老化指標と老化度

内科学 第10版 「老化指標と老化度」の解説

老化指標と老化度(加齢と老化)

 「老化指標」とは老化の進行を客観的に評価することに用いられる指標を指す.最もわかりやすく加齢を表す指標は暦年齢(chronological age)であるが,老化の指標の存在意義は,時間の経過(すなわち暦年齢)が老化に直接関係しているわけではない,という前提に基づいている.すなわち,ヒトの老化は必ずしも個々が同じスピードで起こるものではないことより,老化の進行の程度を判定するには暦年齢とは別の老化指標が必要になる.生物学的年齢(biological age)とは暦年齢とは別に加齢に伴う種々の臓器の機能の低下過程を反映し,身体機能低下から推定される年齢をいう.したがって生物学的年齢の指標になるのが老化指標と言い換えることができる.一方,老化度とは生物学的年齢の指標を基にした老化の程度をいう.
 American Federation for Aging Researchによると老化の指標は以下の事項を満たす必要があるとしている(Johnson,2006).①老化速度を予測するもので,暦年齢よりもすぐれた予測因子である必要がある.②病気の影響を受けず,老化の過程を反映するものでなくてはならない.③人体に有害な影響がなく繰り返し計測できる必要がある.④ヒトだけではなくマウスのような動物にも応用できる必要がある.しかし,アメリカの国立老化研究所で15年間以上の歳月をかけて,これに沿う老化指標を検討したが,この条件を満たすバイオマーカーは見いだされていない.
 なぜ,このような指標が必要なのであろうか.暦年齢は必ずしも個人の老化を反映していないと述べたが,個人の老化度を客観的に測定できるメリットは,老化度を進行させる(または抑制させる)因子の解明,老化速度への介入試験の評価,老年学分野の調査・研究対象者の老化度の標準化,生命予後の推定など計り知れない.今後日本をはじめ多くの国で高齢者の比率が増加することは明らかである.日本をはじめ多くの国々の研究所では,いかにヒトの老化を遅らせ健康で生産性のある時期を長くするか,は重要な研究目標の1つとなっている.ある介入を行ったことにより,そのヒトの暦年齢が変化するわけではなく,また死亡するまで待っていることは不可能である.そのために老化とともに変化するある普遍的な因子を同定することは非常に重要である.表1-5-3に霊長類の老化研究で使用され,ヒトでも使用できる可能性のある指標をあげた (Rothら, 2002).しかし,いまのところ生物学的年齢を正確に推定する単独因子は同定されていない.種々の臓器の老化(加齢に伴う機能低下)は同じスピードで起こるわけではなく,単一指標で個人の老化度を表すことが困難であることも指摘されているし,いまのところ具体的な生物学的年齢の推定法を示すにも至っていない.
 テロメアは染色体の腕の末端に存在する「TTA­GGG」というDNA塩基配列を反復する部分である.正常体細胞が分裂するたびに,このテロメア部分の一部が失われ,徐々に短くなってゆき,ある程度短くなるとDNAの連鎖を複製するだけの能力が失われ,細胞分裂は消息する.無限に分裂する能力を獲得した癌細胞はテロメアの短縮を補う酵素,テロメラーゼをもっている.このようにテロメアは正常体細胞分裂により短縮するため,この長さが老化指標になり得るのではないかと期待された.しかし,上記のAmerican Federation for Aging Researchの4つの基準をクリアするにはいまだ至っておらず,テロメアの長さが老化指標として使用できるかどうかの結論に至っていない.[葛谷雅文]
■文献
Johnson TE: Recent results: biomarkers of aging. Exp Gerontol, 41: 1243-1246, 2006.
Roth GS, Lane MA, et al: Biomarkers of caloric restriction may predict longevity in humans. Science, 297
: 811, 2002.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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