衣類や道具などを入れる大型長方形の櫃(ひつ)。蓋がつき,両短側面には棹通しの金具をつけて棹を通し,前後2人で担ぐ,収納具であると同時に運搬具である。漆塗の塗長持と素木の木地(きじ)長持とがある。また普通の長持よりも大型で,車をつけた車長持もある。長持は古代の中持(なかもち)が変化したものと考えられる。中持は脚つきの唐櫃に対し,脚のつかない櫃だが,運搬のために前後に2本ずつの棒か把手などがついていたと推定される。平安時代には寝殿造の室内調度として置かれており,鎌倉時代ごろまで使われていたようである。鎌倉時代の《吾妻鏡》には覆い油簞(ゆたん)をかけた中持を,将軍上洛の道中荷物入れとして使っている記事がある。この中持が後になまって長持となり,同時にこの間に形も変わったと思われる。
長持が多く使われたのは江戸時代から明治・大正にかけてである。嫁入り道具として衣類や布団などを入れて運び,そのまま収納家具として使われたのがおもな用途であり,嫁入りの際,長持を担ぐ人たちによって歌われたのが長持唄である。このほか富裕階級では花見遊山用としても使われた。料理や茶道具,毛氈,屛風などを入れて運び,蒔絵などを施した豪華なものも作られた。また〈花魁(おいらん)の夜具長持〉といって,馴染みの客が衣装や寝具を入れた蒔絵や朱塗の長持を花魁に贈ることもあった。こうした町人のぜいたくに対し幕府は,塗りや蒔絵の長持を含めた奢侈品の禁止令を出している。また車長持は非常持出しに便利であったが,明暦の江戸大火(1657)の際,持ち出された車長持が避難路をふさいで大惨事となり,以後三都では禁止された。
執筆者:小泉 和子
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家具の一種。衣類、夜具、調度などを収納する蓋(ふた)付きの長方形の箱。担金具(にないかなぐ)に棹(さお)を通して2人で担いで運ぶ。近年まで嫁入り道具の一つに数えられていた。長持には、多く木地のままの桐(きり)材を用いたが、ため塗り、朱漆塗りのものもあり、普通、長さ五尺(約151.5センチメートル)、幅・高さ各二尺(約60.6センチメートル)、蓋は印籠(いんろう)蓋で、錠前(じょうまえ)・担金具を付し、箱・蓋の四隅に金具をつけた。古くは、唐(から)風の脚(あし)のある長唐櫃(ながからびつ)(長櫃)をさしたが、室町時代にはこれが廃れ、脚のない和風のものが使われ、これをもっぱら長持とよぶようになった。江戸時代に入って、車をつけた大型の車長持がつくられたが、持ち運びにはかえって不便で、火事のとき道路をふさぐため、江戸、京、大坂の三都では、1683年(天和3)以後、使用を禁止された。ほかに長さを短く詰めた半長持もあった。なお、長持唄(うた)は、神事・婚礼などに、これを担いで運んだ人夫が歌った唄で、今日にも伝えられている。
[宮本瑞夫]
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…これが広蓋(ひろぶた)のもとである。近世になると唐櫃はほとんど使われなくなり,長持に変わった。長持も和櫃の一種であるが,近世以降は櫃というと葛籠(つづら)や行李(こうり)くらいの大きさの木製の物入れを指すようになった。…
※「長持」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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