改訂新版 世界大百科事典 「細線細工」の意味・わかりやすい解説
細線細工 (さいせんざいく)
金銀の延びる性質を利用して細い糸状や粒子とし,地板に鑞付(ろうづけ)して装飾的効果を高める貴金属工芸の技術。細金細工(さいきんざいく)/(ほそがねざいく)ともいう。イタリア語filigranaに由来する英語のfiligreeの訳。filigreeを線細工に限定し,粒細工をgranulationということが多い。最古の例はメソポタミアのウル王墓出土の金製短剣(前2500ころ)で,エジプト第12王朝の初め(前1920ころ)のダフシュール出土の頸飾にみられるように,粒細工の技術を習得していた。ツタンカーメン王墓(前14世紀半ば)の副葬品にその発達状態がみられる。西アジア,エジプトの細線細工はトロイア,ミュケナイ出土の著名な金製品をへてギリシア,エトルリアに伝わり,最高度に発達した。東洋にも中国の漢代に伝わり,見事な母子竜の意匠のある帯金具が楽浪石巌里9号墳から出土している。南北朝時代や唐代にも華麗な装身具が作られた。5~6世紀の新羅,任那(みまな),日本の古墳からも耳飾が発見されている。細線細工の技術は日本に定着せず,ながくとだえた後,江戸時代に九州の平戸で外国人より伝授を受けて平戸細工として復活したが,これらには古墳出土のものと同工異曲の技法がみられる。韓国や中央アジアの各地,インド,イランなどはこの技術が現在も存続しているが,銀細工が大部分である。
執筆者:香取 忠彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報