出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
線維筋痛症は新たに現れた病気でなく、以前には別な病名で呼ばれていたものを、この病名に統一したものです。この病気の主な症状は、体の広範な部位に起こる激しい慢性の
診察では、体のある部位を親指で押さえると、疼痛が発生しますが、各種検査も含め明らかな異常のない原因不明の比較的頻度の高い難治性の病気です。日本では人口の約1.7%にみられ、おおよそ200万人の患者数とされており、男女比1対5~8、年齢30~50代と中年女性にシフトしています。
線維筋痛症と類似の病気として慢性疲労症候群(まんせいひろうしょうこうぐん)(コラム)がありますが、両者は相互に合併しやすく、日本では線維筋痛症の約3分の1に慢性疲労症候群の合併があるといわれています。
原因は残念ながら現在のところ不明ですが、痛みの原因は神経障害性疼痛のひとつとされ、痛みを伝える神経が異常に活動し、わずかな刺激で痛みを過剰に感じる痛みの神経の過敏(感作)状態によるとされています。
手術、けが、強い身体的・精神的ストレスなどが発病のきっかけとなり、また日常生活の大きな出来事が病気の経過に影響を与えます。
体のある部位に思い当たる原因もなく、しつこい痛みから始まり、やがてその痛みが体のあちらこちらに広がると同時に、激しい疲労感、落ち込んだ気分、不安感、口や目の渇き、頭痛・頭重感や不眠、めまい、下痢や便秘、しびれ、関節痛、全身のこわばりなど多彩な症状を伴って、病気として典型的となります。また、他の病気(リウマチなど)に付随して起こってくることもあります。
通常の血液や尿検査、脳波、心電図、X線検査、あるいはCT、MR画像などで明らかな異常がない、そのことがこの病気の診断の難しさにつながります。診断は一般的検査に異常がないことが前提となり、アメリカリウマチ学会の1990年の診断基準が世界的に用いられ、日本人に用いても正確な診断ができます。
すなわち、①体の広範な部位の原因不明の激しい痛みが3カ月以上持続ないし再発性にみられることと、②診察ではあらかじめ決められた体の特定の部位(18カ所:図4)を親指で4㎏の強さで圧迫されると、線維筋痛症患者さんでは11カ所以上に痛みを訴える(圧痛点の存在)こと、の2点が認められれば、線維筋痛症と確実に診断されます。
治療で重要なことは、確実な診断と病気を理解し、受け入れることです。欧米ではこの病気は古くから知られており、さまざまな薬物療法と非薬物療法が行われてきました。
根拠に基づく医療(EBM)の観点から、薬物療法では各種抗うつ薬と新型抗てんかん薬(抗けいれん薬)が確実な効果が得られます。これら薬剤は、うつ病やてんかん治療を期待するものでなく、神経障害性疼痛に有効だからです。
その他に抗不安薬、睡眠調整薬も併用されますが、日本ではノイロトロピンが基礎薬物として用られます。しかし、通常の鎮痛薬(非ステロイド系抗炎症薬など)は無効で、麻薬などは限界があるとされています。
非薬物療法では、精神療法としての認知行動療法と有酸素運動(エアロビック運動)が有効ですが、その他、
思い当たる原因がなく、体のあちらこちらに3カ月以上にわたる痛みとともに、疲労感、落ち込んだ気分など、痛み以外にさまざまな症状がみられた場合は、日本線維筋痛症学会線維筋痛症診療ネットワーク(http//jcfi.jp/)へ相談してください。
日常生活上の注意は、できるだけ、体を動かすことですが、翌日に疲労が残るほどの強さは避けなければなりません。また、過度の安静はかえって病状を悪化させるとされています。
松本 美富士
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
全身に及ぶ激しい疼痛(とうつう)が慢性的に繰り返され、重度の疲労感や倦怠(けんたい)感のほかに多様な症状を伴い、不眠など日常生活に支障をきたす疾患。病名は筋肉の痛み(筋痛)に由来するがその原因はいまだ不明で、筋線維の損傷のほか中枢神経系の異常が疑われており、ほかにストレスも誘因と考えられている。遺伝的素因も疑われ、リウマチなどの自己免疫疾患を伴うこともあるが致死的な疾患ではない。中高年のとくに女性に多く発症し、日本にはおよそ200万人の患者がいると推定されている。男女比は1:7~1:8ともされるが、日本においては男性の比率がこれよりやや高い。症状が類似する場合は自律神経失調症や不定愁訴、あるいは慢性疲労症候群などと診断されるケースもある。検査によっても組織の炎症など明確な所見が得られないため痛みの程度が理解されず、怠け病と誤解されてしまうこともある。痛みの程度はさまざまだが重度の痛みを伴うことが多い。痛みは全身あるいは特定部位におこり、その日の天候などの条件によって部位や程度が変化することもある。アメリカリウマチ学会の基準では、全身18の圧痛点を圧迫した場合に11か所以上で痛みを伴い、痛みが3か月以上続く場合に線維筋痛症と診断される。
重度の痛みのために不眠に陥ることが多く、ごくわずかな接触や環境の変化で激しい痛みを伴うようになり、各部のしびれも伴って自力で日常生活を営むことが困難となることもある。随伴する症状も多様で、全身のこわばり、関節痛や腫脹(しゅちょう)、疲労感や倦怠感および脱力感、抑うつ気分、自律神経失調症状、頭痛、下痢や過敏性腸炎、微熱、冷感や灼熱(しゃくねつ)感、ドライアイ、筋力低下、月経異常、むずむず脚(あし)症候群、判断力低下、記憶障害などを伴う。起立困難や歩行困難をきたすケースもある。特定疾患には指定されていないが、厚生労働省の研究班によって病因究明がすすめられている。治療としては、2011年(平成23)になって日本で初の線維筋痛症薬として、疼痛緩和に有効とされるプレガバリン(商品名リリカ)、ガバペンチン(商品名ガバペン)が保険適応を受けた。そのほか、症状にあわせて、睡眠薬や膠原(こうげん)病薬、向精神薬、消化器病薬などが、適宜処方される。
[編集部]
(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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