号誤り検出法について述べる。
[吉川昭吉郎 2016年4月18日]
パリティチェック法
parity check法。奇偶検査法ともいう。0と1の数値で構成される情報ビットに、もう一つの余分な0か1のビットをつけ加え、これを含めて符号全体に含まれる1の数がつねに奇数か偶数になるようにしておく。誤りがあって符号のなかの0が1になったり1が0になったりした場合、符号に含まれる1の数に奇偶の反転が生じ、これを知ることで誤りが生じたことを検出するものである。余分につけ加えられるビットはパリティビットparity bitとよばれる。パリティビットは、情報の立場からすれば冗長(余分)なものであることから、一般的には冗長ビットredundancy bitともよばれる。パリティビットを含めて、符号全体に含まれる1の数が奇数になる方法を奇数パリティodd parity、1の数が偶数になる方法を偶数パリティeven parityとよぶ。どちらを使ってもよいが、偶数パリティでは0だけで構成される符号ができ、電子回路で扱いにくくなることがあるため、奇数パリティが使われることが多い。パリティparityとは、同等または同格の意味で、パリティチェックという用語は、どの二進符号についても、なかに含まれる1の数が奇数個または偶数個であるという同等の状態が正しく保たれているか否かで、誤りを検出することに由来する。簡単で実用性の高い符号誤り検出法である。
[吉川昭吉郎 2016年4月18日]
チェクサム法
check sum法。CSUM法、チェックサム法ともいう。送出側が決められた方法で情報データの合計の値(和)を計算し、これを情報データに添付して送出する。受け手側は、送出側と同じ方法でデータの合計の値を計算し、送出側から添付された合計値とあっているか否かで符号誤り検出を行うものである。サムは和(足し算)のことで、チェクサムという用語は和で検出を行うという意味である。チェクサム法は、データの総量だけで誤り検出を行うので、データの順序が違ったりしても総量があっていれば誤りなしと誤判定されるなど、符号誤り検出の精度は高くない。しかし仕組みが単純で高速処理ができるという特長があり、初期のコンピュータなどで使われたほか、現在では通信データの検証などに利用されている。
[吉川昭吉郎 2016年4月18日]
CRC法
cyclic redundancy check法。巡回冗長検査法ともいう。情報データを一定の長さでくぎってブロック分けし、ブロックごとのデータを決められた定数で割って余りを求め、この余りを検出用の冗長符号として情報データに添付して送出する。受け手側は、送出側と同じ方法で余りの値を計算し、送出側から添付された値とあっているか否かで符号誤り検出を行う。パリティチェック法やチェクサム法に比べて検出精度が高く、むずかしいバーストエラー(符号列に混入した連続的なエラー)の検出にも有効なことが特長である。
[吉川昭吉郎 2016年4月18日]
符号誤り訂正
code error correction。デジタル符号に誤りがあったとき、これを検出して自動的に訂正する方法。単に誤り訂正error correctionともいう。
符号誤り検出では、情報符号には手を加えず、検査用の冗長符号をつくってこれを情報データに添付するという手法をとったが、符号誤り訂正では符号自体に手を加え、どのビットに誤りがおきたかを判定する能力をもたせることで、誤りが生じた位置をつきとめ、その位置の符号(0か1)を反転させて、自動的・機械的に正しい符号に訂正する。このような自己訂正能力をもった符号を、誤り訂正符号error correcting codeとよぶ。以下に、実用に供されている符号誤り訂正符号について述べる。
[吉川昭吉郎 2016年4月18日]
ハミング符号
Hamming code。1950年、アメリカのベル研究所のリチャード・ハミングRichard Wesley Hamming(1915―1998)によって考案された誤り訂正符号。情報ビットをある約束に従って一定の長さのブロックにくぎり、ブロックごとにパリティビットをつけ加えるという符号化を行うことで、誤りの検出を行うとともに、誤りの場所をつきとめて、自動的に訂正を行うものである。このような符号化方式をブロック符号方式とよぶ。情報ビットのグループ分けを大まかにしてパリティビットの数を少なくしたり、グループ分けを細かに行ってパリティビットの数を多くしたりすることが、任意にできる。細かにしてパリティビットの数を多くすれば、検出や補正の能力は向上するが、冗長度が増大し、伝送路の利用効率が低下したり、処理時間が長くなったりする。一般的に、符号誤り訂正の能力向上は、冗長度を大きくし、送られる情報ビットの減少を覚悟するという犠牲を払って得られるものといえる。
[吉川昭吉郎 2016年4月18日]
リード‐ソロモン符号
Reed-Solomon code。1960年、ともに数学者であるアービング・リードIrving Stoy Reed(1923―2012)とギュスタブ・ソロモンGustave Solomon(1930―1996)によって開発された誤り訂正符号。複数のビットを一つの塊(シンボルまたはワードとよぶ)とみなし、シンボル単位で符号誤り検出と訂正を行う。一つのシンボルに含まれる複数のビットに誤りが生じても、1シンボルの誤りと認定される。バーストエラーに強い特長があるが、符号化と復号化が複雑で、処理時間がかかるので、高速を求められる用途には不向きである。しかし、誤り訂正能力が高いため、CD(コンパクトディスク)やDVDなどの記録媒体、地上デジタル放送、BSデジタル放送などに応用される。
[吉川昭吉郎 2016年4月18日]
BCH符号
BCH code。1959年にフランスの数学者アレクシ・オッカンガムAlexis Hocquenghem(1908―1990)、1960年にともにアメリカの数学者であるラージ・チャンドラ・ボースRaj Chandra Bose(1901―1987)、レイ・チョドーリDwijendra Kumar Ray-Chaudhuri(1933― )らによって考案された誤り訂正符号で、名称はこの3人の頭文字に由来する。符号化の自由度が高いこと、復号が簡単であること、消費電力が少ないこと、誤り訂正能力が高いことなどを特長とする。
[吉川昭吉郎 2016年4月18日]
符号誤り補正
code error compensation。デジタル符号に誤りがあったとき、これを検出して自動的に補正する方法。単に誤り補正error compensationともいう。
記録媒体や電波の条件が極端に悪く、訂正能力を超えた誤りが発生して訂正が不可能な場合、元の信号と同一ではないが、それに近い状態に近似させる方法である。効果としては似ているが、符号誤り補正と符号誤り訂正とはまったく違う概念であることに注意する必要がある。最後の手段または次善の策という立場であるが、人間の感覚ではほとんど区別がつかない程度に近似することができることも多く、音楽CDなどに適用されて効果をあげている。符号誤り補正が有効に使えるには、誤りが連続して発生しないことが重要で、二つ以上連続しておきた場合には補正能力は極端に悪くなる。
符号誤り補正には、次のような方法がある。
(1)ミューティング 符号誤りがあった場合、誤った標本値を0とする方法。
(2)前値保持 誤った標本値を直前の標本値に置き換える方法。
(3)平均値補間(一次補間) 誤った標本値を直前直後の標本値の平均値で置き換える方法。
(4)n次補間 誤った標本値を含めた前および後それぞれのn個の標本値変化の状態から補間する方法。三次補間、五次補間などが使われる。補間の次数が高くなればなるほど、補正の精度は高くなる。
[吉川昭吉郎 2016年4月18日]