月経困難症とは、いわゆる生理痛のことです。月経時に下腹部痛、腰痛などの疼痛を訴え、仕事や学業などの社会生活が困難になることもあります。器質的な異常を伴わない機能性月経困難症(
機能性月経困難症の原因としては、月経時に子宮内膜でつくられるプロスタグランジンの産生過剰などが考えられています。プロスタグランジンは全身の
器質性月経困難症は
症状は月経に伴う下腹部痛、腰痛、頭痛、下痢、発熱、
疼痛症状の程度を評価するにはVRSとVASの2つの方法があります。
VRSでは、痛みを5段階に分け、
0.痛みは、ほとんどない。
1.痛みはあるが、日常生活は普通に行える。
2.痛みのために、日常生活に差し支えることがある。鎮痛薬(痛み止めの薬)をのめば、仕事や学校を休むことはほとんどない。
3.痛みのために、日常生活に支障を来している。鎮痛薬をのんでも仕事などを休むことが多い。
4.痛みのために動くのもつらく、1日中横になっている。
のように痛みの段階を典型化し、このなかから選びます。最近の日本の調査では、月経がある女性のうち、VRSで0から4まで頻度はおのおの、約22、46、27、4、2%でした。鎮痛薬を必要とするものが全体の約3分の1程度であることがわかります。
VASではまったく痛くないものを0、考えられるかぎりの最も強い痛みを10として、10㎝のスケールで自分の痛みに相当する部分にしるしをつけて評価します。
検査としては、内診、直腸診、超音波断層法などにより器質的疾患の有無を調べます。子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫、子宮の奇形の診断にはMRIが有用です。
また、子宮内膜症、子宮腺筋症が疑われる場合は、補助診断として血液中のCA125(腫瘍マーカーのひとつ)を測定することもあります。
器質的疾患が原因の場合は、その疾患の治療を行います。機能性月経困難症では、軽度であれば鎮痛薬の投与による経過観察でよいでしょう。
鎮痛薬としては主としてプロスタグランジンの合成阻害作用をもつポンタール、ロキソニン、ボルタレンなどの非ステロイド性鎮痛薬(NSAID)を月経前から投与します。漢方薬が有効な場合もあります。
さらに、程度の強いものに対しては、低用量ピルの投与により、月経量が減るのと同時に症状が改善することが多いようです。低用量ピルは器質的疾患を伴う場合にも有効なことが多いようです。
手術療法としては、腹腔鏡を使った
月経困難症は若年女性にはかなりの頻度でみられますが、年齢とともに、また、出産回数とともに減っていきます。
若年者は、市販の鎮痛薬で対処できる程度のものであれば様子をみてもよいと思われますが、痛みの程度が強い場合や、年齢が高いにもかかわらず月経困難が現れた場合は、産婦人科への受診が望まれます。
大須賀 穣
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
月経に随伴するさまざまな不快な症状を含めた一種の症候群で,骨盤痛,下腹痛,腰痛,悪心,嘔吐,下痢,不快感,緊張などの症状が,月経開始と同時に,またはその直前に開始し,月経終了前に消失するのが特徴である。臨床的に原発性月経困難症と続発性月経困難症の二つに分類される。前者は本態性ないし機能性月経困難症ともいわれ,種々の検査でも骨盤内に器質的病変がなく,最近では,子宮内膜でのプロスタグランジン産生亢進が原因と考えられている。初潮時の無排卵性月経では起こらないが,排卵性月経の開始当時からみられる続発性月経困難症は,子宮内膜症,骨盤内炎症,子宮筋腫,IUD(子宮内避妊装置)の接着が原因で,初潮以来数年ないし十数年後に発症する。
頻度では,原発性のものが圧倒的に多く,成熟婦人の約半数は程度の差こそあれ,月経困難症を訴えるが,そのうち薬剤を必要とするものが10~15%,鎮痛・鎮痙剤を使用しても学校や仕事を休まざるをえないものは約0.5~1%といわれる。
原発性月経困難症の治療としては,鎮痛・鎮痙剤の服用,排卵抑制法のほかに,プロスタグランジン生合成抑制作用をもつ非ステロイド性抗炎症剤が有効である。
執筆者:加藤 順三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
月経と同時、またはその前後にみられる下腹痛や腰痛をはじめ不快な月経随伴症状で、これが病的にひどく、日常生活に支障をきたし治療を必要とするようなものをいう。月経時の痛みは心因的なものもあり、およそ半数の女性にかなりの痛みがあるといわれる。月経困難症は次のように分けられる。
(1)原発性月経困難症は、子宮筋の過度の収縮に伴うところからけいれん性月経困難症ともいわれる。痛みは第1日目にひどく、若い女性では吐き気や嘔吐(おうと)を伴うこともある。分娩(ぶんべん)や加齢とともに軽快するといわれる。
(2)続発性器質性月経困難症の痛みは、月経開始前からおこり、月経開始とともに軽快または悪化する。原因は骨盤子宮内膜症、子宮筋腫(きんしゅ)、子宮周囲の組織の炎症などで、30歳以上の女性に多い。
(3)膜様月経困難症は、子宮内膜が袋状に一塊となって排出されるのに伴う痛みをいう。
治療はそれぞれ原因別に薬物療法や手術療法が行われる。
[新井正夫]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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[月経随伴症状の異常]
月経時および月経前の随伴症状が異常に強く,日常生活に支障をきたし,就床して鎮痛剤,鎮痙剤などを必要とする病的な状態である。これは月経困難症dysmenorrheaといわれるが,これには二つのものが含まれる。一つは月経開始と同時に発症するもので,これを狭義の月経困難症といい,もう一つは月経前7~10日から出現し,月経開始とともに消失するもので,月経前症候群という。…
…まったくみられない場合や,かえって気分爽快な場合もある。これらの症状は生理的なものであるが,症状が異常に強く,臥床を必要とし,日常生活が妨げられる場合には,病的で,月経困難症と考えられるべきである。また月経前にみられる病的なものを月経前症候群という。…
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[月経随伴症状の異常]
月経時および月経前の随伴症状が異常に強く,日常生活に支障をきたし,就床して鎮痛剤,鎮痙剤などを必要とする病的な状態である。これは月経困難症dysmenorrheaといわれるが,これには二つのものが含まれる。一つは月経開始と同時に発症するもので,これを狭義の月経困難症といい,もう一つは月経前7~10日から出現し,月経開始とともに消失するもので,月経前症候群という。…
…おもな症状は,筋腫が子宮に発生することからも理解できるように,子宮内膜からの周期的出血による月経の異常である。とくに過多月経(月経の量が多い),月経困難症(月経のときに下腹とか腰が痛い)が挙げられ,症状がひどくなると,月経の時期を問わず出血する不正子宮出血の形をとり,出血が多くて貧血の状態に陥ることもよくみられる。その他,筋腫が大きくなって,まわりの組織,膀胱あるいは骨盤の中の神経や直腸を圧迫するための症状が認められる。…
…腹部に充血を起こすような下剤や,刺激性の植物精油剤で,たとえばロカイ(ユリ科植物アロエの葉のエキス)やサフラン(アヤメ科植物)などがあったが,これらはしばしば人工流産を起こす目的でも用いられた。現在では,月経困難症について,その原因がいくつか明らかにされており,その原因を取り除くような治療が施される。状況によっては,時期を選んで女性ホルモンを投与することで次期月経を促進することもある。…
※「月経困難症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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