脊髄外傷

内科学 第10版 「脊髄外傷」の解説

脊髄外傷(頭部外傷・脊髄外傷)

概念
 交通事故,高所からの転落,スポーツ外傷など,種々の原因による.胸腰部では長軸方向の外力が,頸部では過屈曲ないし過伸展が主たる機序として知られる.
診断・初期治療
 脊椎外傷は椎体圧迫骨折,椎体破裂骨折,脊椎脱臼,脊椎脱臼骨折,脊椎突起骨折,脊椎捻挫に分類される.脊椎脱臼では脊椎損傷を伴わないこともあるが,脊椎脱臼骨折では通常合併する.
 頭部外傷頸椎頸髄損傷の合併は報告によって1.2~19%とばらつきがあるが,頭部外傷のために意識障害があったり,他臓器損傷でショック状態にある場合などに,それが否定されるまでは頸髄損傷を含めた脊髄損傷の可能性を念頭におき移動にあたっては脊柱を中間位として体幹と一体にして扱う.
1)脊髄損傷時のバイタルサイン:
C4より頭側の損傷にて,無呼吸または胸鎖乳突筋,僧帽筋の動きのみとなり,C5からC8の損傷では肋間筋が麻痺し,横隔膜のみの腹式呼吸となる(図15-15-4).脊髄性ショックは高位からの交感神経遮断により,受傷レベル以下の心血管系の代償反応喪失によって生じる.Th1~L2の交感神経遮断により一般的に収縮期血圧60~80 mmHgで,しばしば患者の移送ないし体位変換時にショックが生ずる.C8以上の脊髄損傷においては,同約40 mmHgの著しい低血圧と特にTh1~Th4から心への交感神経の遮断による徐脈とが特徴的である.
 多発外傷例において出血性ショックを伴うことがある.60/分以下の徐脈であれば脊髄性ショックを,100/分以上の頻脈であれば出血性ショックを疑う.脊髄損傷に伴うショックの病態は神経原性ショックであるので,肺浮腫,不整脈を伴うこともある.
2)神経学的所見:
損傷レベル,完全麻痺か不全麻痺か,さらに,脊髄前部,中心性,半切(Brown-Séquard症候群),脊髄後部障害かを判定するために表在ならびに深部感覚,運動障害,錐体路徴候をみる.sacral sparingは不全麻痺を知るのに役立つ.意識障害患者において,肛門反射,球海綿体反射のチェックは簡便で有用である.
3)画像診断:
椎体の配列,変形,ならびに棘突起間や椎体前面の軟部組織の拡大をみる.中心性脊髄損傷はしばしば骨傷が認められないことが特徴とされ,その際,咽頭後壁と頸椎椎体前面との距離(正常は7 mm以下),気管後壁と頸椎椎体前面との距離(正常は成人22 mm,小児14 mm以下)の拡大があれば,頸椎に強い外力の加わった傍証となる.また,外傷以前に存在する脊椎管狭窄症,変形性脊椎症などが病態に関与することは決して少なくない.脊椎3D-CT,MRIが有用である.
外科的および内科的治療
 神経原性ショックに対しては,適度の輸液カテコールアミン投与が必要となり,徐脈に対し,アトロピンが用いられる.頸椎脱臼骨折などがあれば脊髄の二次性損傷を予防するために,早期に頭蓋牽引法により整復を試みる.不全麻痺でこれが進行性であれば,できるだけ速やかに脊髄の除圧術を行う適応となる.脊髄への圧迫,脊髄自体の腫大がなければ減圧術の必要はないが,不安定損傷に対して内固定または外固定を行う.これにより早期からのリハビリテーションを計画する.脊髄浮腫に対する薬物療法では,マンニトールなどの浸透圧利尿薬が知られている.
合併症
 呼吸器・尿路感染症,褥瘡深部静脈血栓症,肺梗塞,麻痺性イレウスなどが知られている.[三宅康史・有賀 徹]
■文献
重症頭部外傷治療・管理のガイドライン改訂第3版.神経外傷,医学書院,東京,2013
.日本外傷学会外傷初期治療ガイドライン改訂第4版編集委員会:外傷初期診療ガイドライン.JATECTM改訂第4版,へるす出版,東京,2012.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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