胎内くぐり(読み)たいないくぐり

改訂新版 世界大百科事典 「胎内くぐり」の意味・わかりやすい解説

胎内くぐり (たいないくぐり)

各地の山岳や霊地の行場で,狭い洞窟割れ目を通り抜ける場所に付けられた名称。修験者や行者,ないしはそれに率いられた信者たちは,山岳や霊地を他界または胎内とみて,その中を巡歴して修行し,いったん死んで生まれ変わる擬死再生の行を行ったが,胎内くぐりによってその観念を象徴的に実践して確認した。これによっていっさいの罪穢を捨て,肉体と魂を浄化し,新たに生まれ変わるという考え方を行動で示したのである。この考えの背景には,洞窟が一方では他界への入口とみなされ,他方では霊魂のこもる活力を復活する場として,神聖視されたことが関連している。月山東補陀落(ひがしふだらく),大峰山上ヶ岳の裏行場(うらぎようば)などが,その代表である。
洞窟
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「胎内くぐり」の意味・わかりやすい解説

胎内くぐり
たいないくぐり

現世(げんぜ)から狭いところを通り抜け、別の世界に生まれ変わることを表す呪術(じゅじゅつ)的行為。子供から大人へ、俗から聖へ脱皮累進していくイニシエーション儀礼(入社式)の一つ。修験道(しゅげんどう)の入峰修行(にゅうぶしゅぎょう)のなかには、行場(ぎょうば)の狭い洞穴(ほらあな)をくぐり抜けることがあり、仏教と結び付いた場合は、大仏などの胎内をくぐることによって、仏の恩愛を多く得ようとする。胎内くぐりの名称もこれに基づく。愛知県設楽(したら)地方の花祭りに、シラ山のなかをくぐる行為を胎内くぐりとよんでおり、火山の周辺にある風穴(ふうけつ)の所々に神社を祀(まつ)っているのも、また旧暦6月末の夏越(なごし)の祓(はらえ)に茅(ち)の輪(わ)をくぐり、身の罪穢(けが)れを祓(はら)い落とす行事も、すべて一連の行為である。

[井之口章次]

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世界大百科事典(旧版)内の胎内くぐりの言及

【洞窟】より

…《道賢上人冥途記》は,941年(天慶4)に道賢(日蔵)が大峰山の笙(しよう)の窟で参籠中に,死んで冥途巡りをして蘇生した話を記し,洞窟が生と死の境にあり,修行者がそこにこもって山霊と交感し,霊力を身につけて再生して山を下る様相を示している。修験者が山を母胎に見立てて,山中の洞窟や岩の割れ目で行う胎内くぐりは,擬死再生を行為によって確証するもので,成年式の試練を果たす意味合いもあった。中世の《神道集》に載る諏訪の縁起である甲賀三郎の物語は,修験者によって担われたといわれる伝承で,妻を探して人穴から地中に入って放浪し,大蛇となって地上に戻り神としてまつられる話だが,大己貴(おおなむち)神の試練と放浪の神話とも呼応する。…

※「胎内くぐり」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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