細胞接着(読み)さいぼうせっちゃく(その他表記)cell adhesion
cell contact

改訂新版 世界大百科事典 「細胞接着」の意味・わかりやすい解説

細胞接着 (さいぼうせっちゃく)
cell adhesion
cell contact

細胞生物のからだを構成する細胞は,ただ,ばらばらに存在しているのではない。隣接した細胞が互いに接着し,その接着に一定の強度があることによって,からだの形が保たれる。皮膚を引っ張ってみれば,細胞接着の強さを実感することができる。このような接着は細胞間接着と呼ばれる。一方細胞は,コラーゲン繊維のような無細胞性の生体物質や,ガラスまたはプラスチックのような非生物性材料の表面にもよく接着する。細胞の接着性,とりわけ細胞間接着の機構の研究は20世紀初頭から行われてきたが,1950年代以降細胞培養,電子顕微鏡による微細構造の観察,生化学的分析などの技術的進歩にたすけられて急速な進歩を遂げた。これまでに,細胞間接着の機構に関する仮説として提唱されたものの中で代表的なものは以下のとおりである。(1)カルシウムイオンCa2⁺を介して細胞膜が架橋される。(2)ファン・デル・ワールス力による分子間引力と,細胞表層の負電荷による斥力との均衡による。(3)細胞表層の糖タンパク質と酵素または特別に分化した受容タンパク質との間に生ずる相補的な相互作用(例えば,鍵と鍵穴の関係のようなものである)。(4)細胞表層に存在する特別な結合タンパク質(いわば接着剤)の作用による。

 細胞間接着を電子顕微鏡を用いて微細構造レベルで解析した結果,細胞接着のための特別な構造,または細胞膜の部分のあることが知られている。接着斑(デスモソームdesmosome),密着結合tight junction,接着帯zonula adherens(または中間結合),狭間隙(きようかんげき)結合gap junction(ギャップ結合)などがそれである。上皮細胞ではしばしば,密着結合,接着帯,接着斑が上皮の自由表面から内側に向かって順に並び,結合複合体と呼ばれる構造を形成する。狭間隙結合では,細胞間は細胞膜内にある膜内粒子を介して,約2nmの狭い間隙をもって接着する。狭間隙結合部分には細胞間を電気的に連絡するイオン通路のあることが知られており,細胞間の情報や物質の交換に重要な役割を果たしていると考えられている。一方細胞接着には組織や器官による特異性があり,発生過程における形態形成機構に密接な関係がある。細胞の接着性は病理学的にも重要で,例えば,癌細胞の接着性は一般に低下していて,潰瘍の形成や転位の一因であるとされている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「細胞接着」の意味・わかりやすい解説

細胞接着
さいぼうせっちゃく
cell adhesion

細胞が多数集って組織や個体を形づくるためには,細胞同士が分離してしまわないことが必要である。細胞の接着には,細胞表面の構造や電気的な結合も関係しているようであるが,最近は,細胞の分化に伴って出現する接着物質が注目されている。脊椎 (せきつい) 動物の組織の細胞表面にある糖蛋白質,カドヘリンは,カルシウム存在下で細胞の接着性を制御する物質として脚光を浴びている。このような物質の存在は,たとえば2種類のカイメンの組織を酵素で細胞単位までバラバラにした後,混ぜ合わせると,同じ種類の細胞だけが集合するといった実験からも予想される。

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