日本大百科全書(ニッポニカ) 「総効用」の意味・わかりやすい解説
総効用
そうこうよう
total utility
効用とは、財やサービスを消費することによって消費者が得られる満足のこと。財は単一のケースもあるし、複数の財によって効用が得られるケースもある。とくに、複数の財から得られる効用を総効用ということが多い。
財の消費量によって効用が決定されることから、効用は財の消費量の関数、すなわち効用関数となる。財を1種類として、横軸に消費量、縦軸に効用をとると、効用関数をグラフで表すことができる。このグラフは右上がりであるが、その傾きは徐々に小さくなるという性質(限界効用逓減(ていげん))をもつと仮定するのが普通である。
効用関数の変数として、すなわち総効用の決定要因として、分析の必要性に応じて、さまざまな仮定が置かれる。たとえば、価格が高いほうが効用は大きいといった顕示的消費(ベブレン効果)を分析するためには、変数として、消費量以外に価格が含まれる。また、アナウンスメント効果(バンドワゴン効果)などのように、他者の消費量が自分の効用に影響を及ぼすケースでは、変数として、他者の消費量を考慮する。また、所得が効用関数に入るケースもある。いずれのケースでも、効用は財の最終消費量や所得の絶対額に依存して決まると考えられている。
以上が、通常の経済学での効用関数(総効用)であるが、行動経済学ではすこし違う仮定が置かれ、効用は利得と損失によって決まる価値関数によって表される。特徴は、第一に、参照点に依存することである。参照点依存性とは、価値は、最終状態ではなく、ある基準(参照点)からの変化によって判断されることである。たとえば、昨年の消費水準や所得水準を参照点として、今年がそれよりよくなればプラスの価値(=効用)が生じ、悪くなれば価値はマイナスとなる。したがって価値関数をグラフで表示すると、参照点を原点とする右上がりの部分と、左下がりの部分に分かれることになる。第二の特徴は損失回避性で、同じ大きさの増加(利得)と減少(損失)を比べると、損失の価値の絶対値のほうが利得の価値よりも大きいと判断されるという意味である。したがって価値関数をグラフで表示すると、利得の価値を表す右上部分より、損失の価値を表す左下部分のほうが傾きが急となる。第三の特徴は、グラフの傾きがだんだんと減少することである。これは限界効用逓減と同じ性質であるが、行動経済学では感応度逓減性といわれる。
[友野典男 2015年12月14日]