開国の頃から、「異国人」「異人」に代わって、公文書を中心に使われ始め、文章語として定着していった。明治期には庶民層にも広まり、「日本大辞書」の「いじん(異人)」の項にも「今普通ニ体裁ヨクイフ時ニハ外国人或ハ西洋人ノホカハ余リ多クイハヌ」とある。→異国人・異人・外人
日常語としては広く他国の人を意味する。自国以外の国籍を有する者および無国籍者をふつう指す。外人,異国人,異邦人,異人などともいう。もともと畿内から見た外の人,地方の人を表す〈外国人(とつくにびと)〉が今日の用法に転用された。
日本人の外国人観は〈他国人(たこくびと)〉と〈異国人(いこくびと)〉の2系列からなる。〈他国人〉の系列では,現実に行われる交渉や見聞に基づく事実認知的な判断が働き,自他の差異が客観的にとらえられる。他方,〈異国人〉の系列には,未経験,空想,超現実,情緒等の要素が入りこむ。自分たちとは異質な〈外〉の世界の人々に対して畏怖(いふ)と憧憬,誘引と反発が働く。現実には両者は重なり合って,日本人の外国人観の原型的な認識枠組みを作ってきた。
古く,日本人は世界が本朝(日本),唐(中国),天竺(インド)の3国から成ると考えていた。天竺そしてしばしば唐も,異国一般の表象だった。とくに天竺は空想が支配的な仏の世界であって,日本と中国以外の西方の国々はすべて天竺に含まれていた。そのため16世紀以降渡来した西欧の人々は,南蛮人のほかに天竺人とも呼ばれた。
黒船来航のころ,大津絵節本はアメリカ人を〈唐人〉〈毛唐人〉〈唐のあめりか〉〈紅毛人〉などと呼び,洋服に辮髪(べんぱつ)姿の,西洋人とも中国人ともつかない怪異な人物を描いた。幕末から維新期にかけて〈外国人〉は主として西洋人を指すようになるが,それは〈他国人〉である以上に情緒を投射した〈異国人〉の系列であった。近代日本の対外関係の変化に呼応して,日本人の西欧像は〈力〉のイメージと〈文明〉のイメージとの間を往き来した。西欧が〈力〉として意識されるとき,西洋人への価値剝奪的な呼称が生まれる。条約改正のころ西洋人は〈赤鬢奴(あかびんやつこ)〉〈怪物〉〈獣〉であり,太平洋戦争下では〈鬼畜米英〉であった。
日本近代を通じて西洋人が〈外国人〉になる過程は,同時にアジアの人々が〈外国人〉の圏外へ追放される過程でもあった。〈脱亜入欧〉(脱亜論)およびアジアへの〈抑圧移譲〉とともに,とりわけ日清戦争以降,アジアの人々への差別と蔑称とが日本人の間に浸透した。第2次大戦後も基本的には,この外国人観の構図は持ち越される。もとより産業の高度化は,かつて欧米への追随者だった日本を,経済的な競争者かつ軍事的〈パートナー〉へと変えた。また,第三世界の国々の自立,在日朝鮮人のアイデンティティの探究,アジア難民の問題,海外渡航者の増加,映像メディアによる海外情報の氾濫等に促されて,日本人の外国人観は分化し,多様化した。にもかかわらず,経済大国化した日本は,とりわけアジアの人々を観光,市場,開発の対象として,再度〈他国人〉と〈異国人〉とに編入することによって,新たな自民族中心主義と〈脱亜入欧〉の傾向をも生み出している。
→排外主義
執筆者:栗原 彬
法律的には外国人とは,その国の国籍をもたない者である。他国の国籍をもつ者(他国籍者)ともたない者(無国籍者)がある。その国の国籍をもつ者は,他国の国籍をもっていても(重国籍者)外国人ではない。法人も,内国法人に対して,外国に住所があるかまたは外国法に準拠して設立された外国法人が存在する。その地位は,内国法人に準じる。ただし,外国人であるかどうかは,しばしば不明確な場合がある。たとえば,旧外国人登録令(1947公布)は,日本国籍をもつ者と連合国軍の将兵等以外の者を外国人とし,とくに台湾人,朝鮮人を外国人とみなした(2,11条)が,平和条約(1952発効)11条の〈日本国民〉には,台湾人,朝鮮人が含められ,戦犯として刑の執行を受け続けた(最高裁は1952年の判決でこれを肯定)。
外国人処遇の歴史は,一般的に五つの段階を経てきたといわれるが,その処遇が問題となるのはとりわけ近代国民国家の成立以後である。第1期は,外国人を敵と考えた時代である。第2期は,外国人をいやしい者と考えた時代で,居住は認めてもいっさいの権利や保護を与えなかった。第3期は,排外的差別扱いの時代で,人間としては対等と認めたが,権利や保護を限定的にしか与えず,多くの義務を課した。第4期は,相互主義の時代で,外国人を自国民と平等な地位におこうとはするが,相手国が自国民に権利と保護を与えることを条件とした。第5期は平等主義である。現代は平等主義の時代であるが,相互主義の制度も残っている(例,出入国管理及び難民認定法(略称,入管法)5条2項,国家賠償法6条)。以上の叙述は,外国人が人間としての存在を否定されていた時代から,原則として国民と同じ地位を認められる時代へと変遷してきたことを示している。
外国人の法的地位は,国際法,国内法の両面から決定される。国際法上は,外国人の地位は,各国が外交・内政の方針等から自由に決定しうるのが原則とされてきた。しかし,今日では,国際人権規約などによって,国際法上の制約が大きくなったことが注目される。その結果,これまで,私権の享有についていわれていた内国民待遇ないし内外人平等主義が,公権(基本的人権)についても適用されるようになった。ただ,出入国在留管理権は,今日でも,国家の主権と独立の属性と解されているので,外国人は国民とは異なり,当該国のひろい裁量に服さねばならない。外国人はまた,義務のうえで国民とは異なっており,納税義務はひとしく負うが,教育義務,兵役義務などは負わない。外国人が権利や自由をもつ場合であれ,もたない場合であれ,その国が適切な処遇をしないときには,外国人の本国は,外交保護権を行使できる(外交的保護)。
日本国内公法上の外国人の地位について,日本国憲法は明文を欠くが,国家の独立性と国民主権の原理に反しないかぎり,すべての人の人権を保障しているといいうる。しかし,外国人に関しては,国家の独立性および国民主権と矛盾する場合がありうるので,国民と外国人の地位には重要な相違が出てこざるをえない。問題になるのは,次のような点である。精神的自由は,ほんらい人権のなかでも優越的地位にあるものであるが,日本国憲法または国民主権原理に基づき成立した政府を暴力で破壊することを主張する自由は制限されるであろう(入管法24条4号オ)。居住・移転の自由は,国内におけるものは,国民と平等に保障されるが,入国の自由は,条約等による場合や一定の再入国の場合のほかは認められず,出国は,禁止されえないが,強制される場合(退去強制。入管法24条)があり,在留には外国人登録(申請義務=外国人登録法3条1項,携帯・提示義務=同13条)が必要である。人身の自由については,国民にはない収容処分(入管法39条,52条5項)がある。出入国在留管理は,国のひろい裁量(立法裁量,行政裁量)のもとに実施されている(出入国管理)。経済的自由については,外国人には認められないものがたくさんある。たとえば,財産権の享有が制限され(外国人土地法1条,鉱業法17条,船舶法1条等),職業選択の自由がせばめられていること(入管法7条,別表第1,第2,70条=資格外活動の処罰,弁理士法2条等)についても違憲とされていない。社会権は,従来外国人には保障されない権利と考えられていたが,今日では,原則的に保障をうけるようになった(国際人権規約(A規約)参照)。参政権は,一般に外国人には認められない権利であると説明されるが,地方公共団体におけるものは直接国民主権に根ざすというより,地域住民による共同体の運営参加という意味をもつものだから,外国人に否定すべき根拠はない(スウェーデンやスペインでは地方選挙への参加権を認めている。日本では最高裁1995年2月28日判決は,憲法上許容されていると判示。〈外国人選挙権〉の項参照)。公務就任権は,国政上重要な決定権をもつ地位とか,重要機密を扱う地位以外の公務については外国人にも認められうる(例,アメリカ最高裁シュガーマン対ドゴール判決(1973))と考えられるが,日本ではまだ確立していない。私法上では,私権の享有(例,民法2条)やひろく私法上の活動について,国際法上,はやくから内国民待遇が原則とされてきたが,国家の政策により例外的に制限を加えることができるとされてきたので,今日でも,諸種の制約が存在する。日本の例でみると,土地所有権,鉱業権などの享有制限,投資制限(外為法26条,国際電電法4条など),外国船舶・航空機の物品・旅客の運送制限(船舶法3条,航空法127条等),漁業禁止(外国人漁業規制法3条)等がある。これらの問題および外国人相互,外国人と国民とのあいだの争訟すなわち渉外的事件(国際結婚,国際養子,国際売買,国際扶養,国際契約等)については,外国人法ないし国際私法上の原則によって,適用法令,権利義務の内容,裁判管轄などが決定される。
執筆者:萩野 芳夫
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外国の国籍をもっているか、いずれの国の国籍ももたない者をさす。外国の国籍をもつと同時に日本の国籍ももっている者は、通常、内国人とみなされ、外国人としては取り扱われない。外国人の地位は、なんらの権利も認められなかった時代から現代に至るまで多くの変遷を経てきており、外国人処遇の考え方も、敵視主義、賤外(せんがい)主義、排外主義、相互主義、平等主義と移り変わってきている。
外国人の入出国については、国家は一般国際法上、外国人の入国を許さなければならない義務を負っていない。しかし実際には、2国間の通商航海条約などによって、互いに相手国国民の入国を許すことを約束していることが多く、また条約がない場合にも、慣行上入国を許しているのが通常である。多くの国は、旅行その他の一時的入国と、移民のような永続的入国とを区別し、後者は特別許可を条件としている。外国人の出国は自由であって、国家は原則としてこれを禁止することはできないが、他方、国家は外国人の出国を強制することができる。司法共助として行われる犯罪人引渡しと、行政目的でなされる退去強制(追放)が出国強制の場合である。しかし、政治犯罪人は引き渡してはならず、また理由のない退去強制は権利乱用と考えられるし、政治的その他の迫害の待つ地域に向けて追放・送還することは許されない。これを追放・送還禁止(ノン・ルフールマンnon-refoulement、フランス語)の原則という。
また、日本に90日以上在留する外国人は、所定の申請と顔写真の提出により、市区町村から登録証明書の交付を受けなければならない。この申請時の指紋押捺(おうなつ)制度は、1992年(平成4)の改正で、永住資格をもつ定住外国人について免除され、1999年の改正では、非永住者についても廃止された。なお、2009年7月15日に、「出入国管理及び難民認定法」(昭和26年政令第319号)と、「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法」(平成3年法律第71号)の改正が行われた。これによって在留カードの交付など新たな在留管理制度が導入され(実施は改正より3年以内)、これに伴って外国人登録制度は廃止されることとなった。
外国人は一国の領域内に入ると、原則として、滞在国の管轄権に服し、兵役や教育の義務を除き、国民と同様の義務を負う。外国人の享有する権利について国際法上一般的に確定したものはないが、私法上では内外人平等の原則が一般的に認められている。政治上の権利は外国人に認められないのが普通であり、そのほか公法上、外国人は内国人と異なる取扱いを受けることが少なくない。しかし、「国際人権規約」にみられる国際人権保障の考えは公法上でも内外人平等を目ざしている。また、日本でも定住外国人の公務員採用が一部実現しており、地方参政権賦与が課題とされている。
[芹田健太郎]
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…すなわち,ある国の国籍をもつ者がその国の国民である。特定の国籍をもつ国民に対立する概念は外国人である。外国人とはある国にとり,自国の国籍をもたない者であって,無国籍者をも外国人というのが一般的である。…
…たとえば,出生による国籍の取得について,生地主義を採る国の国民の子で血統主義を採る国の領域内で生まれたものは,いずれの国籍も取得せず無国籍者となる。無国籍者は,普通,居住国で外国人として取り扱われるが,不当な待遇を受けても通常の外国人のように本国の外交的保護を求めることはできず,また居住国としても,国外退去を命ずるにも引取りを要求すべき本国がないから取扱いに困窮することがある。そこで,国籍立法の理想として,古くから,人は必ず一個の国籍をもち,かつ一個の国籍のみをもつべきことが要請され(国籍唯一の原則),諸国の立法上,特別の考慮が払われるのが普通である。…
※「外国人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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