改訂新版 世界大百科事典 「腸管ポリープ」の意味・わかりやすい解説
腸管ポリープ (ちょうかんポリープ)
intestinal polyp
腸管内腔に突出する限局性腫瘤(ポリープ)の総称。粘膜上皮に由来することもあり,粘膜下腫瘍によることもある。したがって形態も多様で,球状で茎をもって移動するものから,茎のない半球状や,ごくわずかな高まりを示すものまである。大きさも管腔をふさぐほどの大きさに及ぶものまである。単一のこともあり,多発のこともある。100個以上多発する場合,ポリポーシスという名称が用いられる。腫瘤を構成している組織により,腫瘍性と非腫瘍性とに分ける。腫瘍性は上皮性と非上皮性に分類され,さらに良性と悪性とに分類される。上皮性悪性腫瘍は癌であり,非上皮性悪性腫瘍が肉腫である。したがって,組織像が明確となった時点でそれぞれの名称で呼ばれる。良性非上皮性腫瘍は一般に粘膜下腫瘍といい,良性上皮性腫瘍は腺腫と呼ばれる。ポリープはこの腺腫であることが多いので,ポリープの別称のように使われたことがあった。非腫瘍性のものには,炎症に由来するもの,組織の構成異常によるもの,その他が含まれている。ここでは腺腫と非腫瘍性ポリープ,ポリポーシスについて述べる。
腺腫adenoma
粘膜の主要構成成分である腺管の上皮細胞の腫瘍性増殖によるもので,腺管のみの増殖からなる腺管腺腫,粘膜表層上皮の増殖によって生じる絨毛(じゆうもう)腺腫,その混在型が存在する。混在型を乳頭腺腫と呼称したこともあったが,現在は腺管絨毛腺腫という。実際には腺管腺腫が最も多く,絨毛腺腫が最も少ない。原因は不明であるが,欧米に多く,欧米に移住した日本人にも欧米人と同等に認められることから,食事・環境の変化,ことに脂質・タンパク質摂取量の増加と関連が深いと考えられている。腸管の腺腫,ことに大腸の腺腫は中高年の男に多く,直腸,S状結腸に好発する。大きい場合に一部に癌が存在する可能性がある。腺腫内癌といい,腺腫の癌化に関する論議が続いている。通常,腺腫の大きさが1cmを超えると低頻度ながら癌が認められ,2cmを超すと約半数に認められ,その多くが粘膜より深層へと浸潤している。したがって小さいうちに切除することが治療上必要であり,大腸ファイバースコープを用いて切除するのが一般的である。このような内視鏡を用いての切除は,腺腫も含めてポリープ全般に適用しうることから,内視鏡的ポリペクトミーと呼ばれる。
非腫瘍性ポリープ
過誤腫性ポリープ,炎症性ポリープ,化生性ポリープなどがある。腫瘍性増殖を示さず組織の構成異常が原因となって生じるものを過誤腫性ポリープhamartomatous polypという。このなかには若年性ポリープとポイツ=ジェガース症候群がある。若年性ポリープは幼小児に好発するが成人にも認められる。血便が主症状であり,ポリープが肛門から脱出することもある。表層上皮の剝離(はくり)や囊胞状に拡張した腺管など,特徴的な所見が顕微鏡的にみられる。腺腫とは異なり,癌化する危険はない。治療は腺腫と同様,大腸ファイバースコープでポリペクトミーをする。炎症が原因で発生するものを炎症性ポリープinflammatory polypという。潰瘍性大腸炎,クローン病,腸結核などの炎症に伴って出現する。潰瘍が多数広範に存在すると,島状に残った粘膜がとびだしてみえるため,仮性ポリープまたは偽ポリープと呼ばれたこともある。潰瘍が治癒した後も存続することがあるが,本来の粘膜構造を示すことが多い。そのほか,腺管の過形成で生じるものを化生性ポリープmetaplastic polypという。腺腫へ発展する可能性はないと考えられている。
ポリポーシスpolyposis
100個を超すポリープをポリポーシスといい,2個以上100個未満を多発ポリープという。しかし,通常は100個に満たない多数個に対しても慣用的にポリポーシスと呼んでいることがある。大腸腺腫が無数に多発することがあり,大腸腺腫症という。常染色体性優性遺伝をし,家族発生することが多いために,従来,家族性ポリポーシスfamilial polyposisの名で呼ばれている。個々の腺腫は直径5mm以下であるが,1万個以上あるため密生状態となる。まれに1cm以上のものが混在する。腺腫は多くは腺管腺腫であるが,絨毛腺管腺腫や絨毛腺腫も少ないながら存在する。これらの腺腫に高率に癌を合併する危険があり,早期に全大腸切除が必要となる。この状態に骨や軟部組織の腫瘍を伴うものをガードナー症候群として区別していたが,外見上変化のない大腸腺腫症にも高率に骨腫などが発見され,両者は同一であることが確認された。また大腸腺腫症は胃,十二指腸にもポリープを合併しており,小腸にも認められる。
このほか,ポリポーシスを呈するものは炎症性ポリポーシス,クロンクハイト=カナダ症候群があり,ポイツ=ジェガース症候群も通常含まれる。きわめてまれながら,若年性ポリポーシスや化生性ポリポーシスの報告もある。
執筆者:酒井 義浩
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報