布の表面をひきかいて,毛羽を出す加工。必要に応じて,このあとブラッシングbrushingにより毛羽の方向をそろえたり,シアリングshearing(剪毛)により毛羽の長さをそろえる。フランネルやスエードクロス(皮革,皮)が代表的な起毛製品である。起毛により,独特の外観,柔軟・豊満な風合いが得られ,また,保温性を上げたり,糸や布の組織を隠し,柄物の輪郭をぼかすなどの効果が得られる。布を柔らかくする目的のため,裏側を起毛することもある。羊毛・綿などの短繊維編織物を起毛するほか,合繊長繊維編織物を起毛し,スパンライクspunlikeな外観あるいはスエード調外観のものも生産されている。最近は超極細繊維(0.3デニール以下)を用いた生地を起毛した薄起毛調(ピーチタッチ)素材が非常にソフトな触感と高級な外観をもつことから,コート,カジュアル・スポーツウェアの分野に用いられる。針金を植えたロールの表面に布を通して起毛させる針金起毛機は高能率で,最もよく用いられている。軽度の起毛効果を得るためには紙やすりemery paperを用いるエメリー起毛機が使われる。アザミの実を用いるアザミ起毛機は,ドスキンなどの高級品の起毛に用いられている。アザミの実は手作業の時代より起毛のために用いられてきた。
執筆者:坂本 宗仙
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
織物、あるいはメリヤスの仕上げ方法の一つで、その表面または両面に、組織された繊維をかき出して毛羽を起こし、生地を厚くするとともに、触感を柔らかくし、ときには保温力を増加させる方法。織物組織からみると、緯糸(よこいと)に甘撚(あまよ)りの糸を使い、表面に緯糸を多く出すように織ったのち、毛羽立ちさせるのが普通である。起毛するには、古くはアザミの実(チーゼルともいう)を使い、その刺(とげ)先で織物の表面を何回もこすって毛羽を立てた。
わが国でも、江戸後期に紀州(和歌山県)で盛んに織られた紋羽(もんぱ)などの綿織物を毛羽立てさせるために、松葉や縫い針を束ねて織物の表面をこすり、起毛する方法がみられた。近代に入って起毛機械は、アザミの実をドラムにはめ込んだあざみ起毛機と、起毛用針金を使った針金起毛機、ナイロンブラシ起毛機などを使っている。そして起毛工程には、乾燥起毛と湿潤起毛の2通りがあるが、湿式は乾式に比して起毛効果がよく、ネルや紡毛織物などに用いられるが、それぞれ目的に応じた適当な方法が使われる。
[角山幸洋]
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