改訂新版 世界大百科事典 「経営多角化」の意味・わかりやすい解説
経営多角化 (けいえいたかくか)
企業の経営戦略のうち,既存製品,既存市場に依存せず,新たな市場分野に進出することによって成長をはかろうとする戦略である。単に多角化ということもある。なお,いくつかの事業の経営を幅広く行う企業の行き方を多角経営という。アメリカの経営学者アンゾフH.I.Ansoffによれば,多角化戦略は次の四つに分かれる。(1)水平型多角化 現有の製品・市場分野と同種の製品・市場分野へ多角化するものである。たとえばオートバイ・メーカーが自動車の生産・販売を行うケースで,企業の現有生産技術やマーケティング能力が使えるので成功しやすい。(2)垂直型多角化 現有の製品分野で,異なる生産・販売段階の方向に多角化するものである。これはさらに前進的(最終製品志向型または川下型)多角化と後進的(原料遡及型または川上型)多角化とに分かれる。前者は素材メーカーが加工段階へ進出する形,後者は完成品メーカーが原料生産分野に進出する形である。(3)集中型多角化 マーケティング,技術のいずれかまたは両方が現有の製品,市場と関連している分野への多角化である。たとえば自動車メーカーが農業用トラクターの生産・販売を行う場合である。(4)集成型多角化 現有の製品・市場分野と関連のない分野への多角化である。多角化しようとする新製品,新市場に成長機会があることを基準にして多角化しようとするもので,アメリカのコングロマリット,日本で1970年代前半に頻発した製造企業の不動産部門へ進出したケースなどがそうである。コングロマリットの場合,買収,合併などにより行われることが多い。(1)~(3)に比べて危険が大きい。
日本で戦後,多角化意欲が高まったのは70年代前半で,過剰流動性(貨幣・準貨幣が過剰なこと)のもとで企業は競って不動産やレジャー分野に進出した。これらは(4)のタイプだが,73年秋に襲った第1次石油危機後の不況によって多くの企業が失敗した。80年代,低成長下で再び多角化の動きが活発だが,(1)~(3)の堅実タイプがほとんどである。
執筆者:原田 幸裕
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報