改訂新版 世界大百科事典 「縮充」の意味・わかりやすい解説
縮充 (しゅくじゅう)
milling
太番手の短い羊毛繊維を原料とする紡毛織物(たとえばフラノ)の風合いを決める重要な仕上げ法で,昔は縮絨と書いた。精練(毛織物では洗絨という)のあと,縮充機にかけ,酸,アルカリあるいはセッケン水溶液などの縮充剤で湿らせた布を機械的にもむ。これによって羊毛繊維は互いにからみあい,収縮して厚みが増し,糸から毛羽がでて,糸や布の組織が目だたなくなる。縮充後,再び洗絨するミルド仕上げと,縮充のあと起毛し,洗毛により表面を整えるフェイス仕上げとがある。縮充がおこるおもな原因は,羊毛繊維の表面に平たいクチクラ細胞がうろこ状に重なりあっているため,繊維の摩擦係数が毛先から毛根方向へ摩擦するときのほうが,逆方向に摩擦するときよりも大きく,このため,縮充中に機械的力を受けたとき,繊維は毛先方向へ非可逆的に運動するためである。このほかに,クチクラ細胞の弾性なども縮充性に影響を及ぼす。羊毛の繊維塊でも,毛糸でも,織物の場合と同様に水中で機械的作用を受け,密な構造に変わる。このような現象をフェルト化feltingという。ウサギの毛のような縮充性の乏しい硬い動物繊維に対しては,繊維を柔軟にして縮充性を高めるキャロッティングcarrotting(この処理でニンジンのような色になることによる命名)という予備処理をしてから縮充させてフェルトをつくる。細番手の長い羊毛を原料とする梳毛(そもう)織物(サージ,ギャバジンなど)では,一般には縮充を行わない。むしろ,製造工程中のフェルト化を防ぐため,防縮加工を行う。
執筆者:坂本 宗仙
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報