結核性髄膜炎

内科学 第10版 「結核性髄膜炎」の解説

結核性髄膜炎(細菌感染症)

(2)結核性髄膜炎(tuberculous meningitis)
概念
 本症の治療の遅れは強く死亡と関連する.本症を疑ったら直ちに多剤による抗結核薬の治療を開始する.亜急性経過で発症し,頭痛・発熱を主徴とし,髄液でリンパ球優位の細胞増加,蛋白濃度上昇,髄液/血清糖濃度が50%未満を呈する.早期診断法としてPCR法が一般化している.
疫学
 わが国の発症頻度は,年間264±120例,小児例はその15%を占める.致死率14~28%・後遺症20~30%と高い.
病理
 肉眼的には脳底部を中心とした軟膜・くも膜の白濁(脳底髄膜炎)を認める.光顕では,Langhans巨細胞を伴った肉芽腫性髄膜炎を呈し,血管炎を伴う場合もある.
病態生理
 感染巣から髄膜へ結核菌が播種し発症する.感染経路は肺結核,結核性脊椎骨髄炎,腎結核などのほかの結核巣からの血行性播種による.しかし,肺結核併発は25~50%のみで感染巣不明も多い.血管炎・血栓・攣縮による内頸動脈と中大脳動脈基幹部に脳血管障害を呈する場合がある.
臨床症状
1)自覚症状:
通常,約2~3週間の亜急性発症するが,1/3の症例は急性発症する.進行すると意識障害を呈し髄膜脳炎の病型を示す.意識障害は入院時で55%,抗結核薬開始時で約8割と高い.
2)他覚症状:
髄膜刺激徴候を認める.初期は髄膜炎のみだが,その後髄膜脳炎に進展する.脳底部髄膜炎が多く,脳神経麻痺(特に,Ⅲ,Ⅵ)が20~30%と多い.さらに,血管炎による脳梗塞(併発頻度30〜55%)や閉塞性水頭症で片麻痺・意識障害を示す.
検査成績
1)髄液所見:
髄液でリンパ球優位の細胞増加,蛋白濃度の上昇,髄液/血清糖濃度が50%未満を呈したら本症を疑い,直ちに抗結核薬を開始する.しかし,初回髄液の28%は多形核球優位を示すので留意する.診断は,髄液の塗抹・培養における結核菌検出で確定する.結核菌の検出率は,塗抹10~22%,培養43~50%と高くない.検出率は髄液採取量に依存する.
2)早期迅速診断法:
 a)髄液中アデノシンデアミナーゼ(adenosine deaminase:ADA)値の上昇:感度65~95%,特異性75~92%.髄液ADAは早期診断上一定の有用性はあるが,細菌性髄膜炎などにて偽陽性を認めるので注意する.
 b)PCR法による結核菌DNA検出:感度57~100%,特異性90~100%である.陽性の持続は約3~4週間.ただし,PCRの最小検出感度が不十分だと検出できない.したがって,高感度のnested PCRや定量性のあるnested real-time PCRによる検索が必要. c)クォンティフェロン検査:結核菌の特異蛋白ESAT-6やCFP-10抗原に対し特異的に産生されるインターフェロンELISAで検出する検査.BCGの影響を受けないという利点がある.結核感染症全体(cut off:0.35 IU/mL)における感度70~92%,特異度90~98%であり,測定時間20時間と迅速.しかし,結核性髄膜炎における有用性は,若年者の結核の既往や肺結核併発のない症例の補助診断に限られる.
3)頭部CT・MRI:
 造影CTやMRIで脳底部の造影増強効果や結核腫を伴う場合(図15-7-10)がある.また,血管炎による脳梗塞(図15-7-10B)を認めることがある.
4)脳以外の肺,胃液,リンパ節,肝臓,骨髄の組織診断は可能な限り試みる.
5)その他:
 血液検査(SIADHによる低ナトリウム血症など)のほか,胸部単純X線やCT,尿検査,脊椎単純X線やMRIなど原発巣の検索を行う.
診断
 確定診断は髄液からの結核菌同定で,塗抹と培養は信頼性が高い.しかし,菌検出率は高くなく,培養には通常4~8週間を要するため,結果を待たずに治療を開始する.
 鑑別疾患としては,細菌性や真菌性髄膜炎,髄膜癌腫症,ウイルス性髄膜炎などがあげられる.鑑別は,発症経過,髄液所見,さらに神経放射線学的検査などに基づき行われる.
合併症
 水頭症,SIADHがあげられる.
経過・予後
 死亡率20~57%(先進国でも14~28%),後遺症20~30%と高い.予後影響要因として,治療開始までの期間,意識障害の程度があげられる.
治療
 現在の抗菌薬選択(成人の標準的投与量)は,イソニアジドINH)(300 mg/日・経口),リファンピシンRFP)(体重<50 kg 450 mg/日,≧50 kg 600 mg/日・経口),エタンブトールEB(体重<50 kg 1.5 g/日,≧50 kg 2.0 g/日・経口),ピラジナミド(PZA)(15 mg/kg/日・経口)の4者併用で2カ月,その後INH,RFPは10カ月間継続投与である.INHは髄液移行率が高く,移行速度も早く,ピーク時の髄液濃度はMICの30倍になる.PZAも移行率良好で,ピーク時の髄液濃度は最小発育阻子濃度MICの2倍程度になる.PZAは,2カ月を過ぎると結核病巣の中心部が中性~弱アルカリとなり,有効至適pH 5.0前後でなくなるため,2カ月間の使用に限る.
 副腎皮質ステロイド併用に関する過去の無作為比較試験のメタ解析結果からは,HIV陰性の本症では重症度にかかわらず全例で副腎皮質ステロイド薬併用が推奨される.軽症ではデキサメタゾン0.3 mg/kg/日の静注で1週間,中等症~重症では0.4 mg/kg/日の静注で1週間投与する.その後1週間ごとに0.1 mg/kgずつゆっくり減量して比較的長期に投与する.本薬の有用性の機序は,脳浮腫の軽減,血管炎の抑制,髄膜の癒着・線維化に伴う脳神経障害・閉塞性水頭症の防止のほか,matrix metalloproteinase 9や血管内皮成長因子にも作用する.一方,脳梗塞は血管炎が基盤にあり,血小板凝集抑制薬のみならず,副腎皮質ステロイド薬を併用する.[亀井 聡]
■文献
Kamei S, Takasu T: Nationwide survey of the annual prevalence of viral and other neurological infections in Japanese inpatients. Internal Medicine, 39: 894-900, 2000.
Prasad K, Singh MB: Corticosteroids for managing tuberculous meningitis. Cochrane Database Syst Rev, Jan 23(1): CD002244, 2008.
Thwaites G, Fisher M, et al: British Infection Society guidelines for the diagnosis and treatment of tuberculosis of the central nervous system in adults and children. J Infect, 59: 167-187, 2009.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「結核性髄膜炎」の解説

結核性髄膜炎
けっかくせいずいまくえん
Tuberculous meningitis
(感染症)

どんな感染症か

 結核菌の感染によって生じる髄膜炎で、現在でも死亡率の高い病気です。約2週間の経過で頭痛、発熱、意識障害が進行し、失明、難聴水頭症(すいとうしょう)などの重い後遺症を残すことが多い難治性疾患で、早期に適切な治療が必要です。

 ほかの細菌性髄膜炎と比べ、亜急性(あきゅうせい)の発症・経過で、脳底髄膜炎(のうていずいまくえん)を示すことが多い病気です。

 粟粒(ぞくりゅう)結核の75~86%に発症します。以前は主に小児の疾患でしたが、現在では成人や老人が大半を占めるようになりました。

症状の現れ方

 亜急性の発症で、頭痛・嘔吐、発熱などの症状で始まります。とくに発熱と強い頭痛が特徴です。この頭痛はこれまでに経験したことのないような強い痛みで、頭全体ががんがんします。患者さんの首は硬くなり、下を向きにくくなります。進行すると意識障害が現れ、さらに髄膜脳炎(視力障害、動眼(どうがん)神経障害、外転(がいてん)神経障害などの脳神経障害、けいれん症状を示す)を併発します。

検査と診断

 白血球増加、ツベルクリン反応陽性(陰性の場合もある)、胸部X線異常(肺に原発感染(そう)がある場合)や粟粒性結核所見、縦隔リンパ節腫大などを認めます。髄液の所見では、圧の上昇、単核球(たんかくきゅう)優位の細胞数増加、蛋白の上昇、糖の低下(20~40㎎/㎗)、アデノシンデアミナーゼ(ADA)の増加がみられます。

 結核菌の塗抹(とまつ)、培養も行われます。PCR法による菌DNAの検出は迅速で、感度、特異性とも高くなっています。

 頭部CTおよびMRI検査では、くも膜下槽(まくかそう)の増強効果がみられ、進行すると水頭症梗塞巣(こうそくそう)の合併、結核腫(けっかくしゅ)の形成などもみられます。

 患者さんをあお向けにして頭をそっと持ち上げると、抵抗があり、硬く感じられます。これを項部硬直(こうぶこうちょく)と呼びます。

 診断には髄液所見が重要で、結核菌が検出されると確定診断されます。髄液塗沫陽性率は20~30%、培養陽性率は40~80%です。肺結核やツベルクリン反応などの所見、頭部画像所見なども参考にされます。

治療の方法

 早期に治療を始めることが大切で、結核菌検出の結果を待たずに、イソニアジド+リファンピシン+ピラジナミド+ストレプトマイシンまたはエタンブトールの4剤を併用した治療を開始します。のちに、分離された菌の感受性をみながら処方を変更します。

 重症例では、炎症や浮腫(むくみ)の軽減を目的に副腎皮質ステロイド薬を併用します。水頭症が合併した場合は、脳室手術やシャント手術が行われます。

 診断や適切な治療開始が遅れると、予後はきわめて不良で、しばしば死に至ります。死亡率は20~30%で、約25%は後遺症が残るとされています。

 乳幼児にBCGワクチンを接種すると結核予防効果があり、とくに結核性髄膜炎を予防できるとする根拠があるので、世界的にBCGワクチンの接種をすすめています。

病気に気づいたらどうする

 結核専門医のいる病院(とくに国立病院機構の呼吸器専門病院など)を受診し、相談する必要があります。

関連項目

 肺結核肺炎膿胸

岡田 全司


結核性髄膜炎
けっかくせいずいまくえん
Tuberculous meningitis
(脳・神経・筋の病気)

どんな病気か

 亜急性に発症することが特徴で、病理所見では、髄膜の混濁、肥厚(ひこう)がみられ、その変化は脳底部(のうていぶ)で強く、脳底髄膜炎とも呼ばれます。

原因は何か

 発症は主として、体内の他の部位の結核病巣からの血行性播種(けっこうせいはしゅ)粟粒(ぞくりゅう)結核)によります。病発巣としては肺結核の頻度が最も高いのですが、リンパ節、骨、腎結核などもあげられます。

症状の現れ方

 発病は比較的緩やかで、頭痛、嘔吐、発熱などが現れます。項部(こうぶ)(うなじ)硬直が認められ、脳底髄膜炎の進行とともに、水頭症(すいとうしょう)による脳圧亢進、意識障害や動眼(どうがん)神経、外転神経麻痺などの脳神経麻痺がみられます。

検査と診断

 ツベルクリン反応が陽性で、一部は陰性化します。クオンティフェロンも結核感染の有力な指標となります。胸部X線所見の異常は約半数で認められます。髄液圧は上昇、リンパ球、単球細胞増加、蛋白増加、アデノシンデアミナーゼ活性上昇などの所見がみられます。PCR法による結核菌ゲノム(遺伝子)の検出が迅速診断として有用です。頭部CT、MRI所見は脳底(そう)の異常所見、血管炎・水頭症の存在などが特徴的とされます。

 結核の既往歴の有無、胸部X線所見、頭部CT・MRI所見を参考にし、髄液からPCR法による結核菌ゲノム陽性、あるいは塗抹(とまつ)か培養検査で結核菌の存在を証明し、診断を確定します。

治療の方法

 結核性髄膜炎が疑われた時点から、イソニアジド0.4g/日(経口)、リファンピシン0.45g/日(経口)、ピラジナミド1.5g/日(経口)、ストレプトマイシン1g(筋注)の4剤を使います。重症例には副腎皮質ステロイド薬を投与することがあります。約30%の死亡率とされ、生存例の30%に後遺症がみられます。早期治療が重要です。

 長期間の治療になることが多く、抗結核薬の副作用(たとえば、ストレプトマイシンでは聴力障害)にも注意を払う必要があります。

病気に気づいたらどうする

 比較的緩やかな発症で、頭痛、嘔吐、発熱などがみられた場合は、神経内科、内科、小児科の医師に相談してください。

庄司 紘史


結核性髄膜炎
けっかくせいずいまくえん
Tuberculous meningitis
(呼吸器の病気)

 いったん結核性髄膜炎にかかると治療反応性が悪く、死亡するか重い後遺症を残すことが少なくありません。早期発見、早期診断が重要です。幸いにも年間発症は200例未満で、死亡例も30例未満と少なくなってきています。もともと乳幼児・小児に多かったのですが、近年は60歳以上の人に多くなっています。

 結核菌が血液に乗って広まることにより発症しますが、初感染病巣から肺門リンパ節をへて静脈角リンパ節に浸潤(しんじゅん)して血流に入る型と、いったん治癒した病巣から血管内に入り込む型があります。中高年の発症者には、血液疾患、膠原病(こうげんびょう)、ステロイド薬を内服中など免疫不全の人が多いようです。また、欧米ではHIV感染者に合併しやすいと報告されています。

 発病初期には倦怠感(けんたいかん)、食欲不振、発熱、頭痛、嘔吐、精神症状が現れやすく、次いで、水頭症(すいとうしょう)によって脳圧が高まって脳浮腫を起こし、意識障害、運動障害、片麻痺(かたまひ)不随意(ふずいい)運動、けいれん、足の痛み、知覚障害、膀胱直腸障害などを示します。

 髄液(ずいえき)中に結核菌を証明することで診断できます。また、髄液中のリンパ球の増加、蛋白量の増加、血糖値の低下、アデノシンデアミネース(ADA)値の上昇も参考になります。脳CT、MRIで水頭症の存在や脳底部髄膜肥厚(のうていぶずいまくひこう)脳梗塞(のうこうそく)の所見がみられます。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「結核性髄膜炎」の解説

けっかくせいずいまくえん【結核性髄膜炎 Tuberculous Meningitis】

[どんな病気か]
 結核菌の感染による髄膜炎で、乳幼児に多くみられますが、成人でもまれではなく、肺結核の初期感染に引き続いておこるのが一般的です。
 早期治療が予後を左右します。完治するのは約30%と、今でも死亡率が高く、命をとりとめても高度の後遺症(てんかん、知能障害、運動障害など)を残すことの多い予後の悪い病気です。
[症状]
 乳幼児は、不機嫌、食欲不振、元気がないなどの症状で始まり、発熱、けいれん、嘔吐(おうと)などがおこります。成人は、微熱、体重減少、頭痛のほかに、精神状態の変化、異常行動、神経症状で始まることもあります。
 ほかの細菌性髄膜炎に比べ、症状は比較的徐々に現われます。
[治療]
 抗結核薬の使用とともに、細菌性髄膜炎に準じた治療(「細菌性(化膿性)髄膜炎」)を行ないます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「結核性髄膜炎」の意味・わかりやすい解説

結核性髄膜炎 (けっかくせいずいまくえん)

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の結核性髄膜炎の言及

【小児結核】より

…乳児期や幼児期前半では初期結核症の数ヵ月以内に脳に菌が入ることがある。脳を包んでいる髄膜の炎症があるので結核性髄膜炎というが,症状は微熱,嘔吐,頭痛で,しだいに増強し,嘔吐は頻発し,痙攣(けいれん),ついには意識障害をきたす。治療で半数以上は軽快するが,治療が遅れると予後は悪く,生命をとりとめても知能障害や麻痺などを残す。…

【髄膜炎】より

…大腸菌性髄膜炎は生後3ヵ月までの乳幼児に多くみられる。
[結核性髄膜炎tuberculous meningitis]
 本症は通常の細菌による髄膜炎と異なり,髄液所見はむしろ軽いが,経過はより遷延し,死亡率はより高く,治療はより困難である。多くは肺,ときにリンパ節や腎臓などの結核病巣から二次的に発症する。…

※「結核性髄膜炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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