改訂新版 世界大百科事典 「国税犯則取締法」の意味・わかりやすい解説
国税犯則取締法 (こくぜいはんそくとりしまりほう)
国税(本法では,関税・とん税を除いたものをさす)の犯則事件について,特別の調査手続を定めた法律。前身は1900年制定の間接国税犯則処分法であり,間接国税に限り特別の調査手続を定めていたが,48年7月の改正で,直接国税の犯則の調査にも適用することとされ,法律名も改称された。なお,地方税法は,地方税の犯則事件について,国税犯則取締法の規定を準用することを定めている。犯則事件の調査は収税官吏(国税査察官など)が行い,警察官は,収税官吏の求めに応じてこれを援助するにすぎない。収税官吏は,犯則嫌疑者もしくは参考人に質問し,これらの者が所持する物件,帳簿,書類等を検査し,任意に提出された物を領置できるし,裁判官の許可を得て臨検,捜索または差押えをすることもできる。収税官吏は,直接国税(法人税,所得税,相続税等)に関する犯則事件の調査により,犯則があると思料するときは告発の手続をしなければならない。この告発がなくても,検察官は公訴を提起できるが,実務上,収税官吏の告発のない直接国税脱税犯について公訴が提起されることはほとんどない。告発があった事件のほとんどは公訴を提起されている。間接国税犯則事件について,犯則の心証を得たときは,通告処分が行われ,犯則者が通告の旨を履行しないとき,告発の手続が行われる。犯則者が通告の旨を履行する資力がないときや,情状が懲役に処すべきものと思料するときなどは,ただちに告発しなければならない。間接国税犯則事件の告発は,公訴提起の条件となる。犯則事件を告発した場合,差押物件などは検察官に引き継がれ,検察官が刑事訴訟法の規定により押収した物とされる。
最高裁は,国税犯則調査手続は一種の行政手続であって刑事手続(司法手続)でないとするが,実質的には,租税犯処罰を目的とする犯罪捜査手続としての色彩を有することも否定できない。最高裁大法廷も,刑事手続以外の手続でも,刑事責任追及のための資料収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には,憲法35条1項(住居の不可侵,所持品等の保障)や38条1項(不利益供述の強要禁止)の適用ないし準用がありうることを認めている。
→租税犯
執筆者:板倉 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報