義肢の一つで,切断された下肢の補充を目的として使用される。下肢の役割は起立,歩行が主であるから,義手の場合ほど複雑な機能を要求されない。しかし,切断者は義足を用いることによって,ただ歩行ができるだけではなく,正常歩行と変わらない歩容を獲得したいと考える。これは,いわゆる正常歩行が歩行者にとってエネルギー消費の点で,最も経済的であるため,切断者の義足歩行に対する当然の要求でもある。義足は切断の部位により,下腿義足,大腿義足,股関節離断用義足などがあるが,膝関節より上位のレベルで切断された場合のたとえば大腿義足では,ひざの操作がきわめて重要になる。かつては,過半数の下肢切断者が,いわゆる常用義足と呼ばれる,アルミニウム板をたたいて形を作り,それに皮をはったものを装着していた。この義足は,大腿義足の場合,外見上はひざの構造をもっているが,歩行のさいの膝屈曲がなく足底を地面から離すとき(遊脚期)には,棒足のようにして義足を外へまわす。したがって立位荷重の機能は十分でも,歩行においては特有の歩容をせざるをえないために歩行のエネルギー消費が大きい。ただ腰かけるときには,ひざの上部のボタンを押せばひざが曲げられるようになっている。また義足の重量を支えるために腰や肩から懸垂帯を用いて,義足がぬげ落ちることを防いでいる。これに対して最近では,同じ大腿義足でも吸着式ソケットをもったものが普及している。これは,プラスチックや木材を用いて切断部表面に密着させる形を作り,義足装着後は弁を閉じて陰圧効果により義足の脱落を防ぐことができる。膝機構も固定でなくて遊動膝とし,ある摩擦を与えて遊脚期のコントロールを行い正常歩行にほぼ近いものが得られる。また,大腿部,下腿部,膝機構をモジュール化して,骨格構造のものも用いられるようになった。さらに近年,マイクロコンピューターと小型電池を組み込んで,ほぼ人間なみの動きができる〈インテリジェント義定〉が開発されている。
→義肢
執筆者:岩倉 博光 義足はかなり古くから使用されたらしく,《リグ・ベーダ》には鎮痛薬にソーマを用いて義足を装着する技術があったことをうかがわせる記述がある。ギリシア・ローマにおいても前2世紀ころの壺に義足が描かれており,インドの外科術がアレクサンドロス大王の東征により地中海世界へ伝わった可能性が考えられる。義足の材料はおもに木であったが,戦闘で手足を切断された負傷者を救う技術として発達し,16世紀ころには金属でも作られるようになった。日本では,1868年(明治1)に歌舞伎俳優3世沢村田之助がアメリカに義足を注文し,最初の本格的な義肢使用者となった。文学では,《宝島》のシルバー船長,鯨の骨を義足にした《白鯨》のエイハブ船長などに見るとおり,幾度も死地を切り抜けてきた強者(つわもの)を印象づけるための小道具として用いられる。
執筆者:荒俣 宏
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…次に機能障害のために食事動作や更衣動作が障害されたり,歩行が不能であったりすると,これを能力障害という。たとえば下肢切断という身体障害によって歩行不能という能力障害を生じるが,適切な義足装着により歩行可能となった場合にリハビリテーションによって能力障害が軽減されたと考える。さてこの能力障害の内容は目的動作を社会的に拡大して考えると見方が変わってくる。…
※「義足」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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