国境をまたいだ企業の活動や資本の移動など、経済活動が国家の枠組みを超えていく現象。貿易などを通じた単なる国際化ではなく、地球全体があたかも一つの市場のように結び付く状態を指す用語として、1980年代前半に使われ始めたとされる。冷戦終結後、旧東西陣営の市場分断が解消したことで、統合の動きはさらに加速した。
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ヒト、モノ、カネ、企業などの移動が盛んになり、地球規模での一体化が進むこと。地球上の各地点で相互連結性が強化され、遠方からの影響を受けやすくなるような、広範な社会的過程をさす。グローバライゼーション、グローバル化などともいう。英語の地球globeからの派生語で、中国語表記では「全球化」である。なお、グローバリゼーションとは、“相互依存を強化するように”進行する過程であり、グローバリズムは、“それに価値と意味を与えて”推進するイデオロギーである。
たとえば、つぎのような事例から、グローバリゼーションのイメージを知ることができる。2011年に起きたタイの洪水は、日本で自動車の納期を遅らせた。「アジアのデトロイト」とよばれるタイは自動車部品産業の集積地となっており、タイからの重要部品の入手が遅れたからである。また、パソコン用プリンターでセイコーエプソンとの間で互角のシェア争いをしていたキヤノンが、2011年商戦で大きく水をあけられたのは、重要拠点をタイに置いていたからである。遠隔地の災害が日本に多様な影響を与えることこそ、グローバリゼーションの重要な様相を表すものといえる。
相互連結のための所用時間が減り、空間が圧縮された効果をもつことから、その本質を「時空圧縮」にあるとする考えがある(D・ハーベイDavid Hervey(1935― ))。それは輸送、通信などの技術進歩によって、また国境管理の政策変化による障壁の低下などによって生ずる。相互に距離を保てる社会が終わるのであり、相互連結によってリスク(危険)も相互に及ぶことになるというのが、U・ベックUlrich Beck(1944―2015)の見立てである。
グローバリゼーションをとらえる枠組みは確立しておらず、定義、推進要因、時期区分、影響など基本的な点について、見解の一致はない。むしろ基本的な問いとそれに対する見解の相違を概観することによって、その全貌(ぜんぼう)を推定できる。時期の問題、推進要因の問題をはじめ、経済の次元、政治の次元、文化の次元などにおける主要な問いと対立として、以下の九つをとりあげよう。グローバリゼーションについて、〔1〕このまま進むのか、いつか反転するのか、〔2〕最近の現象なのか、古くからある現象なのか、〔3〕推進要因は何か、〔4〕格差を広げるものなのか、〔5〕民主主義を広めるものなのか、〔6〕国家を退場させるものなのか、強化するものなのか、変容させるものなのか、〔7〕アメリカ化を意味するものなのか、地域の独自文化をよみがえらせるものなのか、〔8〕ハイブリッド化するものなのか、〔9〕顕著な推進要因としての金融グローバリゼーションがグローバル金融危機をもたらしたのか。
[櫻井公人 2018年8月21日]
グローバリゼーションは避けることができないし、逆戻りすることもできない(非可逆であり、反転しない)との主張がある。少なからぬ論者、経営者、政治家の口から「グローバリゼーションは不可避であり、われわれは、いやおうなくこれに適応するしかないのだ」という声を聞く。サッチャーのことば「TINA(There is no alternative.=ほかに選択肢はない)」が著名である。これは、市場原理の広がりを不可避で非可逆であるとする、新自由主義的なグローバリズムにおける想定である。グローバリゼーションの進展と効果を疑いないものとして論ずる点で、経済決定論的、技術決定論的な性格をもつ。「外圧」を利用して反対論を封じ込めるためにも便利な表現であり、スティーガーManfred B. Steger(1961― )はこれを「脱政治化」とよんだ。グローバリゼーションを非可逆とする見方はまた、グローバリゼーションを最近の現象とする見方と親和性が高い。
[櫻井公人 2018年8月21日]
グローバリゼーションは可逆的であり、これまでにもなんどか反転した、すなわちなんどか繰り返された過程とみる歴史家は多い。19世紀末から20世紀初頭にかけての第一期(第一次)グローバリゼーションは一度終末を迎えて、20世紀末に第二期(第二次)グローバリゼーションとして復活するなど、反転して繰り返し生じてきた。移民、投資、貿易について、それぞれの時期にピークがあり、たとえば移民については1890~1920年に1820万人(1901~1910年には年平均で90万人、1907年には125.5万人)、1990年代にはおよそ年100万人と不法移民年30万人がこれに加わる。
さらにさかのぼって、F・ブローデルのいう「長期の16世紀」や「大航海時代」を想定することもできる。グローバリゼーションを近代化と密接な関係にあるものとして理解する立場では、時期的にこのあたりから説き起こすことになる。おそらくもっとも古い想定は、アフリカで誕生した人類が南米大陸最南端にまで到達した1万2000年ほど前、というものであろう。これを「グレート・ジャーニー」とよぶ。
環境の次元を重視する論者や宗教思想の形成をとりあげる論者は、相対的に古い時代からの動向に着目する。たとえば、K・ヤスパースのいうように、紀元前5世紀ごろの枢軸時代に局地的に発生した思想や宗教などを出発点として、それらが各地に伝播(でんぱ)しながら世界宗教として成立する過程をたどると、ここで述べるいくつかの論点や対立点がすでに先取りされていることに気づくであろう。
[櫻井公人 2018年8月21日]
輸送、通信などの技術進歩がグローバリゼーションを促進してきた。紀元前3000年ごろの車輪の発明は、同時期に発明された文字などによる記録とともに、グローバリゼーションを新しい段階に押し上げた。その後も、用水路と運河、そして海運やシルク・ロードによる長距離交易が重要な役割を担い、その後の、鉄道、飛行機、インターネットなどに連なるものとなる。
利潤動機や金融を含めて経済次元の要因も促進要因となってきた。世界宗教の布教が商業活動を伴うことは珍しくなかった。他方で、関税の撤廃、FTA(自由貿易協定)の締結など、貿易の自由化を推進する決定は政治次元のものであり、資本移動規制の撤廃や金融自由化というマネーの移動を促す決定や、人の移動を促す移民政策もまた政治次元のものである。外部とのつながりを重視し、交流と伝播を好感する思潮など、イデオロギーの次元も推進要因となってきた。これらについては、技術要因や商業的要因とも関連しながら伝播した、宗教の広がり方を説明する際に求められる多次元性を想起されたい(圧倒的な推進力を発揮する現代の金融グローバリゼーションについては、〔9〕を参照)。
[櫻井公人 2018年8月21日]
グローバリゼーションと格差について、国内的にはグローバリゼーションとともに格差が拡大したことを観察できる。アメリカでは国民総所得(GNI)に対し、所得の上位1%の者が占める割合は、1928年をピークとして1970年代のボトムまで低下した後に上昇し、ふたたび2007年に同様のピークに達した。経営者報酬の急上昇、労働組合組織率の低下と労働者平均時給の伸び悩み、最高限界税率の引き下げ、金融規制緩和の進展と金融肥大化など、1970年代以降に進展した事態もこれにかかわる。少数者への富の集中が進行する一方で、国連ミレニアム開発目標では、1990年から2015年までに極度の貧困と飢餓人口を半減したとされ、グローバリゼーションは国家間の格差を拡大させる一方、世界の極貧層を減少させたといえる。
[櫻井公人 2018年8月21日]
今日では、民主主義や市場経済といった諸制度も、世界に伝播して各地域の相違を収斂(しゅうれん)させる効果をもってきた。なんらかの選挙が行われていることを指標として民主主義をとらえるなら、グローバリゼーションは民主主義を広めてきた。21世紀に入ってからのアフリカ諸国に、それは顕著である。
他方でグローバリゼーションはまた「民主主義の赤字」とよばれる状況や「ポピュリズム」を台頭させてきた。ある種の課税や規制などを受ける一方で、自分たちの意見が代表されず、反映されていないことが「民主主義の赤字」である。その不満を吸い上げるかのように単一課題として設定し直すことで支持を得ようというのが「ポピュリズム」である。世界的に「強権」化は目だつ傾向となっており、主要国においても「専制」に向かう顕著な事例が相次ぐ。とくに、国家主席の任期枠を撤廃した習近平(しゅうきんぺい)体制における2018年の中国憲法の改正は、グローバリゼーションと経済発展によって民主主義が進展するとしてきた素朴な期待を打ち砕いた。
また、頻発する通貨危機・経済危機のもとでは、自分の投票した議員が政策を決めた結果として自国の福利水準などが決まるのではなく、選出した覚えのないどこかの国のヘッジファンドによる投機アタックが自国の経済状況を決めるという事態も現れる。また、格差や地域的な分断が民主主義を危機に陥れるリスクが、多様な形で現れていることを見逃すことはできない。
[櫻井公人 2018年8月21日]
グローバリゼーションと国民国家の主権との間に、ある種の対抗関係を意識させられることがある。グローバリゼーションの進展に伴って国家主権が弱まるという印象があり、たとえば「地域国家」をベースにしたコスモポリタン(世界主義者)的なビジョンを想定するなど、大前研一(おおまえけんいち)(1943― )の描いた「ボーダーレス・ワールド」がその一つの極致であった。一方で、軍備をもち戦争を行う主体が国家であると想定している安全保障論を中心に置く国際政治学では、国家主権の弱体化は想定されにくい。また、グローバリゼーションを推進するにせよ、それに対抗するにせよ、それは国家が行うのであり、国家機能の強化こそが求められるとする議論もある。
『国家の退場』を著したS・ストレンジSusan Strange(1923―1998)の議論は誤解されやすい。彼女の議論をまとめるなら、次のようになろう。(1)ストレンジは国家を重視する古典的なリアリストで、経済次元の決定が政治次元で行われることを重視し、予見しうる将来に国家が消滅することはないとしている。(2)だが、国家がナショナリズムとともに資本主義と手を携えてきた歴史的存在だという長期的な視点に立てば、その使命の終了と消滅はありうる。(3)グローバリゼーションの進展とともに、市場の諸力を代表とする非国家的な権威に対して、その機能を譲り渡す傾向が強まっている点についての注意が必要である。国家間システムがもちえた決定力を、しだいに市場が代行するようになっている。多国籍企業、とりわけ監査法人、保険会社、格付け会社や、マフィア組織、テロ組織、EU(ヨーロッパ連合)官僚機構などの非国家主体のパワーは増している。(4)強い国家と弱い国家との格差は拡大しており、今日の国家を一律に論ずることは議論を混乱させる。
グローバリゼーションによって国家のパワーが制約される「国家の退場」的な側面が増す一方、グローバリゼーションへの抵抗の拠点としての期待も高まっていく。そうして出現する新しい姿を「国家の変容」とよぶ論者もいる。いずれにせよ、相反する傾向のせめぎ合いをとらえることが重要である。
[櫻井公人 2018年8月21日]
市場の諸力と個別文化の対抗についての見方は、二つに大別される。第一は、B・バーバーBenjamin R. Barber(1939―2017)に代表されるように、市場経済の諸力がグローバル・カルチャーを生み出して世界をフラット化させ、これが各地域の民族主義的な感覚やアイデンティティを弱めるという見方である。アメリカ発のポップ・カルチャーが世界を覆うとみる「文化帝国主義」状況を批判する議論も、これに含まれよう。第二に、グローバル・カルチャーの登場がこれに対する反動を各地に生み出し、国民経済形成以前の古層にあったような文化的・宗教的な紐帯(ちゅうたい)を、むしろ再現する方向に働くという見方がある。人為的な国境を強いられた地域は少なくないが、そのような地域に着目するR・カプランRobert D. Kaplan(1952― )のような論者が採用するイメージである。また、S・ハンチントンは市場経済の広がりが均質な価値観を生み出すであろうことを認めつつ、個人主義、市場経済、民主主義といった西洋文明の共有する理念は、各国のエリート層に浸透するものの、非西洋世界の多くの住民には浸透しないとみる。そのうえで、コスモポリタンの外観の背後では、固有の文明的様相を色濃くした対立が起こり、衝突しかねないというビジョンを描く。人々の移動が、国家としてのアイデンティティより宗教的なアイデンティティを復活させるとみる点で、ハンチントンの議論もまた、グローバリゼーションによる国家の退場に共鳴するところがある。さらに少数民族の自立・独立運動においても、中国、ロシア、インド、トルコなど、かつて帝国であった地域に加え、ヨーロッパでも国民国家からの自立・分離を目ざす動きが顕著になっている。
文化次元をめぐっては、グローバル・カルチャーの広がりとその受容と変容をめぐる議論がある。B・バーバーは世界に広がるポップ・カルチャーを3M(Mac(マック)のようなパソコン、マクドナルド、音楽専門チャンネルのMTV)と表現した。このうち、アメリカ文化を代表するマクドナルドなど食に関連して、各地での受容に伴う変容が論点となる。マクドナルドについては、インドでは牛肉を使わずに羊肉や鶏肉などで代替されるし、マスコットキャラクターのロナルドはタイでは合掌して立っている。日本では発音しにくいことから、ドナルドと呼びかえられている。マクドナルドは、そもそもアメリカでは手早い食事のためのファストフードであったが、中国では結婚披露宴をやりたいおしゃれな場所だとされたこともあり、日本では中高生が長時間入り浸って長居をする場所に変容している。シンボルマークであるゴールデンアーチとともに、基本的に均質な内容を世界で提供しているようにみえるものの、そのサービス内容は地域ごとの微妙な変容を伴っている。
同様に、日本からすしが世界に広められたが、受容の際に変容し、シャリ(飯)を外側にした巻きずしがカリフォルニア・ロールとして日本に逆輸入された。これらは国際マーケティングの課題でもあり、提供するサービスや製品を世界で均質化させる世界標準化戦略と、現地の動向や嗜好(しこう)にあわせて変容させる現地適応化戦略とのせめぎあいである。たとえば、コーラの味は、ハンバーガーよりも世界標準化に近い形で提供されている。
[櫻井公人 2018年8月21日]
グローバリゼーションと文化の伝播・流入にかかわって、すでにみたアメリカ化についての議論は均質化をめぐって論じられたが、純粋型が維持されるより、なんらかの変容を伴って受容されていく過程のほうが通常であるとする視点もある。アメリカのルイジアナ州などには、ガンボ(スープ)やジャンバラヤ(炊き込みご飯)などの食文化で著名な、フランス文化の影響が色濃い「クレオール」文化がある。カリブ海地域ではアフリカや中国の食文化が混淆(こんこう)する。中南米地域では現地文化にスペイン文化が混淆・融合している。加藤周一が「雑種文化」とよんだ日本文化も、朝鮮半島や中国からの文化を混淆させつつ、独自文化としてきた歴史をもつ。これらは、グローバリゼーションの過程における文化要素の混淆や変容について、「ハイブリッド化」などとして論ずる文化人類学などからの視点でもある。一方で、「クレオール」は植民地生まれや集合的マイノリティを指し示すことばでもあったことから、人種主義からの脱却や脱植民地化を模索する政治的次元にかかわる動きを象徴するものでもある。
[櫻井公人 2018年8月21日]
グローバリゼーションにおいて、金融の主導性は高まっている。19世紀末から20世紀初頭に、また1920年代の好況の後に、世界経済は大不況に突入した。アメリカでは、1930年代のニューディール体制において、バブルと大暴落の要因となった金融を規制するグラス‐スティーガル法が制定され、第二次世界大戦後のブレトン・ウッズ体制でも、固定為替(かわせ)相場制のために資本移動が規制された。このように、全般に金融の規制されていた1930~1970年代にはグローバリゼーションは抑制されていた。しかし、1970年代に金ドル交換が停止されて資本移動規制が撤廃され、1980年代にかけてアメリカ国内で金融自由化が進展すると、これがヨーロッパにも飛び火した。1990年代前後に冷戦が終結して世界市場が一体化し、IT技術の発展と相まって、グローバリゼーションは全面開花した。その1990年代にはヨーロッパ、メキシコ、東アジア、ロシアと、通貨危機が相次いだ。21世紀に入ると、2008年のリーマン・ショック、2010~2015年のギリシア危機、ヨーロッパソブリン危機など、グローバル金融危機が世界経済の中心で発生した。
[櫻井公人 2018年8月21日]
今日、ITと製造業等の融合は、インダストリー4.0、IoT(モノのインターネット)、M to M(Machine to Machine)、コネクテッド革命などとして表現され、これらがグローバリゼーションを新段階に推し進めるであろう。IT分野の製品においては、限界費用が低下しやすいだけでなく、Linux(リナックス)やウィキペディアにみられるように、無償での役務提供がなされるケースがある。また、ネットワーク外部性の効果をねらって、初期の基本ユーザーを獲得してクリティカル・マス(ネットワークの価値が参加コストを上回る点のことで、これを超えると、ほぼ自動的に参加者が増加する)の域に高めるまで無料化戦略がとられるなど、「無料」に向かう傾向性をもつ。また、これらをてこにして、多くの他社をプレイヤーとして自社プラットフォーム上に誘い込むことができれば、多くの重要情報が転がり込むことから、GAFA+M(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン+マイクロソフト)などとよばれるプラットフォーマー企業の株式時価総額は急上昇している。ひとり勝ち(Winner take all)状況も発生しやすくなっている。
さらなる焦点となりつつあるのが、キャッシュレス化と新たな決済手段をめぐる新展開である。重要情報を決済情報として集めることができるため、QRコードによるスマホ決済のアリペイを手がけるアリババやウィーチャットペイを手がけるテンセント(騰訊控股)も、GAFA+Mに迫る評価を得つつある。これを追うのは、次世代通信技術の5G(第5世代通信システム)や顔認証技術で先行し、アフリカ諸国で監視カメラによる都市セキュリティ・システムとして「セーフシティ」を提供するほか、スマホ決済のM-PESA(エムペサ)を展開しているファーウェイ(華為技術)、グーグルが締め出された中国で検索エンジンとして使われ、人工知能(AI)を用いた自動運転にも挑戦している百度(バイドゥ)などである。東南アジアでは、ライドシェア分野でウーバーとの競争に勝ったシンガポールのグラブGrabやインドネシアのゴージェックGO-JEKが、電子商取引(Eコマース)、電子決済などにも進出して、新たなプラットフォーマーになろうとしている。暗号資産とブロックチェーン技術の帰趨(きすう)に加え、スウェーデンやエストニア、タイなどの中央銀行も研究中の新決済手段の創出が、グローバリゼーションを新たな段階に引き上げる可能性にも留意しなければならない。
グローバリゼーションを推進する強力な要因がある一方で、反グローバリゼーションの要因も強化されつつある。たとえば、グローバリゼーションを推進してきたはずのアングロ・サクソン諸国(イギリスとアメリカ)で、2016年に二つのサプライズが起きた。すなわち、EUからの離脱(Brexit。日本ではブレグジットと表記されることが多いが、ブレクシットのほうが現地の発音に近い)を選択した国民投票(6月)と、反移民や反自由貿易を掲げるトランプの大統領当選(11月)である。Brexitにおいては、ほぼ完全なEUからの離脱を求めるハードBrexit路線と、関税同盟その他の枠組みをある程度残そうというソフトBrexit路線とが対立しており、折り合いがつかなければ、本来の選択肢にはないはずの無秩序なBrexitシナリオが浮上しかねない。トランプの政策と政権そのものの持続可能性自体も、反グローバリズムを超えて、無秩序化へのプレリュードとなりかねない。この2国の状況は、2001年のアメリカ同時多発テロ、2008年のリーマン・ショック、2010~2015年ごろのユーロ危機、ヨーロッパソブリン危機に続く、反グローバリズムにおける重要な動きであり、転機とみることができる。
〔1〕~〔9〕のように、多くの論点において対立がある。21世紀グローバリゼーションのゆくえについて、対立する要因が働いていることからわかるのは、グローバリゼーションを一面的で一方的な過程としてとらえるのでなく、相反する傾向のせめぎ合いとしてとらえる視点が重要だということである。なぜならグローバリゼーションは、多様な諸勢力によって複数領域において進展する、多次元的な過程だからである。ところが、これをそれぞれの専門領域に基づいて、特定次元からだけ述べる議論は少なくない。したがって、グローバリゼーション研究の発展のためには、スペシャリストの議論に加え、多次元性と全体性を志向するジェネラリストの議論が欠かせないことになるであろう。
[櫻井公人 2018年8月21日]
『R・ロバートソン著、阿部美哉訳『グローバリゼーション』(1997・東京大学出版会)』▽『ベンジャミン・バーバー著、鈴木主税訳『ジハード対マックワールド――市民社会の夢は終わったのか』(1997・三田出版会)』▽『ウルリヒ・ベック著、東廉・伊藤美登里訳『危険社会――新しい近代への道』(1998・法政大学出版会)』▽『櫻井公人・小野塚佳光編『グローバル化の政治経済学』(1998・晃洋書房)』▽『ジェームズ・ワトソン著、前川啓治・竹内惠行・岡部曜子訳『マクドナルドはグローバルか――東アジアのファーストフード』(2003・新曜社)』▽『デヴィッド・ハーヴェイ著、渡辺治監訳『新自由主義――その歴史的展開と現在』(2007・作品社)』▽『パンカジ・ゲマワット著、望月衛訳『コークの味は国ごとに違うべきか――ゲマワット教授の経営教室』(2009・文芸春秋)』▽『クリス・アンダーソン著、高橋則明訳『フリー』(2009・NHK出版)』▽『古川純子著「クラウドソーシングのメカニズム――知識経済における公共財供給の自発的貢献」(『聖心女子大学論叢』第115号所収・2010・聖心女子大学)』▽『マンフレッド・B・スティーガー著、櫻井公人・櫻井純理・高嶋正晴訳『新版 グローバリゼーション』(2010・岩波書店)』▽『スーザン・ストレンジ著、櫻井公人訳『国家の退場――グローバル経済の新しい主役たち』(2011・岩波書店)』▽『ダニ・ロドリック著、柴山桂太・大川良文訳『グローバリゼーション・パラドクス――世界経済の未来を決める三つの道』(2013・白水社)』▽『エリック・へライナー著、矢野修一・柴田茂紀・参川城穂・山川俊和訳『国家とグローバル金融』(2015・法政大学出版会)』▽『小久保重信著『ITビッグ4の描く未来』(2017・日経BP社)』▽『ポール・メイソン著、佐々とも訳『ポストキャピタリズム――資本主義以後の世界』(2017・東洋経済新報社)』▽『アレックス・モザド、ニコラス・L・ジョンソン著、藤原朝子訳『プラットフォーム革命――経済を支配するビジネスモデルはどう機能し、どう作られるのか』(2018・英治出版)』▽『アンドリュー・マカフィー、エリック・ブリニョルフソン著、村井章子訳『プラットフォームの経済学――機械は人と企業の未来をどう変える?』(2018・日経BP社)』▽『スーザン・ストレンジ著、櫻井公人・櫻井純理・高嶋正晴訳『マッド・マネー――カジノ資本主義の現段階』(岩波現代文庫)』
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(野口勝三 京都精華大学助教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
1990年代に定着した言葉で,航空輸送の普及,通信衛星の発達,情報処理・通信手段としてのコンピュータの高性能化などを背景として,人・ものの交流のみならず,金(かね)の移動,情報の伝達が世界的規模で高速化・大量化し,世界諸国,諸地域の多面的な相互の関連の程度が著しく深まったことをさす。この過程の進展のなかで,国家による情報管理や保護主義的手法での国民経済の運営が困難になり,諸国は開放自由化政策により対応することを迫られた。社会主義体制の崩壊や変容もそのなかで起こり,それをさらに促進した。グローバリゼーションにより経済的打撃を受ける人々,異質文化の影響の浸透や異文化を持つ人々の流入に脅威を感じる人々も多いため,90年代末にはグローバリゼーションへの反感,排外感情,守旧主義も目立ってきた。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
「グローバル化」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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