累積債務(読み)るいせきさいむ(英語表記)debt accumulation

精選版 日本国語大辞典 「累積債務」の意味・読み・例文・類語

るいせき‐さいむ【累積債務】

  1. 〘 名詞 〙 つもりつもった債務。特に、国際収支が慢性的に赤字の国が、外国から多額の資金を借り続けて、返済するのが難しくなっている対外債務をいう。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「累積債務」の意味・わかりやすい解説

累積債務
るいせきさいむ
debt accumulation

返済能力からみて過大な額にまで累積された一国の対外債務をいう。発展途上国は自国の経済開発のため先進諸国より開発資材を輸入する必要がある反面、工業化の遅れから有力な輸出品に乏しく、経常収支は恒常的に赤字を続けてきた。このため先進諸国から借款を受けてきたが、石油危機後このような対外債務は巨額に累積し、債務支払いの履行が国際金融上重大な問題となった。国際復興開発銀行(世界銀行)の統計によれば、発展途上国の公的債務残高は1967年末の506億ドルから1974年末の1514億ドル、1987年末には1兆1230億ドル、さらに1994年末には1兆7047億ドルにもふくれあがった。この債務には、(1)非産油後発途上国や最貧途上国が先進国から受けた援助などの公的債務累積と、(2)中進工業国が先進国の商業銀行から受けた商業債務累積があるが、1980年代に入ってからはとくに後者の比重が高まったことが問題であった。

[土屋六郎・中條誠一]

 1982年に、メキシコリスケジューリング(債務返済繰り延べ)を申請したことを皮切りに、中南米およびアフリカでそれぞれ十数か国が同様の交渉に入り、さらにフィリピンや東欧諸国へと拡大。1980年代は「失われた十年」とよばれ、累積債務問題が国際金融上の重大問題となった。

 それには、杜撰(ずさん)で性急な国内経済開発によって、借り入れが急増したこと、石油値上げによって、石油輸入代金支払いの負担が増加したこと、逆に一次産品主体の輸出が、世界不況によって停滞したこと、レーガノミックスの副作用で、ドル金利が高騰し、支払い金利負担が増加したことなど、種々の要因が作用したためである。とりわけ、膨大なオイル・ダラーがユーロ市場に流入したにもかかわらず、世界不況のなかで優良な貸先の乏しかった先進国商業銀行が、ソブリン・ローンとしてメキシコのような中進工業国を中心に、大量かつ安易な資金供与をしたことが大きな問題であった。その返済不能は、世界の金融システムを揺るがすことになったからである。

 これに対し、先進国商業銀行は、リスケジューリング、貸付債権の市場売却、貸倒引当金の積増しなどの対応を講じたが、これは問題の先延ばしにすぎず、根本的解決にはならなかった。そのため、アメリカ政府等先進国政府、IMFや世界銀行といった国際金融機関により、対応策が検討された。当初は、ベーカー提案(J・ベーカーはアメリカのレーガン政権の財務長官)のように、債務返済不能は一時的な流動性不足にあり、長期的には返済可能との前提(「流動性不足説」)に立っていたが、1989年のブレディ提案(N・ブレディはアメリカのG・W・ブッシュ政権の財務長官)では、「支払い不能説」に立って、債務削減を盛り込んだ対応策が提示された。

 債務国は、経済構造の改善のための経済調整政策と債務の株式化を推進すること、民間商業銀行は、債務削減、利払い軽減、新規融資に応じること、債権国は、追加的な資金支援を図ること、IMF等国際金融機関は、融資の一部を債務削減、利子軽減に充当することという内容であった。この提案に基づき、メキシコをはじめ、18か国で、1994年までに合計600億ドルの債務が削減され、1991年からは債務国への純資金流入もみられ、累積債務危機は一応の終息をみた。

 しかし、発展途上国全体の累積債務は、その後も増加傾向にあり、また商業ベースの短期債務の増加が、1990年代の相次ぐ通貨・金融危機発生をもたらしたことも事実であり、累積債務問題が完全に解消したわけではない。

 とくに、低所得国の対外債務は1990年で3326億ドルであったが、2004年には4269億ドルに達し、とくにサハラ以南のアフリカに多くみられる重債務貧困国では、主要輸出品の一次産品の価格低下、インフラや教育の未整備などから、債務削減が実現できずにいて、サミット先進国首脳会議)でも、この問題がたびたび取り上げられた。また、国連による貧困撲滅を目ざした「ミレニアム開発目標」の一つとして、債務問題への取組み強化(債務の持続可能性)があげられている。たとえば1999年のサミットでは、最大700億ドル(対象国36か国)の債務削減措置が決定され、さらに2005年のサミットにおいては、アフリカなど18か国の国際機関向けの債務約400億ドルを全額免除することを発表した。このほか、「ジュビリー・デット・キャンペーン」などNGO(非政府組織)による債務帳消し運動が展開されている。

[中條誠一]

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改訂新版 世界大百科事典 「累積債務」の意味・わかりやすい解説

累積債務 (るいせきさいむ)

その国の返済能力からみて過大な水準にまで累積された一国の対外債務(外国からの借入残高)をいう。1970年代後半~80年代前半に,ポーランド,メキシコ,ブラジル等の対外債務が巨額に達し,返済に懸念が生じたことから,国際的な金融不安が起き,累積債務問題は世界的な問題となった。

 対外借入れが必要なのは主として発展途上にある国であり,発展途上国の対外債務の総額は,IMF統計によると1983年末で7676億ドルに及んでいるが,1977年末には3293億ドルであったから6年間で2.3倍の増加である。この間,返済能力(財貨・サービスの輸出額)はそれほど伸びなかったために,債務負担の指標であるデット・サービス・レシオdebt service ratio(財貨・サービスの輸出額に占める債務返済額と利子支払額の割合)は15.3%から22.5%へと上昇した。このように,発展途上国全体として累積債務が生じたわけであるが,債務累積額が中進国の一部に集中していることが特徴的であり,なかでもブラジル,メキシコは両国合計で1982年末に850億ドルという巨額に達した。

 累積債務問題の背景としては,2度にわたる石油危機の影響が大きい。1973年の第1次石油危機の発生は,一方で非産油途上国の石油代金の支払増加から,これらの国の経常収支を悪化させ,対外債務を増大させたが,他方,高騰した石油価格から生じた産油国の巨額の余剰資金が欧米の銀行に流入したので,外貨が借りやすい状況にあった。このため,一部の中進国においては外貨に依存した強気な開発計画が実行に移され,対外債務を増加させる原因となった。さらに,79年の第2次石油危機とその後の世界不況の長期化によって発展途上国の累積債務問題が顕在化した。81年のポーランドのリスケジュール(元本返済の繰延べ)に端を発し,82年のメキシコの債務救済要請によって顕在化し,さらにブラジル,アルゼンチン等のとくに債務残高の大きな国に波及したことから,累積債務問題は国際金融システム全体にかかわる重大な問題に発展した。これらの国に対する救済措置は債務国,債権国官民,国際機関等により取り組まれてきたが,最大の懸案であったブラジルについても,83年11月,IMF理事会が同国の新経済再建計画を了承し,資金引出しを再開したことから当面の危機は回避された。しかし,87年2月にはブラジルが利払い停止を宣言し,問題が再燃した。

 債務国に対する救済措置の基本的な仕組みは,(1)まず国際決済銀行(BIS)等を通じてつなぎ融資を行う,(2)一方,IMFはその国と交渉して救済融資の際に融資条件を課すという形で債務国の経済調整を促進させる,(3)民間銀行は元本の返済遅延を容認するとともに,新規貸付けにより追加融資を行う,(4)公的債務は国際的な債権・債務者会議の場で救済措置が検討される,といったパターンで,民間銀行と公的機関が負担を分かちあうというものである。

 1989年にはアメリカの財務長官ブレイディにより,債務削減を柱とする新債務戦略が提起され,同年4月のG7でも支持された。このブレイディ構想は,債務国がIMFによる経済調整計画に合意したうえで,民間銀行が集団的に削減した債務を債券化し,世界銀行・IMFがその債券に担保資金を提供するという方式である。90年にフィリピンとメキシコに適用されて以後,他のラテン・アメリカ諸国にも広がり,92年末に世銀は中所得途上国の債務危機の終了を宣言するにいたった。これら諸国ではいずれも〈新自由主義〉の経済政策が採用されてきたが,これについては〈ラテン・アメリカ〉の[経済]の項を参照されたい。
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百科事典マイペディア 「累積債務」の意味・わかりやすい解説

累積債務【るいせきさいむ】

一国の経済からみて返済不能な水準まで累積された対外債務をさす。狭義には発展途上国が先進諸国の政府や金融機関から借入した債務が累積して巨額に達していること,広義には世界最大の対外債務国である米国も含む事態。中所得の重債務国と低所得の後発発展途上国に二分される。直接の原因は,経済開発を目指しての多額の外資借入だが,背景には,石油危機以後の先進国経済の停滞長期化と,一次産品市況の悪化により途上国の輸出が鈍化して貿易赤字が急増したことがある。このため債務国のデット・サービス・レシオが急上昇し,1982年のメキシコのデフォルト(債務不履行),1987年のブラジルのレピュディエーション(債務返済拒否)につながり,そのたびに国際金融危機が高まった。そのため1989年のアルシュ・サミット(パリ)でブレイディ構想を中心に対策が進められ,1990年には同構想がメキシコ,フィリピンなど7ヵ国に適用されたが,ブラジルなどはIMFとの協議に基づく経済再建計画を策定しなかったので,IMFのコンディショナリティを満たさずに同構想も適用されず,累積債務国間で明暗を分けた。1990年代に入り旧ソ連,東欧諸国の累積債務が急増し,とくにロシアの債務は1998年の経済危機でより深刻化している。また1997年から始まったアジア通貨危機により,タイ,韓国,インドネシアなどの債務が新たな問題として浮上してきている。
→関連項目エマージング・マーケットグローバリゼーション南北問題ラテン・アメリカ

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旺文社世界史事典 三訂版 「累積債務」の解説

累積債務
るいせきさいむ

途上国が年々抱え込んだ,先進国に対する膨大な債務
1980年代にラテンアメリカなど新興工業経済地域(NIES)で顕在化した。これは,1970年代からの積極的な工業化政策に必要な資金調達を盛んに行い,先進国がこれに積極的に応じたことが背景にあった。また多くのアフリカ諸国は,返済の目途が立たないほど深刻な状況に陥っている。累積債務は途上国の経済発展を困難にし,国際金融不安を加速するため,国際協力が急務となっている。1999年のケルン−サミットでは,ロシアを除く7か国がアフリカ諸国を中心とした重債務貧困国に対して,約3分の1の額におよぶ債務返済を求めないことで合意した。

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