[経済学部の誕生]
日本で最初に設置された経済学部は,1919年(大正8)設置の東京帝国大学経済学部である。この年,分科大学を廃して学部を置くこととする帝国大学令の改正がおこなわれ,東京帝国大学は旧来の各分科大学に対応した法・医・工・文・理・農の各学部を設置するとともに,それまで法科大学(日本)の下に置かれていた経済学科(日本)および商業学科(日本)を独立させて経済学部を新設した。同年5月には京都帝国大学にも経済学部が設置され,同年施行の大学令によって大学に昇格した私立大学のうち1920年に昇格した慶應義塾,中央,法政の各大学ならびに22年に昇格した専修大学も昇格時に経済学部を置いた(早稲田大学は1920年の昇格時に政治経済学部(日本)を設置)。第2次世界大戦後には,多くの国公私立大学で経済学部が設置され,2016年(平成28)における経済学部(類似名称・関連領域の学部を除く)の設置数は141で,日本では名称別学部数において最多となっている。
日本の大学における最初の「経済学」の講義は,東京大学開学の翌年に当たる1878年(明治11),同大学文学部第一科史学哲学及び政治学科において開始された。翌79年には文学部第一科は哲学政治学及び理財学科(日本)に改称され,経済学(理財学)の名称が初めて組織名称の中に用いられた。それから約30年後の1908年,東京帝国大学法科大学に単独の経済学科が設置され,翌年には商業学科が設置された。このように経済学部の設置に先立ち,経済学ならびに商学の名を冠する学科が日本で初めて東京帝国大学に設置されることになった。
しかしその背景には,それまで学科はおろか商業学の講座も専任教員もいなかった帝国大学をよそに,日本における商学の研究と教育の主翼を担い,この領域「唯一の最高学府」(天野,2009)の地位にあった東京高等商業学校(日本)(一橋大学の前身)の大学昇格運動があった。東京高等商業学校は森有礼によって1875年に創設された私立の商法講習所(日本)を起源に持ち,東京府,農務省の所管を経て85年に文部省所管となった。1887年に高等商業学校と改称され,97年に専攻部を設置,1901年からは帝国大学と同様に卒業生に「学士」(商業学士(日本),1906年からは商学士(日本))の称号が認められるようになった。そしてこの頃より,同校(1902年に東京高等商業学校と改称)の教員集団や同窓会を中心に商科大学設立(昇格)運動が展開されるようになっていった。
前世紀転換期は,商学を大学における伝統的な学問と同格のものにすることを目指す運動が世界的に展開された時期であった。アメリカ合衆国では1881年,ペンシルヴェニア大学にウォートン・スクールが誕生し,1898年にはシカゴ大学とカリフォルニア大学に商科カレッジ(アメリカ)(College of Commerce)が設立された。同年ドイツではライプツィヒに商科大学(ドイツ)(Handelshochschule)が誕生し,1901年までにアーヘン,ケルン,フランクフルトがこれに続いた。国際市場において米独の後塵を拝しつつあるとの危機感を抱いていたイギリスにおいても,1895年のロンドン経済・政治学スクール(イギリス)(LSE,1900年よりロンドン大学の構成校となり,同大経済・政治学部(イギリス)[商工業含む]:Faculty of Economics and Political Science[including Commerce and Industry]の教育・研究を担った)に続いて,1902年にはバーミンガム大学に商学部が創設された。
こうした情勢を目の当たりにした留学生から情報がもたらされるなか,商科大学設立運動は展開され,日露戦争をはさんだ1907年に帝国議会において商科大学の設立を求める建議が提出・可決されたことにより,この運動は勢いを増した。しかし,単科大学を認めるか否かという問題をめぐって事態は紛糾し,結局は先に見た通り,1908年の経済学科に続き1909年に東京帝国大学法科大学に一人の専任教授もいないまま商業学科が新設される一方,商科大学の設立および商学部の設置は,1918年の大学令公布後まで持ち越されることになった。東京帝国大学に経済学部が設置された1919年の翌年,大学令によりようやく東京高等商業学校から昇格した東京商科大学に商学部が設置された。同年,同じく大学に昇格した早稲田,明治,中央,日本の各私立大学にも商学部が置かれ,日本における商学部の歴史が始まった。
[経営学部の隆盛と戦後の経済学部,商学部]
前世紀転換期の高等商業教育運動に続き,20世紀初頭には欧米で商業経営学(日本)(Business Administration)の勃興が見られた。ドイツでは1906年,先行する諸商科大学とは一線を画し商業経営を軸とするベルリン商科大学(ドイツ)が創設され,1908年にはアメリカでハーヴァード経営大学院(アメリカ)が創設された。日本でも1910年代よりドイツ経営学の移入およびその後のアメリカの科学的管理法(アメリカ)の紹介を端緒として経営学研究が開始されたが,日本初の経営学部が設置されるのは第2次世界大戦後のことであった。1949年(昭和24)神戸大学に最初の経営学部が設置されて以後,多くの大学で経営学部(日本)が設置されたが,2003年からは欧米のMBA課程と同様に企業経営や会計等の実務家養成を目的とする専門職大学院(日本)が相次いで設立され,2017年時点でビジネス・MOT(Management of Technology)または会計に関する37大学42専攻の専門職大学院が設置されている。
なお,『学制百年史』(文部省)によれば1971年における経済学部(類似名称・関連領域の学部を除く,以下同)の設置数は119で,法学部,工学部を凌ぎ文学部(123)に次いで2番目に多かった。また同年,これとは別に商学部47,経営学部30,政治経済学部および政経学部9が設置されていた。それから45年後の2016年度の「学校基本調査」によれば,学部名称の種類が1971年の67から502に増加するなか,設置数を141へと増加させた経済学部は,前述のように日本で最も設置数の多い学部となった。この間,商学部の数が36に減少する一方,経営学部は94に増加し,経済,工,文,看護,法についで6番目に設置数の多い学部となっている。
著者: 福石賢一
参考文献: 天野郁夫『大学の誕生(下)―大学への挑戦』中公新書,2009.
参考文献: 西沢保『マーシャルと歴史学派の経済思想』岩波書店,2007.
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報
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